ep.3 彼の嫉妬と独占欲

第13話

「お、着替え終わったか?」

「うん」


答えながら馬鹿でかいテレビの前のソファに腰掛ける。


それほど間をおかずに朝食がテーブルに並べられた。トーストに半熟の目玉焼きとベーコン、それから私の好きなポタージュスープだ。


「わぁ、美味しそう」

「それは良かった。けど焼いただけだからな。スープはインスタント」

「だとしても、ありがとう」


インスタントですら面倒な場合もあるのはよく知っているので、本当にありがたさしか感じない。


冷めてはもったいないと思い、感謝を込めて丁寧に手を合わせた。


まずはと箸を伸ばした目玉焼きの半熟具合は完璧だ。


「うん、美味しい」


とろりと溢れる黄身を見て、悠人が私よりも料理が出来る可能性もありそうだなと、少し複雑な気分になったことはもちろん口には出さない。


「…悠人は食べないの?」


しばらく黙々と食べ進めていたのだけれど、そんな私を悠人はなぜか横からじっと見つめていた。


朝食には手をつけておらず、心なしか少し不機嫌に見える。


「いや、食べるけど…央華のその制服って矢野目工業だよな」

「うん。そうだよ」


答えた瞬間に不機嫌さが一際増した。重々しい圧すら感じるが、私にはさっぱり意味がわからない。


「学科は?」

「電子情報科だけど……何?」

「男ばっかじゃねえかよ」


ついには不機嫌を通り越してイライラし始めた。


確かに悠人の言う通り、私の通う矢野目工業は工業高校なだけあって男子生徒が全校生徒の三分の二を占めている。

ひと学年に多様な七学科が設置されており、その学科別でみると男女比はかなり極端になるのも事実だ。


私が籍を置く学科はクラスのほとんどが男子であり、女子は私を含めて四人だけ。

けれどその逆に女子だけのクラスもあったりと、かなりアンバランスな事になっているのだった。


「なあ、央華。おまえ転校しねえ?」

「するわけないでしょ。ばかなの」


何を真剣に提案してくるのかと思えば、どうしていきなり転校なんて話になるのだろうか。


「…なんでそんなクラスに居るんだよおまえ」

「興味あったから受験したんだけど」


舌打ちまで交えて問いかけてくる悠人は、やっぱり不機嫌極まりなかった。


朝からご飯が不味くなる雰囲気を出すのはやめて欲しい。


「何がそんなに不満なの?」


隣から発せられる無言の圧力に耐えかねて、呆れ気味に訊いてみる。


それに対して悠人は、


「そんなもん、おまえの周りに他の男が居ることに決まってんだろ」


と。

悠人が今現在、私を好きだということ自体はもう欠片も疑っていない。


あそこまで真摯に伝えられて信じないのは、さすがに疑心暗鬼になりすぎだ。


もちろん『悠人の言葉は嘘じゃない』という自分の勘を信じているというのも間違ってはいないが。


「この二ヶ月ちょっとの間も通ってたんだから、そんなこと言われても今更だよ」


だけどこれは───


「それはおまえがまだ俺のものじゃなかったときの話だ」


ちょっと独占欲が強すぎやしないだろうか。


「…別に仲いい男友達がクラスに居るわけでもないんだよ。必要なときしか話さないし、そんなに不機嫌にならないでよ」


しかしながら、そんな風に向けられる独占欲が、私はどうにも嫌いではないらしかった。

それどころか少し嬉しいくらいだ。


「怒らないで。本当に、何もないから」


首を傾げ、不貞腐れて俯いた悠人に視線を合わせる。


その瞬間、待っていたと言わんばかりに悠人の顔に意地の悪い笑みが浮かんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る