第2話

チャマが出征すると聞いたのは、今から一週間前、五月の半ばのことだった。


もう何年も続いてる、世界規模の戦争。

日本が中国に攻め入ったり、アメリカやイギリスがそれに反撃してきたり、ドイツが降伏したり、噂ではロシアも敵方にまわったとか…


俺は藤原家の長男で、本家の跡継ぎだからという理由で、兵役を免れている。

チャマも長男だけど、直井家自体が分家だから。…だから?



直『だから、行かなきゃいけないんだって。朝鮮半島から中国に入る部隊だって』



何だよそれ。分家とはいえ、跡継ぎの長男は兵隊にとらない、それが国の基本方針だったろ?

そんなこと言ってられないくらい、戦況が悪化してるってことか?

だとしたら、そんな絶望的な場所にチャマを送り込むのか?



直『大丈夫だよ。俺はね、兵隊さんじゃないの。軍属の楽士として派遣されるんだ』

藤「…楽士…?」






これまで、俺たちは色々な曲を演奏してきた。

戦争が始まる前は、西洋の音楽に対する規制もなかったから、自由にバンドができた。


同じく幼なじみの升や増川と一緒に、ラジオから流れてくる曲を必死でコピーした。

畑仕事の合間に四人で練習して、近所の若者や子供に聞いてもらって。




戦争が始まってからは日本の音楽しか演奏しちゃいけなくなったけれど、それでも近くの学校や軍需工場から招かれては、童謡や行進曲などを演奏した。


それが結構な額の稼ぎになって、それぞれの家計の足しになっていたのは事実。でも、それが。



直『軍需工場で演奏したのをね、たまたま視察に来てた陸軍省のお偉いさんが聞いてたんだって。戦場で士気を高めるための演奏要員って、わりと多いらしいよ』



…そんなつもりで演奏していたんじゃないのに。どうしておまえだけが?

おまえを戦場に送るために、俺たちは演奏してきたってことなのか?

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