3分で読める短編ホラー

@ochamaru_1124

電子レンジ

大学生の悠斗(ゆうと)は、一人暮らしを始めて半年が経った。

夜型の生活にすっかり慣れ、深夜2時を過ぎてもゲームや動画を楽しむのが日課になっていた。


その夜も、ゲームの合間にインスタントラーメンを食べようとキッチンに立った。


ふと、電子レンジの時計が目に入る。


「00:00」


「あれ、時間がリセットされてる?」


引っ越してから一度も時計が狂ったことはなかった。


——まあ、停電か何かだろう。


そう思い直し、麺を茹でる間に時計を合わせようとボタンを押す。


しかし、どのボタンを押しても反応がない。


「壊れたのか……」


苛立ちながら再び画面を確認すると、数字が変わっていた。


「01:00」


「……え?」


悠斗が目を離したのは数秒だった。その間に時計が自動で設定された?


再度ボタンを押してみるが、無反応。


気味が悪くなったその瞬間——


ピッ——……ジジジ……


突然、レンジの内部灯がつき、回転皿が動き始めた。


もちろん何も入れていない。


悠斗は慌てて停止ボタンを連打するが、止まらない。


そして、レンジの画面に新たな数字が表示された。


「02:00」


「03:00」


「04:00」


——1秒ごとに、1時間ずつ進んでいる。


嫌な予感がした。次に「04:00」から「05:00」に変わると、画面に奇妙な文字が浮かび上がった。


「来る。」


悠斗は息を呑んだ。


——誰が? 何が?


次の瞬間、レンジが「チンッ」と鳴り、動作を止めた。


静まり返る部屋の中、悠斗は冷や汗を拭いながらドアを開けた。


中には何もない。


——いや、違う。


回転皿に小さな紙切れがあった。


震える手で拾い上げると、そこにはこう書かれていた。


「次..あなた」


「ふざけるな……」


怖さを振り払うように紙を丸めてゴミ箱に捨てた。


不気味な機械の誤作動だろう。そう自分に言い聞かせ、スマホを手に取る。


SNSで「電子レンジ 誤作動」で検索すると、似たような体験談がいくつかヒットした。


——深夜0時に電子レンジが勝手に動き出し、謎のメッセージが表示されるという話。


「都市伝説かよ……」


スクロールするうち、ある投稿が目を引いた。


「それが始まると、“音”が聞こえ始める。すぐに部屋を出ろ。」


「音……?」


その瞬間——


コン……コン……


背後のキッチンから微かな音が聞こえた。


まるで、誰かが電子レンジを指で叩いているような音。


心臓が凍りつく。


恐る恐る振り返ると、電子レンジのドアに何かが映っていた。


——白い顔がこちらを覗いている。


「嘘だろ……」


慌ててリビングに駆け込むと、電子レンジが再び「ジジジ……」と動き出した。


振り返ると、画面には新たなメッセージ。


「もうすぐ。」


その瞬間、部屋の電気が一斉に消えた。


暗闇の中、悠斗はスマホのライトを頼りに息を潜めた。


電子レンジの回転皿がガタガタと震えている音が、静寂の中で不気味に響く。


やがて——


ピンポーン


玄関のインターホンが鳴った。


こんな時間に? 誰が?


スマホでインターホンのカメラを確認する。


画面には誰も映っていなかった。


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


連打される呼び鈴。


次の瞬間、電子レンジの画面が明るく光った。


「開けろ。」


「いやだ……」


全力で布団に潜り込んだ瞬間、玄関のドアノブがガチャガチャと激しく揺れた。


鍵はかけている。入ってこられるはずがない。


カチャン。


鍵が開く音がした。


足音が玄関からリビングへと近づいてくる。


——コン……コン……コン……。


電子レンジの前で足音が止まる。


悠斗は震える体を必死に抑え、呼吸を殺す。


耳をすませると、電子レンジのドアが「ギィ……」と開く音がした。


——そして次の瞬間。


枕元で、電子レンジのアラーム音が鳴った。


「チンッ」


布団を引き剥がされる感触。


悠斗が悲鳴を上げる間もなく、何か冷たく重いものが顔に覆いかぶさった。


——電子レンジの中の闇に引きずり込まれるように、意識が途絶えた。


翌朝、悠斗の部屋を訪れた友人が警察に通報した。


玄関は内側から鍵がかかっていた。窓もすべて施錠されている。


しかし、悠斗の姿はどこにもなかった。


リビングの電子レンジのドアが開きっぱなしになっていた。


中には、焦げた紙切れが一枚。


そこにはこう書かれていた。


「おいしいね」


警察は事件性なしと判断したが、後日、この電子レンジを調べた修理業者が奇妙なことを口にした。


「このレンジ、内部の回転皿に指の跡が何十個もついていました。しかも……内側から必死にひっかいたような跡があったんです。」


その話を聞いた友人は青ざめ、後日SNSにこう書き残した。


「深夜0時に電子レンジが勝手に動いたら、その部屋から逃げろ。

それは、“向こう側”から誰かが来る合図だ。」


その投稿の直後、友人の部屋の電子レンジにも異変が起きたという。


「00:00」


そして、その画面にはこう表示されていた。


「次..あなた」

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