エピローグ

「――十彩、く……」


 ――ピーーーー…………。



 誰かの命の終わりを表すかのように、残酷に、美しく、その音は鳴った。


 ……本当に、君は、死んでしまったの? もう、生きていないの? あの温もりを感じられないの? 笑顔を、見れないの?


「……温海さん」

「なんで、しょうか?」


 隣で静かに涙を流していた十彩君のお母さんがおもむろに話し始める。


「温海さんは、『十彩の一番大切な人』だった?」



 十彩君の一番大切な、人。

 今までの私だったら、私がそんなに十彩君に影響を与えることができていただなんて夢にも思わなかっただろう。


 ――だけど、


「はい」


 今は、違う。私にとって十彩君は大切な存在だった。それと同時に、彼にとっても私は大切な存在だったはず。そう信じたい。いや、そうに違いない。



「……やっぱり、貴女なんだね」


 十彩君のお母さんは泣きながらも、必死に笑みを浮かべた。




「十彩の病室に、貴女への最期の贈り物があると思うの。受け取って、くれる?」



 ……最期の、贈り物。その響きが、愛しくて切ない。



「いってきますね」


 十彩君。私はもう、逃げたりしないから。




 見慣れた十彩君の病室。毎日通い続けたあの場所。いつもと変わらないはずなのに、「彼」だけがいない。なんだか、そのことが無性に悲しく思える。



「……これ」



 いつもと変わらなく、なかった。ベッドの上に置いてあった一枚の紙。そして、その周囲に散らばった筆や絵の具。



「……十彩君が、描いてくれたの?」



 その一枚の紙には――綺麗な、綺麗な太陽が描いてあった。


 最期に会ったときの記憶が思い出される。


『太陽みたいな心橙自身が、僕の青春だから』


 そして、彼の切羽詰まったようなあの表情。


 昔した、あの話。


『十彩くんはさ、中学校時代何部だったの?』

『美術部だよ』

『なんか十彩くんって感じするなぁ~。今度、試しに絵描いてみてよ』

『気が向いたらな』


 冗談のつもりだったのに。無理は、させたくなかったのに。


 でも、彼の心がどうしようもなく嬉しい。彼が、愛しい。


「――十彩君、私今日まで君の彼女だからね」


 誰が返してくれるでもない独り言を呟いてみる。数日前まで、十彩君が返してくれるのが当たり前だったのに。その寂しさを実感して心が痛む。



 もう一度、絵を綺麗に広げてみた。



「――綺麗、だよ」



 その太陽は、煌めいていて。君には明るい未来が待ってるよ、って呼びかけてくれるような感じだった。君の存在を感じることができた。


 さっきの会話の続きを、ふと思い出す。


『じゃあ、心橙は何部だったんだよ』

『文学部~』

『へー。ちょっと意外かも』

『なによ。私が小説書いたらだめ?』

『意外だっただけだよ。それなら、心橙も書けたら見せてくれるか?』

『そうだね。頑張るよ』


 ――十彩君は、約束を守ってくれたんだよ。


「·····生きてる私が、約束破ってどうするの!」


 書こう。今すぐにでも。自分の色で、好きなように。めいいっぱい。


 そうしたら、きっと見えてくる。


 明日への道が。


 希望が。


 


 ――透明なこの世界に、オレンジ色の彩りを。

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青春、それはオレンジ。【カクコン10挑戦中っ!】 天照うた @詩だった人 @umiuta

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