第15話 僕は小説の展開に行き詰るが現実は進展した

 僕は部室で、机に突っ伏していた。

 すると不意に内田さんの声が、頭上で優しく響いた。

「佐藤君って、いま恋愛小説を書いてるんですって?」


 恋愛って単語に反応したのか? 田村さんと悠木さんが、獲物を狙うハンターのような目で、こちらを見詰めている。


「まぁ一様は、恋愛小説みたいなもんですけど……難しいですね」

 普段は小説の事を話さない僕だったが、内田さんの声に自然と答えていた。


「明後日の日曜日に、わたしとデートしてくれないかしら?」


「……?!」

 僕は驚きのあまり声が出ないという、貴重な体験をしていた。


「わたしとじゃ、ダメかなぁ?」

 内田さんは、上目遣いで僕の瞳を覗き込んでいた。


「そ、そんな事は、ありませんです。はいっ」

 僕は緊張のあまり敬語で話してしまうという、貴重な体験をしていた。


「じゃあ、約束ね。ついでに連絡先とか交換しましょ」


「は、はい。お願いします」

 陰キャの僕が、遂にお願いしてしまった。


(こんな僕の言動を、いったい誰が責められるというんだ?)


 内田さんの背後には、口をポカンっと開き切った、高橋さんの姿が目に映った。


「ところで、佐藤君は『ヨルアルク』のライブって関心あるかしら? せっかくチケット取れたから、ぜひ大切な人と一緒に行きたいと思ってるの」


「だ、大好きです。よく楽曲も聞いてます」


「じゃあ週末、楽しみにしてるわ。あとでメッセ送るから、ちゃんと見てね」

 内田さんは笑顔で、立ち去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る