さよなら平穏の日々、お久しぶり超現実の世界

「マホ……」

「何かしら? 何度も電話したのに出なかった約束破りさん」


 背中に冷や汗が伝う。

 マホは怒るとき、怒鳴り散らすよりも静かに怒りを示すタイプだ。だから、一見平静に見えるこの声も実際には――


「何か言葉は?」

「ごめんなさい」


 俺は素直に謝った。理由を話しても何の弁解にならないことは明白だからな。

 マホは小さくため息を吐くと「もういいわ」と言った。


「はぁ……マナちゃんとミアちゃんはあんなに素直でしっかりしてるのに、どうしてアンタはこうもダメなの? 昔からなにも成長していないじゃない」


 おいおい酷い言い草だな。トゲがありすぎて、俺の豆腐でできたメンタルが粉々になったんだが。


「お前こそ毒舌っぷりは健在じゃないか」


 小学生の頃から、相手が誰であろうとズバズバとものを言う彼女の性格は、賢さも相まって相手の心をダイレクトに刺激する。おかげで『大人泣かせのマホ』と変なあだ名をつけられていたくらいだ。

 なので、単なる毒舌ではなく歯に衣着せぬ物言いをする彼女の交友関係は極端に好かれるか、嫌われるかの二択だった。

 俺はむしろはっきり言われないと分からないタイプだから、結構好きだったりする。マゾって意味じゃないぞ。優しくはしてほしいけど。


「ここまで毒舌なのはアンタにだけよ。他の皆とはちゃんと仲良くしてるわ」

「…………」

「何か言いなさいよ」


 嘘だろ!? ……いや、たしかに昔からコイツは黎明院ってデカい家だから表向きの交友関係は薄かったが、裏では隠れファンクラブができるほどの人気者だった。

 ……そういえば、俺が話に加わっていなかったときは普通に話していたな!?

 もしかしてだが……。

 

「お前、俺のことが嫌いなのか……?」

「ぷっ、何それ」


 割と深刻に悩んでいるのに鼻で笑われた。

 コラァ! お前のせいだからな、俺が悩んでんのはァ!


 ……で、どうなんすか本当のところは。俺のこと嫌いなんですか、マホさん……いや、マホさまっ!


「別にアンタのことは嫌いじゃないわよ」


 ……ふぅ、よかった。正直マホとは少なくとも気兼ねなく話すことができるぐらいの仲だと思っていたから、これで嫌われてたらショック――。


「でも無口なのは問題よね。目つき悪いし、全身から闇のオーラみたいなの出てるし、話しても表情変わらないから何を考えているのかも分からないし。そこらへんは問題あるんじゃない? まぁ、私はアンタのそういうところ嫌いじゃないわよ。……他の皆は知らないけど。アンタのこと他の皆がどう思ってるかは知らないけど」


 うぉい! なぜ『他の皆』の部分を二回言った!? 暗に俺が嫌われてるって言いたいのか!? 前半で俺の心を言葉のマシンガンで撃ち抜いてくるし、やっぱりコイツ生粋のドSだな!


《さすがマホ様。マスターの特徴を的確に捉えていますね》


 お前も便乗するな! 寄ってたかって俺みたいな雑魚をいじめて楽しいか!?


「でも特別扱いは嬉しいでしょ? しかも美少女からのよ。そういうドM趣味の人にとっては、お金を払ってでも受けたいものなんでしょ?」

「たしかにお前は可愛いが、自分でそれを言うのか」

「あら、やっぱりアンタから見ても私って美少女なのね。ふふ。さぁ有り金全部渡しなさい」

「残念だったな。俺はMではない」


 いや自分の性癖なんて把握していないが、少なくともマホにいじめられて喜ぶような変態ではない……はずだ。


「黎明院家の次期当主候補がカツアゲじみたことをするのか」

「カツアゲじゃないわ、命令よ。抵抗するなら魔法で攻撃するわ」

「危険すぎるな」

「安心しなさい。私の魔法は超遠距離から攻撃が可能よ。絶対に捕まらないわ」

「違う、そういう意味じゃない。お前が危険人物だと言っている」

「この話はノンフィクションです。実在の人物、団体、事件とは関係しかありません」

「新手の犯罪予告だな」


 お互いにそんなバカな話をしていると、俺はふと口下手な自分が饒舌に話していることに気がついた。……いや、これが元々の俺とマホの距離感だったか。


「それで何の用だ。ただ話したかっただけじゃないんだろ」


 俺は本題を切り出そうと、予想を立てて尋ねた。


「え? 別に久しぶりに会ったんだから話したかっただけよ?」


 ……しょぼん。コミュ症の俺が他人の行動を予測するのは百年早かったようだ。恥ずかしさで顔が熱い。

 すると、スマホのスピーカーから穏やかに笑うマホの声が聞こえてきた。


「ふふっ、なーんてね。ちゃんと用件はあるから安心しなさい。ちょっと聞きたいことがあるのよ」


 俺はマホにからかわれる運命にあるのだろうか。昔からそうだったが、どうも彼女に勝つイメージが湧かない。


「聞きたいことって何だ?」

「その前に、アオハル。今、寮の部屋にいるのよね?」

「ああ、引越ししたばかりで荷物が散らかっているが」

「いいわね、新しい環境。……じゃあ、部屋の中に『黒い箱』があるだろうから、探してちょうだい」

「黒い箱?」

「ええ。さっき届けさせたから、あるはずよ」


 言われた通り、俺は引っ越し用のダンボールが散乱している部屋の中を見回す。すると、たしかに部屋の隅に見慣れない黒い箱が置かれているのを発見した。


「あったぞ」

「そう。開けてみなさい」


 マホに促され、黒い箱に近づく。サイズはそこそこ大きく、頑丈そうな質感の箱だ。ラベルもロゴも何もついていないのが少し不気味だが、箱の中身を確認しようと慎重に蓋を開けた。


「これは……アカツキ学園の制服か」


 中には、アカツキ学園高等部の制服が10着ほどきちんと畳まれて詰められていた。ブレザーにシャツ、スラックス、ネクタイ――全部新しい。今俺が着ている制服と同じデザインだが、手触りや質感が妙に上質だ。


「これはどういうことだ?」

「明日からそれを着て登校しなさい。サイズもアンタにピッタリのはずだから」

「いや、俺はもう制服を持っているんだが」

「必要だと思ったから用意したのよ。いいから使いなさい」


 質問に答えているようで答えてないぞ小娘!

 ただ、まぁ俺が持っている制服とは何か違うのだろう。あと、この制服に黎明院が関わっているのは間違いない。

 そういえば、マホと学校で話していた時、彼女は俺の全身をジロジロと見ていたな。あの時は『小学生時代よりも高校生になって体が大きくなったから違和感でもおぼえてるのか』と思っていたが、もしかしたらこれのためか……?


「この制服に何か特別な意味でもあるのか?」

「特にないわよ。ただ、アンタの今の制服より、そっちの方がきっとしっくりくるわよ。あとは……まあ、着てみれば分かるんじゃない?」


 お前……相変わらず自分勝手な奴だな。これだから黎明院は!

 というか今更だが、なんで俺の部屋にこの箱があるんだよ。

 荷物を受け取った覚えはないし、外に出るときも家の鍵はちゃんとかけて――あ、待てよ。たしかキワミに無理矢理連れ出されたとき、かけ忘れてたな。家に帰って来た時も開いてたし、多分、あの時にやられたんだろう。


「それで、黒い箱を見せるのが本題か?」

「いいえ、これからよ」


 ここからだと言わんばかりにマホの声が低くなる。軽口はここまで、という雰囲気が一気に漂った。

 そして、俺もさっきから嫌な予感をビンビンに感じている。マホがこうして何か物を渡してきて話を切り出すとき、それは大抵厄介ごとを押し付けてくることが多い。


「アオハル、最近のニュースは見てる?」

「いや、見てない」


マホは「そう」と短く返し、ひとつ息を吐く。そして、核心に触れるように口を開いた。


「――ここ最近、魔法少女が行方不明になっているのよ」


 ……どうやら俺は、超現実的な問題に巻き込まれてしまうらしい。






―――――――――――――――――――――

《あとがき》


かなり長くなってしまいましたが、ようやく導入部分が終了しました。

次回からは物語が本格的に展開していきます。



「いいぞもっとやれ」

「もっと読みたい!」


と思っていただけましたら、

★評価とフォローをよろしくお願いします。


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