とびらの少年~「扉の少女」外伝~

K・t

第一章 姉へのみちびき手

プロローグ

 森の中にある動物の集まり場。

 湖の水面に鮮やかに映るのは一人の子どもの姿です。


「本当にいいの? 戻れなくなるんだよ」

「もう決めたの」


 なおも止めようと説得するのを、声がさっと遮りました。

 決意を込めた瞳の少女は優しく笑って、両手を差し出します。

 小さな白い手。そのてのひらで、途方もなく重いものを掴み、抱えようとしていました。


「何かしたいの。――のために」


 不安は隠しきれず、唇が震えています。


「分かった」


 ゆっくりと頷いてみせた彼女の髪が風に揺れ、空気は空へと吹き抜けます。


「ありがとう」

「でも、一つだけ約束して。絶対、帰ってくるって」


 水面はまだ穏やかさを保っていました。

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