第18話
「はーい、委員長号令」
そんな声と共に教室に入ってきたのは担任の岬先生だ。担当は数学でバレー部顧問の二十七歳、独身。彼女募集中らしいがかなり趣味に生きているタイプなので、ビジュアルはそれなりなのになかなか難しそうだなと生徒に心配されていたりする。
挨拶の後、唐突な「ビッグニュースだぞ」という先生の言葉に、当然クラスはざわざわと浮き足だった。
何事かと続く言葉を待つと、特に引っ張るでもなく先生は転校生の存在を明かして更に続ける。
「まあ変な時期だけどな。家の都合ってやつだ。おーい、入れー」
その呼びかけを合図に、ガラリと古めの扉から入ってきたのは、人形みたいな美少年。
更にざわめく室内に、彼の声はしっかりと響いた。
「はじめまして、八重樫如月です。よろしくお願いします」
にこりと微笑って、天使が言う。教室内の盛り上がりは最高潮である。
けれどそんな空気の中で、私は何故かもやもやとした不思議な感覚に襲われていた。理由というのもあの顔、どこかで見た覚えがある気がするのだ。それも最近。
「どこだっけ…」
考えても考えても、記憶がぼんやりとしていて掴みきれない。
「俺の席、仁科さんの隣がいいです」
脳内を掻き回すようにして記憶をあれやこれやとさらっていると、ふと自分の名前が耳に入った。
「…え?」
今なんて言った?
『俺の席、仁科さんの隣がいい』?
ちょっと待って。訳がわからない。
こんな美少年は一度見たら忘れる訳がないのでもちろん初対面だ。
どこかで見た顔な気はするが、それは彼とは別の人間のはずだった。
「あ?仁科の知り合いなの?それなら末木、変わってやれ」
転校生が早くクラスに馴染めるようにするための配慮なのか、岬先生の判断は早かった。
そのひと言で私の右隣の席に座っていた末木は特に文句も抵抗もなく、あっさりと美少年に席を譲った。
「よろしくね、央華さん」
「……よろしく。…あの、」
誰ですか?
そう言葉にしようとした瞬間、八重樫くんが白くて細長い人差し指を口の前に立て、困ったようにはにかんだ。
「詳しいことはあとでね」
なんていうか、とても可愛い。これはかなり可愛い。
乙女ゲームのほとんどに一人はいる可愛い系男子が現実に現れた。もちろんありえない話ではあるが、本当にそう言われても納得できるほどの神々しいまでのビジュアルである。
綺麗な白い肌に影を落とすほどの長い睫毛が大きな目を縁取っており、すっと真っ直ぐに通った鼻梁に少し厚みのあるピンクの唇。ミルクティー色の髪は見るからにふわふわと気持ちよさそうで、甘い砂糖菓子みたいだ。
何よりも間近で見ると、その端正さがより眩しかった。まるで精緻に作り込まれた西洋人形のように、小さな頭に長い四肢。同じ人間とは思えないほど。
「…?央華さん、どうかした?」
「え、や、なんでもないよ」
馬鹿みたいに見惚れる私を変に思ったのか、不思議そうに尋ねてきた八重樫くん。その表情すら可愛くて、このままではまずい、変態になってしまうと自分を戒め、視線を無理矢理逸らした。
けれど直後に、ちょっと感じ悪かったかもしれないという不安がむくむくと湧き上がってきてしまい、次は逸らした視線を戻すべきかの葛藤が始まってしまった。
内心でひとりあれこれと考え出した時、クスクスと小さな笑い声が聞こえた。
つられて視線をそちらを向けると、やはり天使、もとい八重樫くんが可愛い笑顔でこちらを見ている。
「央華さん、予想通りの人だ。…悠人さんの溺愛っぷりは予想外だったけど……」
…悠人?
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