※ 第30話 力の差
「ゔぅ……っ」
痛い
苦しい
辛い
やっぱり無謀だったのか……?
でも、水城を納得させるには水城の得意なフィールドで戦うしかないと思って……
「勝負あり、ですわね。さてどう可愛がって差し上げましょうか。せっかくですし芽衣の目の前で辱めて……」
「まだ、だ……!」
「……あら?」
深く息を吐いて、腹筋に力を入れて、よろよろと情けない動きだけど……どうにか立ち上がって拳を構える。
「まだ、勝負は終わってない……!」
「そういえば決着のルールは決めていませんでしたわね……まぁ、降参したらで良いでしょう」
「んんっ!」
「……あぁ、なるほど」
拘束されている芽衣がガチャガチャと鎖を鳴らす。
それを横目に見た水城が、今度は私を小馬鹿にするように冷笑した。
「芽衣に降参と言わせない為に口を塞いだ、と。
それとも、慰めの言葉を掛けられたら決意が揺らいでしまうから?」
「どっちでも良いだろ!」
走って
右腕を引いて
水城の顔面に向かって拳を振るう。
次の瞬間、先程以上の衝撃と痛みに襲われ……私はまたも倒れ伏した。
「ぇ……ぁ……」
「まったく……学校のお勉強は出来るのに学習能力の無い子ですわね。まだやるつもりですの?」
「当たり前、だ……!」
「ふむん……」
水城は考え込む仕草を見せると、わざとらしく明るい声を上げて。
「でしたら、顔は殴らないでおいて差し上げますわ。
えぇ、顔の腫れた女を“可愛いがる”のも興醒めですもの」
その声とは裏腹に、その表情にはサデスティックに歪んだ微笑が刻まれていた。
「ゔぅ……!」
何度殴られただろう。
何度倒れたのだろう。
痛くて苦しくて、見苦しく足をバタつかせてどうにか痛みを紛らわせようとする。
「酷い醜態ですこと。そろそろ私も飽きてきましたし……いい加減降参してくださらない?」
「ぐぁ……っ!?」
仰向けになった私の身体。
水城は散々殴られて悲鳴を上げる私の腹部に足を乗せ、グリグリと捻り込むように体重をかける。
「あ"あ"あ"ぁ……っ!」
「ふふ、今降参すれば多少はマイルドに可愛がって差し上げますわよ?
そうねぇ……裸の四つん這いで散歩する、とか。
今なら芽衣も一緒に散歩させてあげますわよ?
それとも……やはり芽衣の目の前で徹底的に調教して差し上げましょうか?
主人である私の事しか考えられなくなるぐらいに、じっくりねっとりと……」
「ゔぅ……っ!」
更に腹部への圧力が強まる。
押しても殴ってもビクともしない……っ
「ですがまだ強情を張られるのでしたら、仕方ありませんわね。
もっともっともっと苦しみ抜いた末に屈服した暁には……私の下僕共の相手をして貰いましょうか」
「いぎぃぃぃぃぃ……っ!?」
更に強く私のお腹を踏み躙られ、苦痛の声を上げさせられる。
痛い痛い痛い痛い痛い……っ!
勝手に涙と鼻水が流れ出て私の顔はぐちゃぐちゃだ。
気持ち悪くて、頭もガンガンして……
水城の足から逃れようと身体を捩る。
だけど水城は私のお腹を踏みつけたままで、その足を退かす事は叶わない。
「ふふ、良い光景ですわね?
そんなに足を退かしてほしいなら懇願しなさいな。
惨めに、無様に、恥も外聞もなく私に懇願なさいな! さぁ!」
「……ぁ」
私、は……
「……お願い、します……っ」
「あら、声が小さくて聞こえませんわね?」
「っ、お願い、します……! 足を退けてください……っ!」
「もっと大きな声で」
「お願いします! 水城様の足を退けてください……っ!」
「ふふ……あははははははははははっ!!」
水城の足が退けられ、私はお腹を庇うようにしながら身体を丸める。
「ふふ、まぁ素人にしては頑張った方ではなくて?
その努力を鑑みて多少は……なに?」
水城が不満気な声を上げる。
立ち上がって、ファイティングポーズを取る私を睨みながら。
「なんのつもりですの?」
「まだ、終わってない……! 私は足を退けて欲しいと頼んだだけで降参した訳じゃない……っ!」
「理解に苦しみますわね。これ以上続けても苦痛が大きくなるだけ……そんな事自分が一番良く分かっているでしょうに」
「それは水城も同じだろ! 何時まで友達から逃げてんだ!
何時まで芽衣から逃げ続ける気だ……っ!
寂しがり屋の癖に友達作るのが怖いからって人を下僕扱いして誤魔化して……そんなの苦しいだけだろ!」
「何を……!」
「お前に勝って……対等の存在になってやる!」
自分で分かる。これが最後だって。
痛む身体と萎えそうになる心に鞭打って、気力を振り絞って駆け出す。
「はああああああああっ!」
左足を踏み込んで、前のめりになりながら右手を突き出して……
「遅いですわね」
水城の拳が、私の腹部に突き刺さった。
「……あ"ぁ……」
「ちょ、汚い……離れなさいなっ!」
倒れたくないから、必死に両手で水城の右腕を掴んでこらえた。
水城は左手で私の身体を引き剝そうとグイグイと押してくる。
……今の水城は、ノーガードじゃ……?
そう思った瞬間には、もう勝手に身体が動き出していた。
足に力を入れて、一歩踏み出して、背筋を伸ばして。
いつか失敗した頭突きを、今度こそ文字通り……水城の顔面に叩き込んだ。
ガチン、と音が鳴って
視界が一瞬白くなって
それでもどうにか目を開いて
あぁ……
それでも水城は、立っていた。
やっぱり私じゃ、水城には勝てなかっ……
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