第3話
現実の恋愛よりもゲームの中の疑似恋愛の方が私に向いてる、という事を知ったのは中学二年の時。
小学生の頃から好きだった男の子に告白して、まんまとふられた私は、始めて乙女ゲームというものに手を出した。
もともと漫画好きで二次元への抵抗感が無かったのも災いしてか、攻略キャラの一人にあっさり心臓を持っていかれたのだ。
ゲームの中のプログラムは、プレイヤーを裏切らない。そういう風にしか出来ていない。
現実の愛だの恋だのには無い【絶対】を、ゲームの中の彼らはくれるから。
それがたとえ、命令されたプログラムであったとしても。
「それに全員顔が良いから…ハマっちゃうとやめられないんだよね…」
現実逃避だと言われてもそれが事実なのだから、特に不満も無かった。
恋愛していない人間を馬鹿にする風潮はいつでもあるものだけれど、すべての人が愛だの恋だのに一喜一憂して生きていかなければならないわけではないのだから。
(特別に愛されなくたって、人間生きてはいけるものだよ)
と、セーブデータをロードする音が鳴る室内に、突然玄関チャイムが響いた。
「何だろ。勧誘とかかな…」
ロードが完了したゲーム画面に後ろ髪を引かれつつも、ぱたぱたと玄関扉に向かう。
「はーい、どちら様で…」
勧誘なら即お断りだなと思いながらガチャリと扉を開くと、その直後に目に入ったものに言葉を失った。
「
ドアの向こうに立っていたのは一人の男だった。見上げるくらいの長身で、おそらく180cmは越えているだろう。
少しクセのある黒髪に、射抜くような漆黒の瞳。切れ長で少し吊り気味な目元と、男らしくしっかりとしながらも高く通った鼻梁に、妙に色気を感じる薄めの唇。
それらの美しいパーツが小さな顔の中にこれ以上なく完璧に配置されていた。
鍛えられているとわかる身体に真っ黒のスーツを纏っていて、スーツの下の黒いシャツは首元が開放的になっている。
そこから覗く鎖骨の上でシルバーのネックレスが輝いた。
「そう、ですけど…えっと、どちら様で…?」
「来い」
「えっ?ちょ…わぁっ!!」
視界が動き、身体が宙に浮く。
背中と膝裏に熱を感じ、自分が横抱き…いわゆる『お姫様抱っこ』されているのを理解した。
「やだ、待って、どこ連れて行くの⁉︎」
「大きい声出すな。近所迷惑だろ」
ばたばたと動揺している私を無視して、男はそのままボロアパートの外階段を淡々と降りていく。所々錆びた鉄の外階段に、高そうな黒スーツを着こなした綺麗な男。
誰がどう見ても似合わない。ミスマッチも程がある。
そんな事を内心では冷静に考えられた自分に少し驚きながら、大事な事に気がついた。
「や、ちょ…鍵!家の鍵かけないと!」
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