第6話 知らない自分

「いよっ、聞いたぜヒーロー」


 会社についてデスクに座ると恭平きょうへいが嬉しそうに背中を叩いてきた。


「ヒーロー? なにが?」


「とぼけるなって、工事現場でショベルカーに襲われた人を助けたんだろ? お前を知ってる奴から連絡が来たぞ」


「ああ、うん、なんかね、上手くいったよ。はは」


「それにお前、今日は顔色が良いじゃないか、昨日の事もあったから心配してたんだぞ」


「昨日はありがとう、アレは流石にへこんだ」


 そんな会話をしているとうららさんが入ってきて元気よく挨拶をする。


「先輩、おはようございます! 昨日は休んでしまってすみませんでした」


「おはよううららさん。休んだのは全然かまわないよ。むしろ俺は神経が図太い事がわかったからね」


「おまえ、あんなにへこんでたじゃないか」


恭平きょうへいの方が図太いけどね」


「あははっ、今日もよろしくお願いします!」


 そう言ってデスクに座るうららさん。

 俺は恭平きょうへいを目を合わせるが、どうやら恭平きょうへいも同じ感想を持っている様だ。

 随分と無理してるなうららさん。

 でもそうだよな、目の前で人が死ぬのを見て当日から仕事をしている俺の方がおかしいんだと思う。

 しかも俺は一回ではなく四回も見たんだ。

 ……俺は本当に大丈夫なのか? 実は精神的にかなり来てるとかない?


 うららさんの事は心配だけど、こればっかりは時間に解決してもらうしかない。

 トラウマになってたら医者に行かなきゃいけないけど。


 それからの俺は夜は普通に眠る様になった。

 夢の中で起きた事はなぜか現実世界でも起きるが、事前に知っていれば助けられる可能性がある事がわかったからだ。

 夢で馬車に乗った商人が魔獣に食われてるのを見た時は、現実世界での事故を想像すると怖かったけど、これは通り魔殺人で何度も腹をナイフで刺される、というモノだった。

 流石に助ける事は出来なかったけど、夢で見た事件で現実世界で助けられるのは大体六割ほどだろうか。


「といっても気持ちを切り替えて助けるようになってまだ十日、六回助けられただけだから全然試行回数がたりないよね~」


 自宅で動画を見ながら夕食を食べていると、ホラー映画のCMが流れた。

 血が飛び散る様な映画だけど、全然怖いと思わなくなっている自分にビックリ。


「……ま、実際の流血をこれだけ見てれば、フィクションなんてどうって事はないな」


 俺は今にいる。

 そして珍しくパーティーを組んでいるのだが……


「ちょっとガーディナー、あなたは冒険者になったばかりよね? どうしてそんなに戦い慣れてるわけ?」


 ウッド級冒険者の時に森狼の毛皮や牙を大量に持ち込み、すぐにストーン級になったかと思えば、あちこちでお節介を焼いている変な冒険者、それが俺の評価だ。

 そしてこの少女はエマ、年は十五歳くらいかな? とても気が強い子で、相手が屈強な冒険者でも平気で喧嘩を吹っ掛ける。


「落ち着けエマ。逆にお前はどうして何年も冒険者をしているのに、落ち着きがないんだ?」


 この男はイアン、ニ十歳にはなっていないだろうがとても落ち着いており、エマとはよくパーティーを組むそうだ。


「俺という男を既存の枠に当てはめようとしても無駄さ」


「なに言ってんのコイツ」


「ガーディナーと同年代とは思いたくないな」


「同年代? 俺の方が年上だろ?」


「あにいってんのよ、どう見てもイアンと同じくらいでしょ」


「はっはっは、背伸びしたい年頃なのはかまわないが、サバをよんでもいい事は無いぞ?」


「はぁ? あんたあに言ってんの? 自分の顔をよく見てみなさいよ」


 エマが手鏡を出して俺に鏡を向ける。

 ……誰だこれ、え? 異世界転移じゃないの?

 鏡には現実世界の俺とは似ても似つかない男が映っている。

 思わず頬や耳、鼻を触るが触っている感覚はある、間違いなく俺の顔だ。


「ガーディナー? どうかしたか?」


「え? ああいや、何でもない。俺の精神年齢は二十七歳だからな」


「ほざいてんじゃないわよ」


「ほざけ」


 軽口を叩いているが俺の心は酷く動揺している。

 誰だよコレ、確かに見た目は二十歳前だし、そういえば手の肌艶も現実の俺とは全然違う。

 こっちの方が艶が無い、苦労した手をしている。

 まさか俺は転移ではなく異世界転生をして、数日前に突然記憶が戻ったパターンか? でも記憶が戻る前の記憶は全くない、上書きされたのかな。


「ほら馬車が出ちゃうわよ、さっさと行く!」


「お、おお」


 今日は三人で少し遠くに行く事になった。

 この二人とは昨日の晩飯時に同じテーブルになったのだが、ロックンローズの倒し方がわからないという事で色々と教えたやった。

 でも少々手順があるので「あんた明日一緒に来なさい!」とエマに言われて今に至る。

 幌馬車に揺られて山を一つ越え、昼前には目的地の村に到着する。

 ロックンローズはこの近くの森に生えている様だ。


「よし! じゃあすぐに行くわよ!」


「え? 休まないの?」


「今日中に帰りたいのよ。ほら分かったらさっさと準備なさい!」


 エマは元気だな……ウザ元気だな……でも反論したら三倍言い返されそうだし。

 俺は渋々準備をしているが、イアンはいつもの事だといわんばかりに準備を終えていた。

 日帰りならリュックに程々詰め込んどけばいいか。

 

 森に入り獣道を進むと一時間もかからずに生息地に到着した。

 この体が若いと知ると、一時間歩いても全く疲れを感じない気がする。

 

「いた、あいつだよ」


 木に体を隠しながら小声で指さす先には、赤く巨大なバラの花が五本咲いていた。

 太い茎の長さは二メートル以上あり、咲いた花は五十センチ以上はあるだろうか。

 今は動いていないが、地中の根に振動が伝わると体をダンシングフラワーの様にくねらせ、刃の様に鋭い葉っぱを踊る様に振り回し、トゲをリズムよく打ち出してくる。

 しかも時々リズムが変わるので、タイミングを覚えたと思ったらいきなり違うタイミングでトゲが飛んでくる。

 これが一番ロックンローズの厄介な所だろう。


「よし、作戦は……」


「うんうん、作戦は?」

 

 エマとイアンがドキドキしながら顔を寄せて来る。


「作戦は、五本同時に攻撃をしろ!」


 一瞬の間を置いて二人の表情が「あ~ん?」になって睨みつけて来る。

 それもそうだろう、普通なら一本ずつを相手にして確実に倒す方がいい。

 でもそれじゃダメなんだ。


「ふっ、度胸の無い奴らだぜ。まぁ見てな」


 俺は出来るだけ五本と等距離になる場所を探すが、どうやら歩いていくと先に一本か二本の根に引っ掛かってしまうようだ。

 なので木に登り手頃な場所にジャンプして飛び降りた。

 エマとイアンは不安どころかマジビビリしているが、これが正解なんだよ。

 五本のロックンローズと大体等しい距離の位置に飛び降りると、ロックンローズは一斉に俺めがけて攻撃を開始する。


「ほっ、やっと、おおっと、ほいさ、こらさ、どすこい」


 飛び降りた場所はトゲは飛んでくるが葉っぱは届かない場所。

 なのでトゲだけを避けて居ればいいのだが、一本だけを攻撃した場合はそろそろタイミングが変わるはず、しかしいつまでたっても五本とも同じタイミングでトゲを飛ばしてくる。


「随分長いわね。タイミングが変わらないの?」


「こいつらは、ほっ、他の花と、うほっ、タイミング、を、合わせる性質が、うおっと、あるんだ。だから囮役がまとめて相手をした方がいいんだ」


 へーと感心しているが、そろそろ攻撃して欲しい。


「ほら、感心してないで攻撃しろ。五本はタイミングを合わせるって言ったろ? 今は同じタイミングで、しかも俺に集中してるから他には反応しないはずだ」


 ロックンローズの攻略法を教えると二人は急いで攻撃を開始する。

 完全に倒そうとすると根を焼かないとダメだけど、花を斬り落としたら再生が終わるまで動く事は無くなる。

 なのでエマは短剣で花を斬り落とし、イアンはロングソードで斬り落とした。

 ふー、五本全部斬り落としたな。


「よし、じゃあトゲの回収といきますか」


 トゲの回収といってもくきからトゲを取ると劣化が始まり使い物にならなくなるので、トゲが付いている茎を輪切りにするのだ。

 だからトゲも大きいので茎も大きく、荷物がとてもかさばる。

 五本からトゲを一つずつ回収し、昨日苦戦した事もあり二人はご機嫌だ。

 俺も一人で五本を倒すのは無理なので、共闘で倒せたことはとても嬉しい。

 と、はしゃいでいたエマの声が聞えなくなる。


「ん? どうしたんだ? 疲れ……エマ!!」


 エマの背中にはロックンローズのトゲが刺さっており、胸から先端が突き出していた。

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