第37話 村の防備とこの国の薬事情

「そろそろ、ローガンさんはヒルデの町に着いた頃かしら?」


「マリア様、口より手を動かして下さい。ローガンさんを心配するのも分かりますが、今はそんな事より村の防備を進める方が大切ですよ」


「分かってるわよ、ケイン。ローガンさんの商売次第ではこの村の事が広まるかも知れないから、村を守らないとね」


 それにしても最近の村のみんなは私の事をどう思っているんでしょうね? まぁ自分自身で人外だと公表してるのだからこの扱いも当然なのかもの知れませんが、普通五歳の小娘に、魔法で村全体を覆う壁を作らせるかね……。


 まぁそうは言ってもこれも私の一言から始まった事だから、文句が言い辛いのもたしかなんです。あの時あんな事を言わなければ……。後悔先に立たずとはよく言った物ね。


 数日前、ローガンさんが村を発ってから、ずっと胸騒ぎが止まらないとマーサに話したの。そのとき、この国の仕組みについても話し合ったんだけど、結局は「自分の身は自分で守るしかない」という結論にたどり着いたのよ。


 それで、何気なく「村を守る為にはどうしたら良いと思う?」とマーサに尋ねてしまったの。すると彼女は返事をせずに、その話をエマやケイン、奴隷だった元冒険者、ペロ爺ちゃんにまで話を持ち込んでしまって……。


 その結果が、今の私の行動につながっている、というわけ。グスン……。


「マリア様、また手が止まっていますよ! 明日中には壁を完成させないと、マリア様のやりたい事が出来なくなりますよ!」


「分かってるわよ! ケイン! だけど壁を完成させたら約束通り私のしたい事をするから当分自由にさせてね!」


「はいはい、壁さえ出来れば当分自由にして頂いて構いませんよ」


 良し! 再度言質を取ったぞ。何があろうと後から文句は一切言わせないからね。見てなさいケイン、あなたがどんなに泣き叫ぼうと、私は言う事を聞かないからね……。




 昨日、漸く自分のやりたい事を自由にする為に、村人達の要望通り村を覆う壁を作り上げた。その結果、今日からは私がかねてから取り組んでいる薬の調合が本格的に始められるのです。


「いよいよね……、これまでは薬草や木の皮、鉱物、魔物や家畜の内臓などについて個別に調べるだけだったけど、今日からはそれを組み合わせて新しい薬を調合することが出来る。どんな物が出来るかはまだ分からないけど、本当にワクワクするわ!」


 それにしてもこの国というかこの世界はどうしてここまで薬の分野が発展していないのかな? 私がこの国の薬について聞き取り調査をしたところ、調合という概念が殆どないのよ。


 まぁ殆どという言い方で分かると思うけど全くない訳ではないの。例えば二つの薬草を一緒に飲むという事はあるから、体内で調合してる形には成るからね。


 しかし、本当にどうしてなんだろう。体内で調合する所までは出来てるんだから、その先の体外で先に合せるという発想がどうして出てこないの?


 前世の古代中国では紀元前3000年頃から、自然療法や草薬による治療が行われていました。その中で、さまざまな生薬の効果が観察され、体系的な医療体系が形成されていったんだけど、この段階がこの世界の今の状態と同じなんだよ。この世界の文明的には前世の中世前期ぐらいにまでは発展してるのに、薬だけは古代と同じぐらいっておかしいでしょう?


 う~~ん、これってやっぱり治療魔法とポーションのせい? 薬学がここまで進まない原因ってそれしかないよね……。


「ならば、私がその歴史を進めてやろうじゃない! 古代の薬から一気に現代漢方薬の水準までね。それじゃ先ずはこの村で一番必要な所から始めますか!」


 この村で必要なのは、風邪薬と下痢止めが一番多く必要だと思う。先ずこの村の衛生管理がまだ不十分という理由から、風邪をひく人が多いし、同じ理由でお腹を壊す人も多い。


 まぁこれは同時に衛生管理というか清潔にするようにすれば減る事でもあるから、みんなに周知するつもりだけどね。勿論、早いうちに石鹸も用意する予定。当然、この石鹸には米糠石鹸も含まれますよ。お肌つるつるになりますからね。


 下痢止めと言えば五苓散、成分は、


 茯苓(ぶくりょう): 水分代謝を正常に整える作用があります。

 猪苓(ちょれい): 排尿を促し、不要な水分を取り除く作用があります。

 沢瀉(たくしゃ): 利尿作用や口渇を緩和する作用があります。

 白朮(びゃくじゅつ)または蒼朮(そうじゅつ): 余分な水分を取り除き、胃腸の働きを高める作用があります。

 桂皮(けいひ): 体を温め、発汗を促す作用があります。


 茯苓と猪苓はキノコ系、沢瀉は水田に生える雑草、白朮はオケラやオオバナオケラの根茎を乾燥したもの。桂皮は良く知られた生薬ですが、良く間違う人が多い物でもあります。桂皮、シナモン、ニッキは似ていますが全く別物なのです。まぁその違いは木の種類が違うんですけどね。


 次は風邪薬の代表格、葛根湯。成分は、


 葛根(かっこん): 体を温め、発汗を促す効果があります。風邪の初期症状に特に有効です。

 麻黄(まおう): 発汗作用が強く、風邪の症状を和らげるのに役立ちます。

 桂皮(けいひ): 血行を促進し、体を温める効果があります。

 大棗(たいそう): 体力を補い、免疫力を高める作用があります。

 甘草(かんぞう): 他の生薬の効果を調和させ、全体のバランスを整えます。

 芍薬(しゃくやく): 筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減する効果があります。

 生姜(しょうきょう): 消化を助け、体を温める作用があります。


 葛根は言わずと知れた、クズの根から採取される物。麻黄は前世だと砂漠地帯に分布するシナマオウなどの地上茎ですから、これはこの世界の植物で代用するしかない。ここは湿地帯で砂漠地帯ではないですからね。大棗は俗にいうナツメの事。甘草はマメ科の多年草で根や茎を使います。芍薬も有名で、ボタン科の多年草。最後の生姜は日本人なら誰でも知っているものですね。


 前世の生薬は知っていても、この世界、この村の周辺に存在しない物もあるのは確かなので、それを代用で補って本来の漢方薬に近づけるのが私の役目。さて今まで調べて来たこの世界ならではの薬草やキノコを上手く使って、この世界の漢方薬を作りますか!


 それからというもの、私は毎日遅くまで薬の研究に没頭して、五苓散はもとより代替品の生薬が必要な葛根湯の両方を完成させたのです。


でもこの時はまだ私が作った漢方薬の効き目が前世とは違うという事を知らなかったの。物凄く効き目が良い事をね……。

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