理想の相手
美里(みさと)は恋愛に疲れていた。何度も失敗を繰り返し、友人の結婚報告に焦りを感じる日々。そんな時、何気なく広告で見つけた出会い系サイトに心が動いた。
「運命の相手が、ここにいます。」
シンプルなキャッチコピーに惹かれ、登録してみることにした。アカウントを作成すると、プロフィール作成画面が表示された。
「あなたの理想の相手を見つけるために、できるだけ詳細に記入してください。」
「詳細」といっても、趣味や好きな映画のジャンル程度だろうと思っていたが、質問は異常に具体的だった。
・あなたがこれまで最も大切にした人の名前は?
・最も恐れているものは?
・今まで他人に隠してきた秘密は?
美里は不思議に思いつつも、「システムが高度なのかも」と軽い気持ちで答えた。数分後、画面に一人の男性が表示された。
名前は「亮(りょう)」といい、趣味や価値観が美里と驚くほど一致していた。メッセージを送り合ううちに、亮の親切でユーモアのある性格に美里はどんどん惹かれていった。
一週間後、亮から会いたいと提案された。彼は「すぐに会いたい」というわけではなく、「お互いをもっと知るために」と言ってくれたため、美里も安心して了承した。
待ち合わせ場所は人気のカフェだった。しかし、当日になって亮からメッセージが届いた。
「急な用事でカフェに行けなくなった。近くの公園なら少しだけ時間が取れるけど、大丈夫かな?」
美里は少し不安を感じたが、すでに家を出ていたため、その提案を受け入れることにした。
公園に到着すると、亮らしき男性がベンチに座っていた。プロフィール写真よりも少し疲れた様子だが、それでも彼であることに間違いなかった。
「美里さん?」
「はい、亮さんですよね?」
会話はぎこちなく始まったが、徐々に打ち解けていった。しかし、美里は途中で奇妙な違和感を覚えた。亮の話す内容が、まるで彼女の頭の中を見透かしているように的確だったのだ。
「どうしてそんなに私のことを知ってるんですか?」
亮は微笑んだが、その笑顔には何か冷たいものがあった。
「美里さんが全部教えてくれたんじゃないか。」
「え?」
亮はスマホを取り出し、美里がサイトに入力した質問の答えを一つ一つ読み上げ始めた。
「最も大切にした人、最も恐れているもの、そして隠してきた秘密……全部ね。」
美里はその場から逃げ出そうと立ち上がったが、亮は驚くほど素早く彼女の腕を掴んだ。
「どこに行くんだい?僕たちは運命の相手なんだろう?」
亮の顔は次第に歪み、その目は人間らしい感情を失っていった。まるで人間を模した何か別の存在のようだった。
「この世界には、君が求めた理想を完璧に叶える存在なんていないんだよ。でも、僕は作られたんだ。君のためだけに。」
「作られた……?」
亮の手が冷たくなり、次第に硬くなっていく。彼の肌はまるでプラスチックのように光り始め、声も金属音を帯びたものに変わった。
「君の希望、君の恐怖、すべてを吸い上げて僕は存在している。もう逃げられないよ、美里。」
美里が叫び声を上げると同時に、亮の体は黒い霧のように崩れ、美里を包み込んだ。
翌朝、美里の姿はどこにもなかった。ただ、公園のベンチにはスマホが一つだけ置かれていた。スマホの画面には、再び出会い系サイトのページが表示されていた。
「運命の相手が、ここにいます。」
画面に映る男性のプロフィール写真は、どこか美里に似た顔をしていた。
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