<序章「クランツァ・ハザリー」と第1話「クランツァ・ハザリー」を読んでのレビューです>
物語は、戦場で生き残った兵士の視点から始まり、泥と血の匂いの中で砲弾症に苦しむ仲間を描写する。序章では、生と死の間で揺れる心理、肉体の限界、戦争が人間にもたらす異常さが静かに、しかし鮮烈に伝わってくる。第1話に入ると、戦場から日常へと舞台が移り、肉屋や市場での描写を通して、戦争後の世界や異人種の存在、銃と魔術の時代的変化が自然に示される。こうして緊張感の高い戦場描写と、穏やかだが神経を研ぎ澄ませる日常描写が交互に現れることで、物語に独特の奥行きが生まれる。
個人的に印象的だったのは、「顔を上げる。オルト・ゲラスが乾燥肉を手に持っている。ここは彼の肉屋で、肉を買いにきた。何を考えていたのか、何を思い出していたのか。最近、頻繁に集中が途切れる。意識がぼんやりして時間が飛ぶ。確実に悪化している」という一文だ。戦場での心理的疲弊が、日常の一瞬の買い物場面にまで影響していることが静かに示され、読者は戦争の余波を現実的に実感できる。この細やかな描写は、登場人物の内面と世界観の厚みを増している。
序章の戦場描写で生と死の緊張を味わった後、日常の細部に目を凝らすとまた面白い。市場の雑踏や異人種との接触、銃と魔術の時代的変遷など、世界設定のリアルさを意識すると、物語の奥行きがさらに深まる。クランツァの冷静な観察眼や、少女との邂逅の予感も、次回以降の展開を想像しながら読むと楽しさが倍増するだろう。