ep.4 私の友人と転校生

第17話

「央華‼︎何あの高級車!!」


 ようやく辿り着いた学校で、真っ先に声をかけて来たのは明るめの茶色の髪を頭の天辺で大きなお団子にしていた那由なゆだった。


 教室の扉を開けるなりものすごい形相で突撃されると、いくら友人といえど少し怖い。


 そして那由の質問に答えるならば、あの後、どれだけ自分で行きますと言っても引かなかった真山さんは、とにもかくにも必死だった。


『お願いですから送迎はさせてください!』


 それはもう、土下座でもし始めるのではないかと思う勢いで懇願された。


 そこまで頼まれて無下にする事もできず、そして正直車の方が楽といえば楽だということもあり、渋々ながら車で学校へ登校したのだ。


 案の定、住宅地にそぐわない高級車で学校付近に乗り付ける姿を周囲から好奇の目で見られたのは言うまでもない。


「なんであんな高級車に乗って来たの!?」

「や、あの…いろいろあってね。詳しいことは紗智さち美衣子みいこが来てから説明させて」


 朝からぐったりしている私の机の前で興奮気味に質問を投げかけてくる那由と、今はまだここに居ない紗智と美衣子は私の友達だ。


 那由と美衣子は高校に入ってからの、紗智は小学校からの。


 このクラスの女子は私達四人だけなので、この三人に隠し事は極力しない方がいい、というのが私の考えだ。


 三年間の内にクラス替えは一度も無い。そんな中で気まずくなったりしてしまえば、このクラスで平和に過ごすことが出来なくなるおそれもある。


「おはよー。…ん?どうしたの?」

「あっ!紗智!早く来て、早く!」

「何、何があったの?」


 急かす那由を見て困惑顏の紗智。

 リュックを席に置くなり那由に腕を引っ張られて私の前に連れて来られた。


「央華、何かあったの?」

「いや…そんなに騒ぎ立てずに聞いて欲しいんだけど」

「なんでよ!気になるものは気になるんだもん!あぁもう、美衣子まだなの!?」

「美衣子はいつもギリギリで滑り込んで来るじゃん」


 既に待ちきれない様子の那由に答えたのは私じゃなくて紗智。


「お〜はよぉ〜。あたし今日ちょっと早くない?」

「美衣子遅い!早くこっち来て‼︎」

「えぇ〜…絶対いつもより早いのにぃ。何ぃ、どしたのぉ?」


 那由の言葉に納得がいかないらしい美衣子だったが、ぶつくさ言いながらも私の前に立って首を傾げた。


「さ、話して央華!」


 急かされるままに私は昨日の出来事を簡潔に話した。


 意味のわからない借金が出来ていたことと、それをどうにかするために母が友人に相談したこと。


 その友人というのが極道の組長さんだということはさすがに暈したけれど、肩代わりしてもらったお金の代わりに私がその人の息子の元に嫁ぐことになったこと。


 そのまま昨日から悠人の家で暮らしているということまで、ざっくりと話し終えた。


 自分で説明してみても、なかなかハードな急展開だ。それを聞いた三人は案の定、何とも言えない呆然とした表情で固まっている。


「何か反応してよ。……お願いだから何か言って!」


 必死の私の訴えにようやく気づいたらしい紗智が、眉をひそめて問いかけて来たのは、


「で、どうなの?その悠人さんとの生活は。ちゃんとやってけそう?」


 だった。


 紗智の順応性が高いのは昔から知っていたが、まさかこんな突拍子もない話にも対応できるとは思っていなかった。


「でも確かに、それは気になるよね!悠人さんは央華の事、ちゃんと好きなの?」


 紗智に続けて質問を投げてくるのは那由だ。

 恋愛事には異常な興味を示す彼女がその辺りをスルー出来るはずがない。


「ん、まぁ、好かれてはいる…んだと思う……」

「何それぇ?はっきりしなぁい」


 相変わらず間延びした台詞は美衣子のもの。


 はっきりしないと言われても、人の気持ちの底の部分なんてそいそう覗けるものじゃない。


 悠人があんなに『おまえだけだ』と言ってくれていても、それだけが事実だなんてどうしても思えないのだ。


「ちゃんと愛されてるんじゃないのぉ?こんなとこにわかりやすくキスマーク付けてるしぃ」

「えぇ!?どこどこ!?」


 反応を示した那由に首筋を掴みかかるみたいに覗き込まれ、その直後に悲鳴が聞こえた。


「や、すごい!大丈夫、愛されてるよ央華!!」

「……あぁ、そう…」


 ひとりで盛り上がりだす那由を呆れ気味で見ている所にチャイムが鳴って、三人はそれぞれの席に散っていく。


 隠し事は面倒だからしない方がいいと思い、友人たちにすべてを打ち明けた訳だが、何故だろうか、疲労感がとてつもなかった。


 これは曖昧に暈して黙っていても良かったのかもしれない。

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