その奴隷解放、本当に大丈夫？

いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。

……はい。確かにその子達はうちの売り物ですよ。御予約いただいておりますので、申し訳ないのですがお売りすることは出来ません。店頭に出していたのは教育の一環です。何卒御容赦いただけますよう……。

……はい？　いえ、だからお売りは出来ませんと……。この子達は奴隷じゃない、同じ人間なんだから解放しろ、と……？　は？　仰ってることがわかりかねます。

あぁ、勇者様！　お噂はかねがね。なるほど、異世界の方ですので常識が違うようですね。この国では奴隷の売買は認められております。この子達も全うな方法で親から購入しておりま、し、て……。

…………一介の商人にそんな殺気を向けられるのはどうかと思いますがねぇ。……やたらと同じ人間というのを強調されますね？　いいですか、その子達は人間以前に奴隷なんです。私の持ち物なんですよ。

……仕方ありません。国からも勇者様には便宜を図るよう言われております。購入の手続きをさせていただきますのでこちらに……へ？　買わない？　この子達を奴隷から解放しろ、と。

お前達も納得してるのか？　……初めて人間として扱われた？　勇者様に着いていきたい……。…………はぁーーーーーー。

わかりましたわかりました。勇者様の仰る通りに致します。もし暴れられたりしたらかないませんからね。

この子達を無償で奴隷から解放させていただきます。代わりに、こちらの契約書にサインいただけますか？　変なものではありません。この子達の身元引受人を貴方にするのと、ついでにこの街で暴れるのを禁じるだけのものですよ。お疑いでしたら隅々までご覧下さい。ほら、お前達も見て差し上げなさい。

……問題ないと。はい。サインありがとうございます。

ではこの子達を奴隷から解放させていただきます。…………出来ました。あぁ、鑑定が出来るんですね。どうぞご確認下さい。ステータスから奴隷の文字は消えているはずですよ。

確認出来ましたか？　ではどうぞその子達をお連れ下さい。お前達、達者でな。

…………ふぅーーーーー。行きましたね。

さて、色々問題はありますが、お得意様にお売りする前にあいつらの問題がわかったのはありがたかったですねぇ。いやいや、勇者様が不良在庫を引き取って下さり助かりましたよ。

一息ついたらお得意様へ事情の御説明に伺わないとですね。あぁ、代わりを誰にするかも早く決めなくては。二、三日あれば仕上げられるので一緒に連れていって納品の方がいいですかね。取り急ぎ文をしたためますか。誰か、用意してくれ。

……ふふ、しかし勇者様が持っていったのは容姿が一級品の少女ばかり。店には他にも沢山居たのにわかりやすいことだ。さて、十日程持てば助かりますがねぇ……。

おや、これはこれは勇者様。お久しぶりで御座います。本日はどのようなご用件でしょうか。

……返品？　ふふふふふ、勇者様は御冗談も嗜まれるのですね。返品もなにも、お連れ様は私がお売りした商品では御座いません。うちは奴隷を取り扱っておりますので、申し訳ないですが人間の取り扱いはないのですよ。はい、勇者様の御依頼通りもう解放しておりますので。

ドレスも身に付けている分はサービスでお渡ししましたでしょう？ご不満でも？……本人が手入れできない。はぁ、そうでしょうね。

その子達は高位貴族の方向けの愛玩奴隷として育てておりましたので。身の回りの世話は侍女がしますから、そういったことは全く仕込んでおりません。

その子達に仕込んだのは教養と閨の作法だけですからねぇ。世話をされる側として育ててますので、まぁ必要でしたら勇者様がお教え下さい。

高位貴族に買われる商品でしたので当然その子達の当たり前の基準はとても高いですが、頑張って下さいね。

……維持できない？　返す？　いやいや、困ります。言ってる通り、その子達はもう奴隷ではありません。人間は取り扱いがないとお伝えしましたでしょう。

まぁ、身元引受人は既に勇者様ですので、返品ではなくお売りいただくという形ならお受けできますが、奴隷を解放した勇者様がまた同じ子を奴隷に落とすのですか？

……本人も望んでる。勇者様の提供出来る暮らしでは満足出来ない。はぁ……。まぁ別にお売りいただけるのでしたら買うだけですが、もう高位貴族の方にはお売りできませんし、あまり出せませんがよろしいですか？　お前達も、前の生活には戻れないが問題ないね？

…………当たり前でしょう。中古品なんですから。

えっだって勇者様、もう手を出されましたよね？

確認する方法なんていくらでもありますので、誤魔化されても無駄です。全員もうお手付きでしょう？

……そうでしょうね。いやはや、お若い事だ。

真ん中の金髪の子とかよかったでしょう。その子は国王陛下に納品する予定でしたから、特に仕込んでありましてね。そうです。国王陛下。

あぁ、ご安心下さい。もう既に別の子を納品済みです。優秀でしたので愛玩奴隷程度にするのは勿体ないと思っていたんですが、こうなってしまっては仕方ありませんからね。他の子達の納品予定だったところにも、もっといい子を納めてありますよ。皆様ご理解いただけて助かりました。

そうなると、その子達はどうしましょうかね。

国王陛下と高位貴族の方に刃向かったようなものなので、貴族の方は購入されないでしょう。裕福な商人にお売りする用の知識は仕込んでませんし。

となると受け入れ先は娼館位しか無さそうですねぇ。初物ではないから最高級店は無理かなぁ。いいとこ中堅の店で買ってもらえるかどうかですかね。

となると身の回りの事くらいは出来るように仕込み直しですか。やれやれ。

……泣いたってしょうがないでしょう。お前達の選択の結果ですよ。

勇者様？　どうされました？

その子達の人生を滅茶苦茶に？　そうですね。

あぁ、否定待ちでしたか？　それはそれは、気付かず申し訳ありません。

まぁ実際、高位貴族の方にご購入いただいていたら一生何不自由なく生活出来たでしょうからね。間違ってはないかと思います。どうしても気になるなら、勇者様がそういった生活を送らせてあげれば問題ないのでは？

とても出来ない？　なら仕方ありませんね。その子達の選択でもありますから、自業自得と無理矢理納得されてはどうでしょうか。

……さて、ではその子達の代金ですが、この位で如何でしょうか。

安過ぎる？　御冗談を。これでもかなり甘めでお出ししてます。一度解放奴隷となった者は嫌がられるんですよ。ご不満でしたら別の店でお売りいただいても構いませんよ。もっと買い叩かれるでしょうがね。

その子達に使った金の半額にも満たないと言われても困ります。お勉強代とでも思ってください。

それに、その子達に使った金額で、あなたが、私に何か言えるとでも？

……はい。では商談成立ということで。

では手続きがありますのでそちらにお座り下さい。こちらにサインいただけますか？　はい結構。ではその子達は奴隷としてお預かりします。

あ、そうそう。国王陛下に今回のことをお伝えしたところ、一度勇者様とお話がされたいということでした。もうすぐ迎えの者が来るかと思いますのでこちらでお待ち下さい。

ふふ、暴れられないでしょう。契約書にサインしたのをお忘れですか？　おや、そちらの世界ではこういった強制力はないのですか。それはそれは、平和な世界で羨ましい。

お前達はさっさと店の裏に行きなさい。あぁ、今までのような扱いは期待しないことだね。もう商品価値がほとんどないのだから。

自由ってのは自分で自分をどうにかしないといけないんだよ。求めていいのは、それが出来るものだけだ。まぁ他の奴隷達へのいい教訓になってくれたのだけは、ありがたかったかもしれないね。