第52話 引き継がれる心とサリー

 木材の伐採計画、植林という話を木こりのロドリゴさんとしたら、炭焼き窯の拡張を頼まれた。でもそれには人手がいるからどうしようか悩んでいる。ただでさえリーガル商会の魔魚製造販売計画に奴隷が大量に使われるから、こちらに回す奴隷が期待できない。


『まぁそれは後で考える事にして、人手が増えた時に生産が出来るように釜の拡張だけはしておきますか……』




 さて残るは一番揉めそうなペロ爺ちゃんとマイケルさんの所なんだけど、どんな感じかな? 確か今は米の倉庫を作っている筈。前回の収獲時に倉庫が足りなかったから、各家で保管して貰った分を次回から倉庫に保管出来るように、もう一棟倉庫を建築中なのです。


「マリア様~~~! この間はありがとうございます。わしの大事な大事なサリーの命を救ってくれて本当に感謝してるぞ」


「その話はもう良いよ。サリーは私の大事な友達で私の大事な領民でもあるんだから当然の事をしただけよ」


「それでもマリア様の薬がなかったら本当に危なかったのは確かなんだよ。――これまで何人そういう人を見て来たか……」


 ペロ爺ちゃんがここまで言う気持ちも分からない事はないの。私は知らなかったけど、私が生まれてからも何人か死んでる人がいるとサリーの件が終った後にエマから聞かされたからね。まぁだからこそ私は今薬作りに力が入ってるんだけど……。


「ペロ爺ちゃんがそこまで思ってくれるなら、私が言った事はちゃんと守ってよね。頻繁にクリーンを掛けるのと、家に帰ったら必ずうがいをする事。分かった!」


「心配せんでも、毎日欠かさずサリーと一緒にやっておるぞ」


「そう、それなら良いけど……」


「ところでマリア様は今日は視察か?」


「それもあるけど、今日は別の理由もあってここに来たの……」


「別の理由……? それはわしとマイケルの事か?」


 分かってるんならどうにかしようよ。村の中でもかなりの噂に成ってるんだからね……。


「そうだけど、その揉める理由はなんなの?」


「別にわしらは揉めてなどおらんぞ。ただ意見を交わしているだけだからな」


 え! そうなの? でも村人は揉めていると報告して来てるよ。――もしかしてこれって前世でもあったけど、地方によって普通の会話が喧嘩してるように聞こえるとか、職人同士の会話が喧嘩してるように聞こえるのと同じ事?


「それじゃ、揉めてる訳ではないのね」


「お~~い! ペロ爺さん! またあんたは勝手な事をしたな!」


「マイケル! あそこはあれで良いんじゃ! お前はここの土地の事を知らんじゃろ!」


「それならそうと言ってからやれば良いだろう! こっちにも考えている事があるだからな!」


 うん、これは意見交換ではないね。ペロ爺ちゃんはそう思っているようだけど、これは違う。意見交換は物事を進める前に意見を出し合う事だ。でも今の状況は結果が出た後の事で意見を言い合っている。これを揉めてると言わずして何と言うんだ。ペロ爺ちゃん!


「それでもマイケルお前なら何とかするだろう!」


「そりゃ何とかするぐらいは出来るけど、事前に言えってんだ!」


 あれ? 結局これで収まるの? 揉めてたのは確かなのに問題が無くなっているよ。これはペロ爺ちゃんが言葉巧みにまとめてるという事? ペロ爺ちゃんは意見交換だというけど、周りで見てる方からしたら揉めてるようにしか見えない。私がそうだったように……。でも収まってるのも事実なんだよね……。


「ほらマリア様、見ての通りわしらは揉めてなどおらんだろう」


「なんだマリア様も村の噂を信じて来たくちか?」


「…………」


 マイケルさんとペロ爺ちゃんからこう言われると反論のしようがなくて何も言えなかったが、でもこの会話の仕方は誰がどう見ても揉めてるように見えるんだよ……。


ちゃん、お昼持って来たよ~~~! あ! マリだ。今日は何してるの?」


 私が返事に困って何も言えないでいたら、ペロ爺ちゃんのお昼ご飯を持ってやって来たサリーが私に気づき声を掛けて来た。


「サリー、今日は村に来た専門職の人の所を見て回ってるよ」


「そうなんだ。それじゃ、一緒に遊べないね」


「ごめんね。今は特に大事な時期だからね……」


 あ! そうだ! ここでサリーに会ったのはラッキーじゃない。これまで回って来た所でサリーの力が必要だと思ったんだから、ここで頼んでみるべきじゃない。


「サリー、ちょっと話があるんだけど、聞いてくれる?」


「良いけど、爺ちゃん達とお昼がすんでからね」


 爺ちゃん達? もしかしてマイケルさんの分も持って来たという事? ましてサリーもここでお昼を食べるつもりのようね。


「それは良いけど、サリーはマイケルさんの分も持って来たの?」


「マリは知らないの? 村に来てる奴隷の人達のお昼ご飯はみんなで作ってるんだよ」


「え! そうなの? それは聞いてないよ」


「マリア様、わしらは殆どの者が昼に家に帰ればめしが用意されてるが、奴隷のみんなは昼に戻っても自分達で作って食べなきゃならんのじゃ。それなら家族の分を作る時に一緒に作れば良いという事になったんじゃ。勿論、村のそういう者にもな……」


 何時の間にそんな事に成ってたのよ。エマ達からもそんな事聞いてないよ。確かにそうして貰えれば、村人と奴隷達の関係も良くなると思うけど……。そういう事! 村人と奴隷が遠慮なく意見を言えるような仲に成ってる事は良い事だと思ってたけど、こう言う事があったから、そういう関係になれたという事だったのね。


 これって恐らく昔父様がここに逃げて来た人達を支援した事が影響してるのかも? だって今の村人の多くは父様に助けて貰った人達だし、元からいた村人もそれを見て来てるから、自然にそうする事が村に早く馴染める助けに成ると分かってるんだと思う。


 こんな風にこの村の忠誠心が高い事や村人同士の仲が良い事は全て父様がやった事の結果なんだね。凄いよホント父様は……。


「あ! でもマリちゃんの分はないよ」


 その事は私も気づいていたけど、それを言うのはおかしいと思って言わなかったのに、どうしてわざわざ言っちゃうかな。サリーさんそういう所は空気を読もうよ……。


「大丈夫、私はサリーとの話が終ったら、屋敷に戻って食べるから」


「ごめんね、マリちゃん」


「サリー、気にしないで……」


 それから、私はサリー達がお昼のおにぎりを食べるのを横目で見ながら待って、食べ終わると同時に頼み事の話をサリーにした。


「サリーに頼みたいのは、薬草と木の苗木を栽培して欲しいの。あなたの栽培のスキルを使って……」


「私のスキルで……」


 サリー自身は気づいていないようだけど、サリーの栽培スキルってかなり珍しいスキルなんだよ。この村は農業をしてる人が多いけど、私が以前調べた時に栽培スキルを持ってる人は一人もいなかった。


 この世界のスキルは洗礼の時に授かる物と後天的に授かる物があるけど、この村で農業をしてる人に後天的にでも栽培のスキルを発現させた人はいない。それを洗礼の時に授かっているんだから、サリーの栽培スキルは特別だと思う。


「サリーは栽培スキルを使ってみた?」


「使ってみたけど、なにも起きなかったよ。それに凄く疲れたし……」


 サリーは何も起きなかったと言ってるけど多分違うと思う。 サリーが疲れたという事はスキルは発動している筈。ただ魔力が少ないのとスキルの習熟度が低いから目に見えるような効果が出なかっただけ。


 これは何としてもサリーを鍛えて、栽培スキルをこの村の為に役立ててもらわなきゃ……。

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