悪役令姫・かぐや姫 〜性格の良いかぐや姫を目指して、チート幼女は飛鳥時代をゴーイングマイウェイする!?〜 (カクヨム版)
藍甲イート
第一章
プロローグ:『竹取物語』の世界へ
『なよ竹の
帝より承った手紙に書かれた衝撃の一言。
私、かぐやは心の中で絶叫していていました。
「どーしてこうなったーっ!!!」
この世界にやって来てからの自分の行動を振り返りながら、考えました。
一体どこをどうして間違ったの?
◇◇◇◇◇
私は
不完全とはいえ女性でも不自由無く自立して生きていけるこの世界を割と気に入っていたのは確かです。自分の地味顔が密かにコンプレックスで、二十歳そこそこの時はメイクやエステに力を入れていた時期もありました。男性とのお付き合いもそこそこ楽しかったと記憶しております。
しかしそれもこれも過去の思い出。
とある出来事をキッカケに異性とのお付き合いを一切断ち切りました。
今では職場の
国文科出身の私にこれといった特技がある訳でもなく、性格的に営業職は向かないので消去法でとある企業の事務職に就きました。就職理由は給料を貰うため、そして仕事はあくまで奨学金の返済と生活を支えるための手段です。
平日は与えられた業務を毎日毎日そつなくこなし、土日祝日お盆休みは、興味を求めて神社仏閣巡りです。元々パワースポット巡りが趣味だった私は、大学時代に専攻していた国文学の影響から神社巡りへとシフトしていったのです。
本日も京都の寺院巡り。メジャーな観光地は攻略済みですので最近は人目の少ない小さな神社を求めて、路線バスに揺られて目的地へと向かいます。
ちなみにとある位置情報ゲームではそこそこ上位ランカーでもあります。
市街地から小一時間、着いた先は
月読神社の祭神、
千五百年の歴史を誇る神社の境内には「
………ふと境内の木々の中に黒い何かが見えました。いえ正しくは、横方向に空いた何も見えない黒い穴の様なものが周りの景色から浮かび上がって見えた、と言うべきでしょうか?
「きゃ! 何、あれ! 一体何なの~!?」
なんて、慌てふためく可愛い気のある
目の錯覚ではないかという疑問を抱えながら、ゆっくりゆっくりと黒い穴みたいなモノの方へ恐る恐る近づいて行きました。よく見ると黒い穴は渦を巻いている様です。
そして黒い渦がだんだんと大きくなってきました。
いえ……、大きくはなっていませんでした。
私が吸い寄せられ近づいている事に気が付いた時にはすでに遅く、身渦の中心へと体が飲み込まれ、視界と共に意識がブラックアウトしていきました。
昔から何事にも動じない子供だと言われましたが、大人になっても変わらないものです。
元カレからは図太いとも言われていました。
失礼だと思いません?
◇◇◇◇◇
……………
虚空、と言うのでしょうか?
立っているはずなのに地面の存在を感じません。完璧な静寂は普段意識しないレベルの耳鳴りすらも消えております。しかし恐怖はなく、後悔の念も起きません。たぶんおそらく、ここはそのような空間なのだと思います。
そしてこの空間にいる時からずっと空気のように感じていた気配がだんだんと輪郭を形作り、1人の男性となりました。男性といっても神話に出てくるような
「よくぞ参られた、かぐやよ」
『かくや?
いえ私は
「そなたは正にかぐやと成るに相応しき者。我は資格を持つ者を待っていた。
世の理を学んだそなたならば同じ過ちを繰り返すまい」
『たぶん人違いですよ。何度も言いますが私は神楽≪かぐら≫です。
か・ぐ・ら。
かぐや姫でも家具屋さんでも鍵屋さんでもありません。
ごく普通のアラサーで、地味顔で、化粧っ気も男っ気もない喪女です。
伝説のモテ姫なんかではありません。
強いて言えば、目が2つ、口が1つ、鼻が1つなのが同じくらいですよ。
頼むって何? 過ちって何かやったの?』
「頼むぞ、かぐやよ」
しかし、声にならない私の絶叫は目の前にいる神様には届かず、この場を一方的に追いやられてしまいました。
『せめてあなた様が誰なのか教えて!
月詠命様だと思うけど、成りすましって可能性もあるでしょ〜!
最近、そうゆうのが多いんですよぉぉぉ~~~』
◇◇◇◇◇◇
次の瞬間、私は竹林の中に居ました。
すごく大きい、いえ巨大な竹林です。太さが30センチくらいありそうな、大木と見紛いそう……な?
……いえ、私が小さいんだわ!
目の前の光景が記憶の片隅に眠っていたはずの幼稚園時代に見た風景と奇妙に一致しました。同じ風景を見た訳ではありませんし、近所にこのような広大な竹林はありません。でも幼い時に見えていた視界がこのようにすべてが大きく見えていたのだと、再認識しました。
……ということは今の私は幼稚園児?
何故か裸の自分の体をペタペタと触ると久しく感じなかった瑞々しい弾力があります。別に枯れていたわけではないのですよ。ただこんなにまでの弾力を持った
情報過多の今の私には、上方が眩しく光を放っているおかげで夜の竹林が昼間のように明るくなっていることに、この時はまだ気が付いておりませんでした。
それにしても困りました。
あの鬟(みずら)の男性は私の事をかぐやと呼んでおりました。
かぐやと言えば、かぐや姫。『竹取物語』の主人公です。そして今、私は竹林に居ます。正にかの有名なオープニングの場面です。
違うのは竹の中ではなくスッポンポンの子供の姿で竹林に放り出された事です。突然拐われて、身ぐるみはがされ、所持品を取り上げられて、見ず知らずの場所へ放り込むっだなんて、あの男性(月詠様(仮)と呼ぶことにしますが)は何て酷いことをなさるのでしょうか。このままでは風邪をひいてしまいますでしょ? 子供はすぐに熱を出すのよ。これでしたら昔話の様に竹の中にいた方がまだ良かったかも知れません。
……あ、でも竹の中だったら誰しもが思うあの疑問。
『お爺さんが竹を切った時、かぐや姫はなぜ真っ二つにならなかったのか?』
を身をもって体験しなければなりません。そんなリアクション芸人みたいに体を張った実験はさすがに嫌です。
もしここが竹取物語の世界だとしたら、いずれお爺さんが来るはず。
仕方がありませんのでしばらく待ちましょう。
……………
……………
……………
………………………あ、誰か来ました。
思ったより早かったですね。頭の片隅みに2,3日待ちぼうけする自分の姿がチラッと思い浮かんでおりましたので、ホッと安堵しました。
ホッと安堵、……ホットサンド。お腹も空きました。
「そこの娘よ、お主は何処から来たのじゃ?」
思っていたより若くて、少しお年を召したオジサンっぽい感じです。この方が竹取の翁さん? 竹取物語の
……でもどうしましょう?
『私はかぐや姫。1400年の未来から時の流れを超えてやって来ました』
と正直に言っても信じて貰えないでしょう。幼い子供がべらべらと喋るだけでもドン引きモノです。とするとここはやはりアレよね。
「……わかんない」
秘技・迷子のフリ!( •̀ω•́ )✧キラーン!!
「おう、そうかそうか。こんな所で心細かったじゃろう。とりあえずウチへ来るがいい」
やった! 親切そうなオジサンで良かった。オジサンは手を引いて私を屋敷へと連れて行ってくれました。
「婆さんや、竹林に女の子が迷い込んでおった。 何か温かいものを持ってきてくれないか?」
「おぉ、何て可愛らしい女の子じゃないですか。大変だったねぇ。まずは何か羽織るものを用意しましょう」
出迎えてくれたお婆さんも良さそうな人に見えます。
どうやら私は安定した異世界ライフが送れそうです。
◇◇◇◇◇
ここで古典『竹取物語』の世界を(頭の中で)お攫いしてみます。
竹取物語は大学で仲の良かった友達の卒論テーマでしたし、私のテーマとも被る部分が多かったのでお手伝いもしました。細部までよーく覚えております。
時代は飛鳥時代末期。
平安時代と勘違いしている人もいますけど、例の五人の求婚者達は実在の人物、もしくは実在の人物をモデルにした
場所は讃岐。
物語の中でお爺さんの名前は『讃岐の
現在の年齢は、不明。
物語では竹から生まれた時のかぐや姫は3寸(約9センチ)でしたのが、三ヶ月で妙齢の大人になったとあり、キャベツかブロッコリー並の成長をしました。しかし今の私が身長3寸と言うことは無さそうで、お爺さんに手を引かれていた時の感覚では、70〜80センチ位はあったと思います。でなければ、お爺さんが身長15センチしかないのかのどちらかですね。とりあえず今後自分の身がどのように成長するか要チェックです。
そしてかぐや姫の
かぐや姫の特徴と言えば、光り輝いて屋敷じゅうを光で満たしたとあります。現代ならば電気代の掛からないLEDライト扱いですが、この時代の人には光るだけでも大層なものだったかも知れませんね。
ところで私って光るのかしら?
疑問に思ったら即・実験です。早速、心の中で「光れ~光れ~光れ~」と唱えてみました。
……え?
自分の下に影があります。下に影があるという事は……?
ふと見上げると光の玉がふよふよと浮かんでおりました。思い返してみれば、先ほどの竹林でも上方が同じ色に光っていました。あの時の発光源はどうやら私の仕業だったみたいです。でもまあ、光るだけなら害は無いでしょう。物語の中では、光を見たお爺さんが苦しいことも腹立たしいことも治まったとありました。試しに今度お爺さんに光を当ててみましょう。
決して好奇心に身を任せた人体実験ではありませんよ。……決して。(汗)
そして財産。
こう言ってしまっては身も蓋もありませんが、最大の関心事はやはり
原資が何なのか気になるところですが、月詠様(仮)にお願いしておきましょう。
なむなむなむ…… あ! 忘れてました!!
一番の問題はやはりアレですね。
私がかぐや姫ならば、性格がイマイチな五人の求婚者達と、その上をいくもっと性格の悪いかぐや姫との陰湿なバトルが勃発する筈です。
結婚したくないばかりに無理難題を吹っ掛け、求婚者たちが破滅していく様(さま)をほくそ笑むという
とはいえ……求婚者達の性格は変えようがありませんので、私が変わるしか無いでしょう。つまりはアレ、貴族社会に転生した悪役令嬢が破滅フラグを折るというラノベ的展開?!
月詠様(仮)も『過ちを繰り返すな』みたいな事を仰ってましたから、きっとそう。
私は性格が良くて要領のいい
オーホッホッホ……けふんけふん。
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