第26話 芽衣ママ、ご満悦


「お待たせー」



芽衣が皿に乗せて運んできたのはフワッフワのパンケーキ。

ミニテーブルに置かれたそれはバターが溶けていて、メープルシロップもたっぷりかけられている。



「愛花ちゃんの為に愛情をたっぷり込めて作りました」


「ありがとう。普通に美味そうだな……」


「はい、あ~ん♪」


「えっ」


「あ〜ん?」


「……あーん」



一口サイズに切り分けられたパンケーキを芽衣に食べさせられる。

甘くて、フワフワで、見た目に違わぬ美味しさだ。



「……美味しい」


「良かった〜♪ いっぱい食べてね?」


「うん……」



にしても……高校生にもなって同級生にあ〜んされる日が来るとは。

……いや、恋人同士なら不思議じゃない、か?



「わ、どうしたの?」


「い、いや……」



不埒な想像を振り払おうと頭を振ったら芽衣をビックリさせてしまった。



「ふぅ、ごちそうさま」


「いっぱい食べれて良い子だね〜♪ お口拭き拭きしようねー?」


「んぷぇ」



有無を言わさず口を拭かれる。

赤ちゃんプレイは不可だと言ったのに、ここぞとばかりに赤ちゃん扱いされてる気がする。



「……ん」


「どうしたの?」



昼食を終えて再び抱っこされて。

だけど多量のミルクを飲んだからか催してきた。



「お手洗いに……」


「あ、そうだよね! 連れてってあげるね」


「いや、場所教えてくれたら一人で行くから」


「手伝わなくて平気?」


「それだけは一人でするから……!」



名残惜しそうな芽衣をどうにか宥めてトイレへ向かう。



「おや?」


「あ、お邪魔してます」



その帰り道、中年の男性と出会った。恐らく水城の父親だろう。

こちらも水城の凶暴性に反して、至ってまともな人に見える。



「芽衣の友達かな? 芽衣のお世話好きに付き合うのは大変だろう?」


「いえ、コレがお礼になるなら幾らでもやりますよ」


「頼もしいね。……海里は迷惑を掛けていないだろうか?」


「水城さんは……喧嘩はしますが弱い者イジメはしない人ですから。

少なくとも私は被害に遭っていませんし、水城さんは多くの人に慕われていますよ」


「そうか……いや、海里は幼い頃から好戦的でね。

何時までも芽衣にお守りをさせる訳には行かないと蒼ヶ谷に行かせたんだが……良い友人に恵まれて良かった。

……と、つい話し込んでしまった。引き留めて悪かったね。芽衣も待っているだろうし早く行ってあげて」


「はい、失礼します……」



礼儀正しく一礼してすれ違う。

うん……とても常識的な男性だな。これであの水城が何故あんなバーサーカーになってしまったのか不思議でならない。



◇◇◇◇◇



「さ、あーんして」


「あー……」



あの後時間を潰し、この部屋で夕食を取り……歯磨きタイム。

最早抵抗は無駄だろうと思ったので、大人しく口を開けて芽衣に磨いて貰う。



「あ、よだれ垂れてきちゃったね」


「……っ!?」



当たり前の事ではあるけど……口をずっと開いていたらよだれは出てくる。

洗面器で受け止めてくれたから汚しはしなかったけど、それでも羞恥で顔が熱くなってしまう。



「ぇぅ……」


「ダメ」


「ぇっ」


「口閉じちゃメッ、だよ?」


「うぇー……」



穏やかなのに有無を言わせない迫力で。


恥ずかしい

恥ずかしい

恥ずかしい


私の顔が赤くなってる事には気付いてる筈なのに。

それでも無様によだれを垂れ流す私を見るのが楽しいのか、芽衣は私の歯を磨いている間ずっと上機嫌に微笑んでいた。

……芽衣にもSっぽい願望があったりするんだろうか?



「はい、ぐちゅぐちゅぺってしてー……良く出来ましたー♪ 良い子良い子♪」



めちゃくちゃ上機嫌だ。

私は何か人としての尊厳やら何やらを失った気がするけど。



「じゃあ片付けしてくるね?」


「行ってらっしゃい」



歯磨きセットを持って部屋から出る芽衣。

何に時間が掛かっているのか、それから十数分後……



「お風呂の準備出来たよー」



とても晴れやかな笑顔で帰ってきた。






「脱ぎ脱ぎしましょうねー」



脱衣所で服を脱がされる。

そこはもう覚悟していたので気にはしない……けど。



「デカっ……」


「? 何か言った?」


「いや……」



ハーフだからなのか、芽衣の胸や背丈は……とても大きい。

色白だし、しかも引き締まった身体も相俟って芸術作品のような美しさがある。



「足上げてー」


「はい……」



何故か敬語になってしまう。

服を脱がされるのは覚悟していた。

でも流石に芽衣の肩を掴んで下着を脱がされるのは恥ずかしさのレベルが違う。

何しろ私のあそこが芽衣の目の前に晒されているのだから。



「さ、行こ行こ!」



芽衣に手を引かれて浴室に入る。

デカい屋敷に相応しいデカい風呂だ。

銭湯並みとは言わないけど、それでも余裕で複数人入れそうだ。



「……?」



その中に、微かに漂う石鹸の香り。

妙に熱気も籠ってたし、直前に誰か入っていたのだろうか。


……もしかして水城か?

風呂の準備に妙に時間が掛かっていたのは水城が風呂から出るのを待ってたのか? 私と水城が鉢合わせするのを避ける為に……



「座って座って!」



芽衣に促されて風呂椅子に腰掛ける。心地良い温度のお湯で髪を濡らされて、シャンプーで頭を洗われる。

流石というべきか、非常に気持ち良い手付きだ。



「痒いところはありませんかー?」


「大丈夫……」


「良かった♪ じゃあ流すねー」



芽衣がシャワーヘッドを持って、私の頭にお湯を掛ける。

そしてシャンプーを洗い流して……今度はコンディショナー。

これも丁寧に髪に塗り込んで行く。



「はい終わり! お背中流しまーす♪」


「うん」



もうどうにでもなれ、と身体も洗って貰う。



「わひゃっ!?」



でも手で直接洗われるのは予想外だろ……!?



「な、なん……っ!?」


「ほら、赤ちゃんのお肌はデリケートだから」


「赤ちゃんじゃねーって……っていうか芽衣ママって本当は女児より赤ん坊の方が好みなんじゃないか?」


「どっちも好きだよ」


「そんな揺るぎない瞳で……」



「腕上げてー」

「お尻上げてー」

「足開いてー」



……本当に、全身隈なく洗われた。身も心も丸裸にされてしまったな……

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