第33話 塗板とチョークへの切望
森に入って山まで行き、目的の鉱物のそれなりの鉱脈も見つけ、色んな物を発見出来たので、今回の調査は大成功に終わった。私の最終目標の材料になる薬草類もかなりの収穫があったので、これからの実験が凄く楽しみ。ただ所詮は生薬的な使い方しか出来ないから、私の思う薬にはまだまだ程遠い。
でもこの世界だとそれでも良いのかもという鑑定結果ではあるんだよね。この世界の薬草は前世の漢方のような扱いではなく、病気に直接効く効能を持ってる物が多いからです。それも単独にその効果を発揮するから、組み合わせることでもっと違った効果が出るかも知れない。これは元研究者としての心が騒ぎますよ。
絶対にこの世界の医療事情を改善して見せるという野望がふつふつと湧いてきますね……。まぁその前に村の人達の読み書き計算ですが……。
森から帰ってからペロ爺ちゃんに塗板作りをお願いして、私は石灰岩からチョークを作りました。このように簡単に言ってるけど、本当は物凄く大変でこれはもう誰かに任せたいと思う程でした。ただ今はそんな人いないし、商売にでもすればまた別でしょうが、今は仕方がないので五歳児が寝る間もおしんで作り続けた。
まぁ途中何度もこのままだと二度目の転生が来るのではと思ったけどね……。
「これだけ作れば暫くは持つでしょう」
「マリア様、それは多分無理だと思いますよ」
「マーサ、それは何故? まだ村人には何も言っていないからこれの使い道は知らないでしょ」
「それがもう漏れてるんですよ。ペロさんにマリア様が見本としてチョークを渡したからそこから漏れました」
「それってもしかしてサリーの仕業?」
「そうです。ペロさんがサリーに自分の名前の文字を教えたから、それを村人に自分で書けるようになったと自慢して回ったんです」
その時に塗板とチョークの事が広まったのね。まぁペロ爺ちゃんが村人全員の分の塗板を作っているんだからその時点で噂にはなるよね。ましてそこにサリーの話が加わればこの塗板とチョークの使い道が何となく分かるわね。ただ私はまだ文字を教えるとは言っていないのに、もうその気に成ってるのはおかしいわ。
「マーサ、それでもそんなに必要かしら?」
「当然です。村人は飢えているんですよ」
「いやいや、食料は充分にあるでしょう。村人が飢えるなんてない筈」
「その意味の飢えるではありません。自分の名前すら書けない人達なんですよ。それが子供のサリーが書けるようになったと言えば、どうなります?」
あぁ~~、そう意味での飢えるですか。文字が書けない事への執着とでも言えば良いのでしょうか? せめて自分の名前ぐらい自分で書きたいだろうからね……。まぁこういうのは文字が書ける人からは分からない心情だね。
でもそこまで村人が乗り気ならこちらもちゃんと準備をしてあげないといけませんね。だが学校を作る訳にもいかないからどうやるか真剣に考えよう。昼間は村人も仕事があるから、教育をやるにしても夜に成るから時間と場所を決めてやらないといけない。それに一度に二百人以上を教えるのは無理だから、グループ分けをして週に一、二度の授業が精一杯かな?
ただ、この世界の文字は基本表音文字だから覚えるのはそんなに難しくない。ただ同音異義語だけは何故か全く違う文字を使う形に成っているから、そこだけは覚えないといけない。これって前世の漢字だと思えば良いのかな……?
表音文字か……、やっぱりこれは前世の「あいうえお」を覚える時のような幼児向けの絵のついた表が必要かな? 物の名前は知ってるんだから、頭文字をその絵で覚える事は出来るだろうからね。出来れば「かるた」でも作れれば良いんだけど流石にそんなに数は作れない……。
次は計算だけど、これはどうしよう? 数字は結構みんな知ってるし、この世界も十進法だから四則演算の基本から教えれば良いかな? 勿論九九も教えないといけないだろうからこれも表を作る方が良いね。
しかし、計算と文字を並行しては教えにくいよね。時間が足らないもの……。あ! そうだ何でこれに気が付かなかったんだろう? うちの村にも読み書き計算が出来る人が数人はいるじゃない。うちの従者の三人は勿論、何故かゲロッグとペロ爺ちゃんも出来る。
それなら、年齢層に合わせて昼間でも授業を受けられる人は昼間にペロ爺ちゃんに教えて貰えば良い。何も夜だけに絞る必要はないんだよ。
「そうなると後は場所ね……」
「何がそうなるとなのかは分かりませんが、確かにマリアお嬢様の考えている事をやるには場所が問題ですね」
昼夜構わず勉強させるにしても、場所だけは雨風が凌げる場所じゃないといけないから、それをどうするか? ペロ爺ちゃんにはこれまでも色々頼んでるからこれ以上は申し訳ないよね。
こうなったら前世のアニメなんかで見た土魔法を使いますか。私が規格外だという事は口止めしてても、それなりに村人には伝わっているでしょうから気にする必要もないよね。なんなら建築は夜にこっそりやっても良いしね。トーフハウスならそう難しくもないでしょう……。
う~~ん、これって結局学校を作ってるのと変わらないよね。それに土魔法で作ると行商のローガンさんに見つかってまた問い詰められそうなんだよね。
でも、こういうのは思い立ったが吉日だから、その日の夜のうちに村の空き地に成ってる所にコッソリ立てちゃった。黒板はもうペロ爺ちゃんが作ってくれていたから、即座に設置、その次の日には村人に告知し、時間を決めて後は自由参加という事で文字書き計算の勉強会は始まった。
すると……、
「マ、マリア様! あの塗板とチョークというのは何なんですか⁉ あんな画期的な物を私は見た事が無いです! あれも売り出しましょう!」
「ローガンさん、あれは売れないですよ。作るのが大変なのもありますが、あれは教える人がいて初めて役に立つ物です」
正直、この世界の貴族がそんな事をする訳もないし、個人で教えるなんていう物好きもいないでしょう。と私は思っていたんですが、
「そんな事はありません! あれは商人が買いますよ」
「どうして商人が買うんです?」
「どうして? まぁ商人の世界を知らないとそう思うのかも知れませんが、商人も人を育てるのに苦労してるんです。最初から読み書き計算が出来る人なんてそんなにいないんですよ。だから下働きとして人を雇って教育するんです」
成程ね……確かにこの村でも読み書き計算なんて出来る方が稀なんだから、他の地域でも同じなんだろうね。教会が寺子屋のような事をしてるなんて聞いた事も無いから、この世界では本当に読み書き計算が出来る方が珍しいんだ。
そりゃ村人が飢えるというのがこれでも良く分かる……。
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