第9話
「なぁ、心橙」
「……なに?」
「最期に……青春の色の話、してもいい?」
「…………うん」
「最期」という言葉に動揺したのか、心橙の言葉は、少し震えていた。
「僕の青春は、まさしく今なんだよ。普通だった中学校時代でもなく、全力で頑張った高校の一ヶ月間でもなく、今なんだ」
「――その時間が、有限のものでも?」
「うん。この時間が僕にとって大切なものだったら、関係ない」
心橙は「……そっか」と少し嬉しそうにつぶやいて、「ごめんね、話遮っちゃって」と言った。
「色について、考えてみたんだけど」
「うん」
「今まで僕はさ、温もりってのがわからなくて。幸せも、わかんなくて。――全部のことを、君に教えてもらったんだよ」
「……うん」
心橙の存在を感じる。聞こえてるのは声だけだけど、生きてるってわかる。
「――僕の青春の色は、オレンジ色だ」
「……オレンジ」
心橙がその言葉をゆっくりとかみしめるように呟く。
「僕は、『優しさ』を知らなかった。『幸せ』を知らなかった。でも、君に教えてもらったから、それがわかった。その色は、とても、とても暖かいオレンジ色だったから」
「……いいじゃん」
「あと」
僕は、人生で一番の笑顔を浮かべる。
「君がくれたみかんとか、一緒に見た夕焼けとか、太陽みたいな心橙自身が、僕の青春だから」
「――嬉しいな。ありがとね」
僕に見えない君は、今どんな顔をしているのだろうか? 僕の大好きな笑顔を浮かべている? それとも、涙を浮かべているのだろうか。
「私、『高嶺の花』でよかった」
「その名前…………」
「知ってるよ、さすがに。周囲とは仲良くできなかったけど、そのおかげで十彩君と出会えたから、いいの」
君を、私は無理して笑わせていないかな? 大丈夫だろうか。
「……私さ、気づいたら十彩君のこと大好きになってて。普通のクラスメイトだったはずなのに。ねぇ、なんでだろう? 私は十彩君のいない世界でどう生きればいいんだろう?」
「ごめんな、本当に。僕はいないけれど、君は生きてる。生きてるだけですごいよ。だから、頑張って生きてほしい」
「――生きてるだけで、いいの?」
「あ、あと一個」
ひとつ、呼吸を挟む。
「笑顔、忘れるなよ?」
そのときだった。
――ピンポンパンポーン。五時、五五分です。面会の方はそろそろお帰りください。
――お別れの、チャイムが鳴ったのは。
「ねぇ、十彩君。最後に、したいことしていい?」
「したいことって――」
そのとき、なにか柔らかいものが唇に当たった。それは、五秒間ほど僕の唇に当たり、そして離れた。短かった。短かったのだけれど、僕にとってその五秒間は長かった。
「――ばいばい」
僕たちは、最期のお別れをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます