第9話 病院と恭平と
けたたましいアラーム音で俺は目を覚ました。
ああ、いつの間にか向こうで眠っていたのかと、理解するのに少し時間がかかった。
一体どうしたらいいんだ、このままだと
夢の中のエマが
お見舞いに行くか? 集中治療室にいるらしいから入れないかもしれない。
せめて一目くらいは会いたい。
思わず会社に行く準備をするが、特別有給だった事を思い出してベッドに座る。
「俺、何を浮かれてたんだろう。いくら夢の中の出来事とはいえこっちの世界で人が死んでるんだぞ、それをヒーロー気取りで助けてさ……でも大事な人は助けられないなんて」
何もできない無力感、何故か自分は万能だと思っていた
せめて……せめて
俺は無意識にスーツに着替えて部屋を出ると
『よう、大丈夫か? 今日は休みなんだからゆっくりしてろ』
「俺は大丈夫でも、
『だからいってるだろう、あれはお前が悪いわけじゃないんだって』
「わかってる、でも一言くらい謝っておかないと気が済まないんだ」
『……その気持ちはわかるけどな。お前、
「? 助けられなかったんだから当たり前だろ?」
『そうじゃなくて、お前さ、少々卑屈な所があると思ってたけど今もかよ』
「卑屈って、そりゃ俺は
『お前の御堂さんに会いたいって感情、謝罪の気持ちだけなのかって聞いてんだよ』
「気持ち……?」
『ああ、今から電車に乗るから切るぞ。気持ちに整理が付いたらまた電話しろ』
そう言って電話が切られた。
俺の気持ち? 罪悪感とかじゃなくてそれ以外の気持ち?
俺は
呼吸が苦しくなっていく。
胸を押さえてゆっくり呼吸をしようとするが余計に苦しくなっていく。
頭の中がグルグルする、考えがまとまらない、俺は、俺は……勘違いするな、
もう会えない?
このままだと
会えないのは残ね……いやだ……会いたい……仕事を一緒にしたい、食事を一緒にしたい、話をしたい、笑顔を見たい、
胸の苦しさがさらに重くなる。
学生時代に一度だけ告白された事がある。
そいつは遊び半分で俺に告白し、金を
今度も勘違いだ、
本当にそうなのか?
そもそも社会人になって金があるけど渡した事なんて無い。
気付いてしまった、俺は
でも今更どうしろっていうんだ!
死んでしまうからって放っておくのか?
一方通行の感情かも知れないけど
俺は
『どうした』
「
『会ってどうするんだ?』
「なにが出来るかわからない、でも会えば何かが出来るかもしれない」
『なんだそりゃ、結局お前は何がしたいんだ?』
「好きな人に会えないままじゃ……気持ちを伝えられなくても側に居たいんだ!」
『やっとかよ』
「え?」
『お前が御堂さんの事を好きなんて、みんな知ってたぞ』
「……え?」
『まぁ御堂さんを狙ってた連中は認めたがらなかったけどな』
そ、そうなの? 俺ってそんな態度に出てた?
え? え? 俺の事を分かってなかったのは俺だけって事? は、恥ずかしい!
『じゃあ病院にでも行ってこい。なぜか向こうの親御さんはお前は会ってもいいって言ってるからな』
「う、うん? 先輩だしね」
『ほざけ』
大きな総合病院に到着し、受付に聞くと
ベッドで眠る
「
マスク越しで少し籠った声で声を掛けるが反応は無い。
手を握る位はいいといわれているが布団の中にある手をどうやって握っていいのかわからず、布団のふくらみから手がありそうな場所に手を乗せる。
「夢で見て、まさか
手術は成功したと聞いているけど、なにせ棒が体を貫通するという事故なので予断を許さないそうだ。
そうか、夢で見た結果を知っているのは俺だけなんだもんな。
予断どころか、先を知っていると何をしたらいいのかすら思いつかない。
でも俺は自分の気持ちを伝えると決めたんだ、片思いでも勘違いでもいい、
「
何を言ってるんだ俺は。
そんな事を伝えたいわけじゃないだろう。
「
気のせいか
もちろん勘違いだろうけど、少しは反応してくれたという気休めにはなる。
面会時間が終わった。
集中治療室の面会は五分程度しかないから本当にあっという間だ。
時間さえ守れば毎日来てもいいそうだから明日も来よう。
病院を出て歩いていると色々な店が目に入る。
あそこは何屋さんだろう、
ああ、俺は何を考えているんだ、助からないとわかっているのに
「せめて……せめてもう少し早く気が付いていれば……!」
涙がこぼれそうになって空を見上げる。
見上げてもあふれ出る涙を止める事は出来ずこぼれ落ちていく。
クソ、どうしたらよかったんだよ! どうしたら防げたんだよ! どうしたら助けられたんだよ!
俺は急いで部屋に戻る為に走り出すが、救急車が赤信号を走っているので足を止めた。
そうだよな、俺が夢で見なくても事故は起きるんだ、でももうやめだ、少なくとも夢で見た人は全員助けてやるんだ!
もう後悔をしないためにも!
スーパーで食料を買い込んで部屋に着いた俺は直ぐに寝巻に着替える。
よし、一週間の休暇があるんだから助けられる人は多い方がいい、少しでも向こうでの時間を増やすんだ!
と、その前に
スマホを手にして電話をかける……出ないな、今の時間は外回りだと思ったけど打ち合わせにでも入ったかな?
明日にするか。
目が覚めると安い木製ベッドにもたれかかっていた。
ああ、エマが死んで呆然としていたからな、ベッドに横になる事なくうな垂れて眠ってしまったんだろう。
そういえばイアンはどこだ? あいつも一緒にいたはずだけど。
イアンか、あいつはエマと付き合いが長かったから俺よりも落ち込んでいた。
ひょっとしたら冒険者を辞めるかもしれない。
宿の一階に降りると女将さんが大慌てで俺を呼びつける。
なんだ? もう朝食時間は終わってしまったとか?
「あんた! あんたの相棒の男が運ばれて来たよ!」
「運ばれた? 喧嘩でもしてボロボロになったのか?」
「なに言ってんだい! 少し前に神殿に運ばれたんだよ!」
神殿? 冒険者が神殿に運ばれる? 自分で行ったのではなく運ばれた?
少し寝ぼけた頭で考える。
冒険者が神殿に運ばれる理由は一つだけ、大怪我をして治療をするためだ。
「え? イアンが怪我をしたのか!?」
俺は飯も食わずに神殿に走る。
まてよ、おいおい、待てよ待ってくれよ! 何だってイアンが神殿に運ばれなきゃならないんだ!
神殿に入るがイアンらしき男はどこにも居ない。
神官に詰め寄ると奥の部屋に一人運ばれたらしいので急いで向かう。
暗い一室に入ると全身にシーツをかけられた誰かがベッドで眠っている。
神殿に運ばれたんだ、そんなはずはない。
俺の知っている神殿なら即死以外は何とかなるはずだ。
そんなはずはない、シーツがかけられた人物の横に立ち、震える手でシーツをめくると……そこにはイアンが眠っていた。
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