新年の宴

風馬

第1話

時は漢末、新年の華やかな宴会が洛陽で開かれていた。主役は、もちろん董卓だ。彼の腹は新年を祝う大皿料理と酒でますます膨れ上がり、その手には特注の金杯が握られている。


「李儒よ!もっと酒を持ってこい!」

董卓は酔いの勢いで叫び、足元の酒壺を蹴り倒した。


「閣下、それは五壺目ですぞ。新年から倒れるわけにはいきませぬ!」

軍師の李儒は、顔を引きつらせながら諫めた。しかし、董卓は全く聞く耳を持たない。


「李儒よ、お前の計略は天下一品だが、酒の飲み方を教えることだけはからきしダメだな!」

董卓は笑いながら再び金杯を掲げる。李儒は心の中で天を仰ぎつつ、次の策を練る。


その頃、厨房では


李儒は密かに料理長に指示を出していた。

「次に運ぶ酒には、少量の酔い覚まし薬を混ぜておけ。これ以上閣下に飲まれては宴会が崩壊する。」


だが、料理長が間違えて薬を倍量入れてしまったため、董卓は次の一杯を飲んだ途端に顔を真っ青にした。

「な、なんだこの味は!毒か!」


会場がざわつき始める中、李儒は冷静に言い放つ。

「閣下、それは天下に名高い新年の特製酒です。味わい深いと思いませんか?」


「むぅ……そうか、さすが李儒よ。わしの酒豪ぶりを試しておるのだな!」

董卓は誤解し、さらに大きく金杯を掲げる。そして、料理長が運んだ巨大な猪の丸焼きを一気に掴み、齧りついた。


酒乱の果てに


宴もたけなわになり、董卓の酔いは頂点に達していた。ついに椅子の上に立ち上がり、大声で詩を詠み始める。

「天が我を生み、この董卓を祝福したもう!おお、新年よ!」


その隣で李儒は頭を抱えていた。宴会の混乱をどう収拾するか、次の策を考えている。


だが、その時、董卓が急にふらつき、巨大な酒樽に突っ込んだ。樽の中で彼の声が響く。

「李儒よ!この酒樽、わしの新しい居場所にふさわしいぞ!このまま城に運べ!」


「……閣下。新年早々、洛陽の人々に話題を提供するのはいい加減にしてくださいませ。」

李儒はため息をつきながら、いつものように収拾役として動き始めた。


宴会は大混乱のまま幕を閉じたが、翌日には董卓が酔っ払ったまま「樽の中の英傑」として自慢話をするという、洛陽の笑い話が生まれることとなる。

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新年の宴 風馬 @pervect0731

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