第13話 遠のく思い出

「……怖くて、Yの画面を開くことができないな」


 リューマ君はスマホの通知をオフにした。

放課後になっても通知がやまないどころか、これは夜にはもっと多くの人が閲覧し、明日の朝、下手したら数日は収まらないだろうからね。


「美奈は趣味というか日課のような感じだったが……流石にこれは怖いな……よく美奈はできたものだ」


 ごめん、リューマ君。今のリューマ君ほどの経験は流石に私もないよ。

 初投稿バズり以前に、そもそも私はバズったこともないし。


「……それにしてもラーメン……うん、せっかく帰り道だし……一人だが……寄ってみるか。一人で行くのは初めてだな……」


 そして、ラーメン投稿がバズったリューマ君は、なんだか色々と思い出したり、お腹も空いたということで、放課後はこのままラーメン屋に直行みたいだね。

 そう、二人で並んで、二人で行った……



「そう……一人で……」



 あ、ダメだ。

 分かる。リューマ君の感情の機微。

 


「美味しかったあのラーメン屋……また一緒に行こうと言ったのにな……学校帰りの寄り道は感心しないが、確かにおいしかったからと僕も……」



 胸が締め付けられる。

 狂おしいほどの切ないリューマ君の感情。

 私なんかに想い焦がれて、私もうどこにもいない、死んじゃったってことを実感してしまって、そして一度そう思ったらどんどんリューマ君の心がボロボロと……



(先輩……先輩……声をかけられない……私なら、私なら一緒に行けます。姉さんとはもう行けないと思いますが……私がいます! 私が先輩と……と思っていましたけど……でも、たぶん今じゃ……。どうにか先輩と接触して、この亜琉の直筆サイン入りブロマイドを先輩にプレゼントしたいと思って後をつけていましたけど……)


(今日は生徒会の仕事がないからと追いかけて正解だったわね……背中を見るだけでも分かるわ……あんな寂しすぎる背中……どうにか、私の直筆サイン入り書籍を渡そうと、なんて思ってたけど……そういう雰囲気じゃないわね)


(一緒に登校は拒否されました……ですが、放課後なら……と思いましたが……ダメですわ。声をかけることができませんわ。あのつらい背中、どうしても一人になどさせたくない……と思いつつも、今のワタクシでは、きっと彼は余計に……)



 そして、ちゃっかり三人別々の場所からストーキングしているマイシスター、マイフレンド、マイライバル……だけど、今はあの三人にこの野郎とは思わない。

 だって、あの三人も分かってるんだから、今のリューマ君の気持ちを。


 今のリューマ君がどれだけ苦しい思いをしているのか。


 そして、そんなリューマ君の気持ちを分かりつつも、今の三人はそこに飛び込んでしまえば、たぶんリューマ君は余計に苦しんだり、怒ったり、拒絶したりするんだろうってことを。


 三人は本当にリューマ君のことを好きだから、朝のことでリューマ君が本当に嫌がることを今はしない。だから強引なことをしないと決めてるんだろうね。



(でも、こんな時に姉さんなら……)


(美奈なら、そんなの関係ないと、空気読まずにウザったいぐらいまとわりつくんでしょうけどね……)


(おバカさんですもの……だけど、アレは彼女だから許されたことで、ワタクシでは……あんなふうには……)



 そう、私ならたぶんこういうときでも関係ないって感じで、後ろからリューマ君の背中に飛びついて強制オンブでもさせてくっついたかもしれない。

 それでリューマ君が本気で怒ったら、むしろソレはソレ。

 ため込んだものを発散させてくれたら、ソレはソレで少しぐらい心が軽くなるから。

 今のリューマ君はそういうのも全部内にためこんじゃってるだろうから。

 とはいえ、それは何となくだけど、私だからできることで、私がそういうキャラだってリューマ君も分かってるだろうから……だけど三人は……



(どうしよう……姉さん……姉さんに先輩を任されたのに……)


(美奈に彼を託されたというのに……ダメね、私は……)


(これではワタクシに彼を託した亡きライバルに泣かれてしまいますわ……)



 ただ、別にリューマ君のことを託しちゃいないから、あの三人に何かしろってことはないんだけどね。

 だけど、複雑だね。


 リューマ君が私を忘れて他の女の子とイチャイチャするのは何か嫌だ。


 だけど、私に捉われて悲しみ苦しんでるリューマ君を見るのも何か苦しいよ。


 どうすればいいのかな……



「……ん? なんだ?」



 と、あれ? どうしたんだろ?

 なんか、ラーメン屋のある路地のところが……あれ?



「なっ、なん……こ、これは……なんだ、この人だかりは……まさか、並んでいるのか?」



ちょっっっ、なんかメッチャ大行列ができてるんだけどぉぉお!?

 なんで? 楽笑屋なんて、美味しいけどあまり認知されてないから行けばたいてい並ばずに食べられるのに、なんか路地裏どころか路地の外に至るまで長蛇の列が?!



「くそぉ、まさかこんなに並ぶとはよぉ」


「もうちょいかかりそうだな~」


「亜琉ちゃんのコラボメニューとか無いんだよね?」


「あれ、俺はツイストクイーンさんの紹介見て、近くだから来たんだけど、Vチューバーも紹介してたのか?」


「え、ラノベ作家の紹介じゃないの?」



 あっ、そうか! あの三人がリューマ君の投稿をバズらせたから……



(あ……す、すごい並んで……あっ、事務所からメールが……お、怒ってる?)


(これは……わ、私の所為じゃ……ないわよね?)


(ワタクシじゃありませんわ! ワタクシはただ彼の呟きに反応しただけであって……)



 そして、この事態はあの三人も予想外だったようで固まっている。

 そりゃ、まさか平日の昼間にこれほどの反響があるなんて思わないだろうけど……でも、これじゃあ……



「まいったな……これではいつ入れるか……………」



 流石にこの行列を見てリューマ君は……ああ、いけない……ダメ、苦しい……どんどんリューマ君が……私との思い出……思い出したらつらい……だけど、その思い出を味わうことができないのもまた……




「仕方ない……帰るか……」




 切なそうに苦笑しながら踵を返すリューマ君に私はもうどうしていいか分からない……



(((……………)))



 それは、あの三人も同じみたい。

 



 やっぱり、リューマ君をどうにかしてあげたいよ……

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