前世で400年前とすると江戸時代ぐらい。そりゃあ異世界でも科学が発達するよね
俺たちはショッピングモールから数分歩いたところにある公園に到着していた。
街中で見たときは結構遠くに見えたけれど、実際は思ったほど離れていなかったらしい。
ただ、目の前に広がる景色は、ビルが立ち並ぶ都会の風景とはまったく違っていた。
――どこか寂れているように感じる。
公園は驚くほど広く、木々が揺れ、池が穏やかに水面を反射していた。風情があると言えばその通りだが、人がいないせいか、妙に静かすぎて落ち着かない。時計を見ると夕方だった。それにしても、これほど閑散としているのは少し異様だ。
「最近この近辺で誘拐事件が多発してるらしくて、人が少ないんだって」
「マジか」
おいおい、なんつーとこに連れてきてんのこの子!?
びっくりしすぎて普段より早口で答えちゃったよ。
「なーんちゃって、ウソですっ! 単純に夕方だから人が少ないみたい」
「…………」
「ふふふ、アオハルさまが焦ってるとこなんて初めて見ました」
いや普段から焦りまくりですから、表面には出ないだけで内心は焦りまくりですから、これ以上からかうのはやめてちょうだいな。
彼女は小さく「ごめんなさい」と言うと、視線を遠くへ向ける。その仕草には先ほどの言葉が単なるコミュニケーションの一環としてのいたずら心であったことが滲み出ていた。まったくお茶目な子だ。俺が説教してやらんといかんな!
さて、ここまでキラリちゃんとお出かけをした俺だが、一つ考えたことがある。
それは――キラリちゃんがどうして俺を「お買い物デート」に連れ出したかということだ。
まず大前提としてこれが「お買い物デート」ではないということだ。
理由としては非常に簡単――俺みたいなやつとデートに行きたい奴がいますかってんだい。
こんな無口で陰キャな奴と出かけても無言で気まずくなるだけですや。
あと、お買い物という割には結局のところキラリちゃんが何も買ってないことから他に何か目的があったのではないかと推測できる。
最初からウィンドウショッピングが目的だったなら、なおさら俺を誘う理由はない。
となれば、キラリちゃんが俺を連れ出した本当の目的とは何なのか。
それは――「歓迎会」の準備である。
そう、これははなから計画されていたものだったのだ。
発案者はおそらくマサムネとキラリちゃん。
きっと転校生でありながら、ぼっち街道を突っ走っている俺のために、二人はクラスメイトと友好を深める機会をつくってくれているのだろう。
キラリちゃんが俺と時間を過ごしている間に、その間にクラスの人間と交流が深いマサムネが人を集めている……そんな計画だと推測できる。
俺の思い上がりかもしれない。でも、それくらいしか彼女が俺を誘った理由が思い浮かばない。
あと、二人は俺がこれまで出会ってきた人たちの中でも、とびきり良い人であるのが理由だ。俺に連絡先交換を申し出てくれた時点で、俺からの好感度はMAXである。
ふっ、どうよこの名推理。名探偵と呼ばれるのも時間の問題かな。
そんなことを考えていると、隣を歩くキラリちゃんがふと立ち止まった。
俺もつられて足を止めると、彼女は周囲を見渡すようにして、少しだけ顔を上げた。
「アオハルさま」
夕日に照らされた髪がさらりと揺れて、風に乗って彼女の声が聞こえてくる。
「あそこに見える塔が見えますか?」
「塔……?」
キラリちゃんが指さした先には、遠くにそびえ立つ巨大な建造物が見えた。
前世のスカイツリーを思わせる形だが、その外壁は大理石のように白く輝き、まったく違う雰囲気を纏っていた。
「あの塔は『天魔王』が存在していた400年前からあったんだって。スゴイですよね」
へぇ、アレってそんな歴史的な建物だったんだ。
まぁ、実際に近くで見たときかなり壮大で真上を見てもてっぺんが見えないくらい大きかったし、歴史的建造物あるあるの荘厳な雰囲気っていうのはあるよな。
俺がこの異世界に転生した一五年前にも最初に目についたのがあの塔だったし、印象にはかなり残ってる。それにアカツキの中でも特に大きい建造物だから目にしない日はないしな。
「あの垂れ幕に400年前に勇者が天魔王を倒したって書いてるけど、天魔王が倒されなかったら、今頃世界は滅んでるか支配されているって言われてるから、勇者さんさまさまですよね」
「……そうだな」
あの『勇者が天魔王を退治して☆四百周年記念☆』とかいうドデカい垂れ幕ってまだあったんだ。……相変わらずなんかムカつくな。あの☆マーク。
ところで前にも語ったことがあったが、当時の天魔王とやらの脅威はかなりのものだったらしい。
しかも、400年経った今でもその力は完全には解明されておらず……。
ある説では、天魔王は自身の肉体を無尽蔵に強化する能力をもっている。
ある説では、未来を見通す能力をもっている。
ある説では、魔物の声を捉え、自らの手足のように操る洗脳能力。
ある説では、自分への認識を自由自在に改竄する能力、ある説では、触れるだけで幾千の病気を植え付ける能力。
ある説では、いかなる攻撃も通さないバリアのような能力
……どの説も、まるでファンタジーの悪役を詰め込んだような話ばかりだが、とにかく人間を遥かに超える超常的なバケモノだったことは明らかだ。
「それに、そんな世界を救った勇者さんの情報がないって不思議ですよね」
「ああ」
四百年前とはいえ勇者の名前や性別、顔立ちも分からないのはいくら何でもって感じだ。
というか敵の天魔王の方が分かっていることが多いぐらいだしな。バケモノじみた強さの天魔王を倒した勇者とはいったい何者なのか。
「わたし、思うんです」
キラリちゃんが空を見上げる。そして、ふっと柔らかく微笑む。夕日に照らされた彼女は一枚の絵画のように幻想的でとてもきれいだった。
「勇者さんはきっと恥ずかしがり屋だったんじゃないかって」
【衝撃情報】世界を救った勇者は陰キャだった。
「勇者さんは自分がいなくても世界は大丈夫だって。謙虚で優しくて、意志が強くて、自分に厳しい人」
【誤報】世界を救った勇者様は陰キャじゃなかった。ごめんなさい。
「きっと勇者はアオハルさまみたいな人だろうなって思いました」
【緊急速報】勇者は超ド級の陰キャだった。
……という冗談はさておき。
勇者が俺みたいって、流石にそれは勇者に失礼だろ。
勇者と俺なんて甘だれ醤油がある納豆とない納豆ぐらい差があるよ? 甘だれ醤油がないと俺、納豆食えないよ。
甘だれ醤油の有無で納豆は天と地、月とすっぽんぐらいに違いがあるんだからね。
それにしても、キラリちゃんってもしかして結構夢見がちな子だったり?
「――顔には出てないけど、アオハルさまが変なこと考えてるってことぐらいは分かりますからね」
「ごめんなさいでした」
怒られた。
顔は笑ってるけど怒ってるオーラが出てるよ、キラリちゃん。
キラリちゃんは「はぁ」と呆れたようにため息を吐くが、どこか楽しそうに目を細めていた。
そして、ふいに俺の方を向いて、まっすぐ目を合わせてきた。夕日に照らされたその瞳は、いつもより少しだけ強い光を宿している気がする。
「――アオハルさまが知りたかったこと、教えてあげますね」
あ、そうそう。マサムネとキラリちゃんが二人で企画してる歓迎会ね。どこでやるのかとか教えてくださいな。
少しだけ安心して頷くと、キラリちゃんは一歩近づいてきた。その瞬間、風が二人の間をすり抜け、彼女の髪がふわりと揺れる。
そして。
「わたしは――アオハルさまのことが好きです」
えっ…………………………歓迎会は?
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