第4話 消えた文化祭の衣装【解答編】

翌朝、生徒会室に集まった瑠奈と美羽は、事件の全貌を整理するため、改めて鍵と青い布切れ、証言内容を一つずつ見直していた。朝日が机に置かれた鍵を照らし、瑠奈の冷静な声が静まり返る室内に響いた。


「この鍵の動きが、すべての謎を解くカギになるわ。」


美羽はノートを片手に、昨日の聞き取り内容を読み上げた。


「奈々子さんは、夕方6時に鍵を理香さんに渡している。その後、田辺くんが夜、衣装室近くで足音を聞いているわけだけど、理香さんはその時間帯、どうしていたんでしょう?」


瑠奈は目を細めながら机を見つめた。


「田辺くんの証言と、理香さんが衣装室を管理していた時間帯に矛盾があるのは確かね。そして、体育館で見つかった布切れ……これをどう解釈するかがポイントになるわ。」


瑠奈は鍵を手に取り、指先で慎重に観察し始めた。鍵の表面には小さな傷がついており、その傷に気付いた瞬間、瑠奈の表情が少し変わった。


「この傷……昨日、衣装室のドアの周りでも見つけたものと似ているわね。つまり、誰かが無理やり鍵を使おうとした形跡がある。」


「無理やり……?でも、奈々子さんや理香さんはそんなことしませんよね?」

美羽は混乱した表情で問いかける。


「そうね。でも、無理やり使ったのが本物の鍵とは限らない。合鍵のようなものを使おうとした可能性が高いわ。」


「合鍵……でも、それを作れるのって内部の人じゃないですか?」

美羽の言葉に、瑠奈は静かに頷いた。


「そう。内部の人間で、鍵の形状や使い方を知っている人物。そして、文化祭の準備中に鍵を頻繁に使っていた人……それが理香さんと奈々子さんね。」


美羽はさらに考え込むようにノートをめくった。


「でも、犯人はどうして合鍵を使って、青いドレスを隠そうとしたんですか?」


瑠奈は布切れを手に取り、指先で感触を確かめながら答えた。


「それが、犯人の『動機』に繋がるわ。青いドレスを隠した理由……そして、それをわざと見つかるようにした意図。それがすべて明らかになれば、この事件は解ける。」


「先輩、ちょっと待ってください。ドレスが体育館で見つかったのって偶然じゃないですよね?犯人がそこに置いたのなら、何か伝えたいことがあったはずです。」

美羽が興奮気味に言うと、瑠奈は小さく微笑んだ。


「その通りよ、美羽。この布切れは『意図的に見つけさせられた』もの。そして、この布切れがここにあるという事実が、犯人の行動を完全に暴く手掛かりになる。」


瑠奈は机に広げた証拠品を見渡し、ゆっくりと立ち上がった。


「田辺くんの足音の証言、奈々子さんと理香さんの証言、そしてこの鍵と布切れ――すべてを整理すれば、犯人が何をしたかったのかが見えてくるわ。」


美羽は不安そうに瑠奈を見つめた。


「つまり、もう犯人はわかったってことですか?」


瑠奈は静かに頷き、冷静な口調で言った。


「ええ。犯人が誰で、なぜ青いドレスを消したのか、その全貌がね。」


午後、瑠奈と美羽は再び演劇部の部室を訪れた。そこで待っていたのは、副部長の奈々子と衣装係の田辺翔、そして部長の理香だった。瑠奈は静かに3人を見渡し、冷静な声で話を切り出した。


「さて、皆さん。青いドレスが体育館で見つかったことをご存知ですよね?」


3人は互いに目を見合わせ、困惑したような表情を浮かべた。瑠奈は続ける。


「この事件のポイントは、鍵と青いドレス、そして体育館での布切れです。特に、青いドレスを体育館に隠したのはなぜなのか。それが、今回の事件の鍵を握っています。」


「田辺くん、あなたは昨日の夜、衣装室近くで足音を聞いたと言っていましたね。でも、その時間に他の部員たちが誰もいなかったことは確認済みです。では、その足音を立てたのは誰だったと思いますか?」


瑠奈の質問に、田辺は汗を拭いながら答える。


「それは……本当にわかりません。でも、僕じゃありませんよ!」


「いいえ、田辺くん。あなたがその足音を立てた可能性が高いわ。」

瑠奈の鋭い視線に、田辺は一瞬怯む。


「え!?僕が!?そんな……!」


瑠奈は冷静に続けた。


「あなたは衣装係として、青いドレスがどこにあるかを把握しているはず。にもかかわらず、ドレスが体育館に移動したことを黙っていました。それは、あなたが何かを隠そうとしていたからじゃないかしら?」


田辺は目を泳がせながら何か言おうとするが、言葉が詰まったように黙り込んだ。


瑠奈は続いて、副部長の奈々子に目を向けた。


「奈々子さん、あなたは合鍵の存在を否定しました。でも、実際には衣装室の鍵には傷があり、誰かが合鍵を使おうとした形跡が残っています。それについて、何か心当たりはありませんか?」


奈々子は動揺を隠せない様子で答えた。


「い、いえ……私はそんなこと……」


「でも、奈々子さん。あなたが最後に鍵を管理していた時間帯に、ドレスが消えたのは事実です。もしかして、鍵を誰かに渡していませんか?」


奈々子は一瞬躊躇した後、目を伏せて答えた。


「……実は、理香に鍵を一度預けました。でも、それは短い間だけで……」


瑠奈の目が光る。


「つまり、理香さんが鍵を使って衣装室に入ることは可能だったわけですね。」


瑠奈は最後に部長の理香に視線を移した。


「理香さん、あなたが鍵を使って衣装室に入った理由を教えていただけますか?」


理香は動揺することなく、冷静な声で答えた。


「私はただ、リハーサルの準備を進めるために鍵を使っただけです。それがどうかしたんですか?」


「そうですか。でも、あなたが鍵を使った後に青いドレスが消え、体育館で見つかった。その理由を説明していただけますか?」


理香は沈黙したまま瑠奈を見つめていた。その視線にはわずかな緊張が混じっている。


瑠奈は静かに息を吐き、言った。


「理香さん。青いドレスを隠したのは、あなたですね。そして、それを体育館に移した理由。それが、この事件の全貌を明らかにする最後のピースです。」


美羽が息を飲み、理香は黙り込む。そして、部屋の緊張感は最高潮に達した。


演劇部の静けさの中、瑠奈は机に置かれた鍵と青い布切れに視線を向け、ゆっくりと語り始めた。


「理香さん、青いドレスを隠した理由、それは単なる嫌がらせではありませんね。あなたは何かを守るために、この事件を引き起こしたのではないですか?」


理香は沈黙を保ったままだったが、その手がわずかに震えているのを美羽は見逃さなかった。


「体育館に布切れを残したのも、わざと見つかるように仕掛けた意図があったはずです。理香さん、私たちに何を伝えたかったんですか?」


美羽の問いに、理香はついに口を開いた。


「……本当は誰にも気付かれたくなかった。でも、あのままだと取り返しがつかないことになると思ったから。」


「取り返しがつかないこと?」

瑠奈が促すと、理香は苦しそうな表情で真実を語り始めた。


「実は、あの青いドレス、制作費が予算を超えてしまって……。本当はもっと安く作る予定だったのに、デザインを凝りすぎて予算を超えてしまったんです。副部長の奈々子と私は、それを隠すために、予算の記録を改ざんしました。」


その言葉に、美羽は目を見開いた。


「そんなこと……!」


「でも、私はそれが間違いだと気付いたんです。隠し通すことで、演劇部全体に迷惑がかかるかもしれない。文化祭が終わった後、予算の不正がバレたら、部が廃部になる可能性だってあった。」


理香の声は震えていたが、その瞳には覚悟が宿っていた。


「だから、私はあえて青いドレスを消すことで、注意を引こうと思ったんです。ドレスがなくなれば、調査が始まる。そこで私が名乗り出れば、少なくとも自分の罪を告白するチャンスがあると思った。」


「それで、体育館に布切れを置いたんですね。」

瑠奈は静かに言った。


理香は頷きながら、涙をこぼした。


「本当にごめんなさい。でも、私はこれ以上嘘を重ねることができなかった……。」


瑠奈は理香の話を聞き終えると、少しだけ微笑んだ。


「理香さん、あなたの行動は確かに間違いだったかもしれません。でも、最後に真実を伝えようとしたその勇気は、演劇部にとって救いになったはずです。」


「でも……奈々子や他の部員たちにどう説明すればいいんでしょう……?」

理香は俯きながら呟く。


「正直に話しましょう。誰かが嘘を続ける限り、本当の意味での解決にはならない。文化祭までまだ時間があります。今なら修正も間に合うはずです。」


その言葉に、理香は深く頷いた。


「わかりました。全部話します。」


美羽も安心したように微笑み、「よかった……」と小さく呟いた。


事件は解決し、青いドレスは無事に衣装室に戻された。生徒会室で美羽が言った。


「先輩、今回は本当に色々と考えさせられる事件でしたね。でも、理香さんの気持ち、ちょっとわかる気がします。」


瑠奈は微笑みながら答えた。


「真実を隠すことは簡単に見えるかもしれない。でも、最後は必ず誰かの勇気が必要になるわね。」


その言葉が響く中、校内放送で聞き慣れたチャイムが流れた。その音に耳を澄ませながら、二人は次なる謎が待っていることを予感していた。


読者へのメッセージ


「今回の事件では、青いドレスの消失という謎の裏に隠された、理香さんの苦悩と勇気が描かれました。皆さんはこの事件をどう感じましたか?ぜひコメントでお聞かせください!

次回の『放課後ミステリークラブ』も、さらに難解な謎が登場します。お楽しみに!」

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