さかむけ
「痛っ……」
冬の乾燥した空気のせいか、指先の皮がめくれていた。翔太は無意識にその小さなさかむけを引っ張った。
ビリッ……
「うわっ、やっちゃった……」
小さな痛みとともに、指先からじわりと血が滲む。翔太は軽く息を吹きかけながら、めくれた皮を眺めた。
――こんな小さな傷、すぐに治るだろう。
そう思いながら、ティッシュで血を拭いて、特に気にせず過ごした。
次の日
朝起きると、昨日のさかむけが妙にズキズキと痛んだ。指を見てみると、傷口が赤く腫れている。
(ちょっと炎症起こしたかな……?)
気になったが、放っておけば治るだろうと考え、そのまま学校へ向かった。
しかし、授業中も傷の痛みは増していくばかりだった。
ノートを取ろうとすると、指先がピリッと痛む。見れば、めくれた皮膚が昨日よりも長く裂けている。
(え……こんなに長かったか?)
まるで、皮膚が勝手に剥がれていっているようだった。
授業が終わるころには、裂け目は指の第一関節にまで広がっていた。
三日目
傷口はさらに悪化していた。
いや、これはもう傷口とは呼べない。
さかむけの裂け目は指全体に広がり、まるで何かが内部から皮膚を押し広げているかのようだった。
「……ヤバいな、これ」
翔太はようやく異変に気づき、病院へ行こうと決意した。
しかし、痛みに耐えながら手を洗おうとした瞬間、
ズルッ
「え?」
翔太は自分の指を見て、凍りついた。
指の皮が、まるで剥がれた服の袖のように、第二関節までズルリと落ちていたのだ。
皮の下から覗いたのは、白く細長い指だった。
「な……に、これ……?」
翔太は恐る恐る、さらに皮を引っ張った。
ビリビリビリビリッ!
裂け目が広がるとともに、それはゆっくりと姿を現した。
それは……別の人間の指だった。
細く、真っ白な肌の指。関節が異様に長く、爪は妙に透き通っている。まるで翔太の体の中に、もう一人の手が埋まっていたかのようだった。
翔太は悲鳴を上げそうになったが、その指が動いた。
ピク……ピク……
自分の意志とは無関係に、白い指がゆっくりと折れ曲がり、翔太の手を掴もうとする。
「う……うわああああっ!!!」
翔太は恐怖のあまり、力任せにその指を引き剥がそうとした。しかし、指は次々と現れ、手の甲の下からも、手首の中からも、白い指が這い出してきた。
「やめろ……やめろ、やめろ!!」
必死に振り払おうとするが、指はすでに腕の方まで伸び、皮膚の下をゴリゴリと蠢きながら進んでいく。
翔太は狂ったように腕を掻きむしった。しかし、白い指はもう肩の方まで到達していた。
そして――
首の下で、ピクリと何かが動いた。
翔太は恐怖で声を失った。
次の瞬間、口の中から、白く細長い指がニュルリと飛び出した。
翔太は口を開けたまま、絶望に染まった目でそれを見つめた。
指は、唇を押し広げるようにゆっくりと動き、翔太の顔を内側から撫でるように這い回った。
そして、そのままズルリと長い腕が現れ……
誰かの手が、翔太の顔を覆った。
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