単身赴任

本庄 楠 (ほんじょう くすのき)

第1話

 岡谷雄一おかたにゆういちは、九州では一番店舗数の多いス-パ-『アスカ』に勤めていた。

 現在、福岡県の郡部にある宮若みやわか店が職場である。営業担当次長であった。次長は二人居て、営業担当と、後方担当に分かれていた。

 彼の配下には、十一課の営業課があり、各課の営業運営を統括する立場であった。売り上げ実績や粗利額、在庫、ロスなどを管理する職位である。彼は、市立の北九州大学を卒業して、四月の定期入社社員として就職したのである。プロパ-社員そのものである。今年で入社十五年の、いわゆる中堅社員であった。

年齢は三十八歳である。家族は妻の由美子ゆみこと長女の明美あけみの三人家族であった。(別所帯で両親は居た)。由美子は雄一より一つ年下の三十七歳だった。九州女子大の卒業だった。

 長女の明美は、中学一年生だった。 

 今の雄一の目標は三十代で、店長になる事だった。同期入社の中には、既に五人が店長になっていた。彼は入社した年の十月に結婚して、翌年には長女の明美の誕生と、家庭的に忙しくて、少し遅れを取った。と彼自身は思っている。

 昇格には、年二回の人事考課で、A評価を取り、昇格試験に合格する必要があった。今年はそのチャンスが来そうであったのだ。宮若店に赴任して三年目が過ぎた。そろそろ異動がありそうな気がしていたのである。

 そして、異動辞令が本当に出されたのである。転勤先は、新店で、今年の十月に開店する予定の店だった。それは、鹿児島の奄美大島の店である。離島であった。現在、島には大型店は無く、出店依頼があっての新店であった。

 アスカは長崎の壱岐にも店舗があり、離島運営のノウハウを評価されての出店依頼いとのことらしい。

 店舗は、今、建設中である。十月の開店予定なので、雄一たち転勤する社員は、福岡の本社で、二週間の説明会兼研修を受けることになった。そして、開店二ヵ月前に現地へ移動して、実務を兼ねた研修をすることになる。それまでには、店舗は完成する予定である。

 辞令が発令されて、平成五年八月三日に社員総勢十五人が現地に着任した。(二名は二ヵ月前に先行して着任していた)。全スタッフでは、二十六名であった。

 店舗は完成していた。あとは、什器を入れて商品搬入をするだけである。

 店長と採用教育担当次長のふたりは、二ヶ月前に先行して来島していた。各種の許認可申請や、地元人との交渉、地元民の採用についての根回し等の為だった。

 先ずは住居の確保である。今回、家族帯同者は、家具・インテリア担当の課長だけだった。他の社員は独身者と単身赴任者である。単身赴任者は、店長と雄一を含む四人の次長と五人の課長であった。

 雄一が入居する予定のアパ-トは新築で、まだ、工事中であった。五人の課長と雄一がが入居する予定である。完成は一ヶ月後の予定だった。それまではホテル住まいとなる。その費用は会社が払って呉れることで、人事も了承している。

 地元社員の採用は、店長と採用教育担当次長の仕事であった。営業課の課長は、本社のバイヤ-やスーパ-ヴァイザ-たちと、導入商品の検討や、取引先、売り場レイアウト等を検討した。それらの作業が終わると、次は地元社員の教育が始まった。

 奄美大島の夏は暑かった。日中は四十度近くになる。これには皆閉口した。それと、スコ-ルのような土砂降りの雨が急に降り出したりする。島の天気の特長であった。

 全ての研修、地元社員の研修も終了して、商品も搬入された。

 店舗は三階建てで、店名は【プラザアスカ大島店】と命名されたのである。

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