第17話 暴の女神
「ここだよ!」
「うぉぉ……」
デカい。
水城が良い所のお嬢さんだっていうのは知っていたが、まさかこんなデカい屋敷に住んでるとは。
「こんにちはー! 恋でーす!」
「ようこそおいでくださいました。お嬢様達がお待ちです」
「お、お手伝いさん……」
玄関先で私達を迎えてくれたのは和装を纏ったお手伝いさん。
お手伝いさんとか本当に居るんだな……
「武家? なんだって。地主とか社長とかでお金がいっぱいあるみたい」
「ほぇー……」
そんな裕福な家庭に生まれてるのに何であんなタイマン思考に育ったのか。武家の血か?
「こちらです」
案内されたのは障子で仕切られた部屋。
お手伝いさんが座って障子を開けた。
「来たわね」
「わざわざごめんねー?」
私達を出迎えたのは、顔に痣を作った涼音と木ノ葉。そして……
「くっ……! さっさとこの縄を解きなさいなこの臆病風に吹かれたチキン女の皆様方!?」
同じく顔に痣や引っ掻き傷を作り、手足を縛られた水城 海里だった。
「これはどういう事……ですか?」
一応今は委員長モードだから口調には気を付けないとな。
「あら、別に猫を被る必要はなくてよ天王寺さん。
随分とウチのメンバーと仲良くして頂いているみたいですわね?」
バレてる……! チラッと涼音を見ると、諦めなさいと言いたげに首を振った。
だったら隠すのも往生際が悪いな。
「……まぁ、な」
「それならわたくしの気持ちも分かるでしょう?
この縄を解いて頂ければ不祥事を働いたバン君を縛り、調教し、屈伏させて犬に墜として差し上げますわ。
五行輪舞や恋を侮辱したSilver Kongのkojiとやらに至っては奴の×××を×××して×××な目に……!」
すげー口悪いな……
分かってはいたけど、水城が敵意を抱く相手にはこんな直接的に暴言吐くのな。
「涼音はコイツを抑える為に駆り出されたのか?」
「そうね、玲於奈は戦力にならないし。
普段なら芽衣だけでも何とかなるんだけど、今回は海里もマジギレしてたから」
「お互い青痣作るまで殴り合うなよ……」
「この暴れチビ猿に言いなさいよ」
「誰がチビですってこのヒョロガリシルバー女!
そのピアスがジャラ付いた耳を引き千切って差し上げましょうかっ!?」
涼音は言う程ヒョロガリじゃないし、水城だって身長は平均レベルなんだけどなぁ……
「カイ」
そんな顔の良い女同士の言い争いを眺めていると、恋が水城の元に歩み寄った。
そのまま正座して水城の頬に両手を添える。
「ありがとう。カイはボク達の為に怒ってくれてるんだよね?
だって普段だったら同意を得ないで喧嘩とか……ましてや襲撃なんて考えないし。
でもね、ボクはそんな事の為にカイに悪い事をしてほしくない。
仲間内で殴り合うなんて事、してほしくないんだ」
「っ……!」
水城が恋の言葉に息を呑んで、そのまま俯いた。
「カイはそれでも納得出来ない?」
「当たり前でしょう。私も、恋も、五行輪舞も……侮辱されて黙っている程私はマナーの成っていない女ではありませんの。
恋が人知れず泣いていたのも分かっています。
その元凶には流した涙の十倍の血を流させる事こそが淑女の勤めというものですわ」
「ボクはもう大丈夫。みんなのおかげで立ち上がれた。
だからカイも報復なんて考えないで。カイにはずっと五行輪舞のキーボードをやってて欲しいんだ」
「……まったく、お人好しですこと」
ふっ……と水城が脱力するのが分かった。
「誰か縄を解いて頂けませんこと? もう襲撃などするつもりは無くてよ」
「はーい」
木ノ葉が手際良く縄を解いた。
水城は自由になった手足と身体をグッと伸ばす。
その動作だけでドキっとさせられてしまうのは、整った顔にスタイルとフィジカルを両立させるように鍛えられた身体。
そして身に纏う、まるで野生の豹を思わせる暴力的な気品故か。
……もし恋と同じグループじゃなかったらコイツがトップを張ってたんじゃないか?
「さて、芽衣。医者をお呼びしてくださる?
打撲と切り傷の患者が居ると伝えて」
「はぁい」
「……気付いてたのか」
「私、刃物を持った相手と喧嘩した事も、切り傷を負った事も一度や二度ではなくてよ?」
「流石だな……」
「それで、これからどうしますの? 依然として五行輪舞とバン君の枕営業疑惑は払拭されないまま。
kojiとやらへの抗議もしない事にはバンド活動もままなりませんわよ」
「それは……五行輪舞って動画サイトやSNSはやってない、よな?」
「そうね」
涼音が気怠そうに答えた。
恋や土屋は純粋というか子供っぽいから向かないだろうし、涼音は面倒に感じるだろう。
水城は……絶対暴言吐いて炎上するしな。
適性があるのは木ノ葉ぐらいか?
「うーん……何かしらのアカウントを作って、バン君の枕問題とは何ら関わってない事。
kojiの発言に激しく憤っていて抗議する、という旨を発信した方が良いと思う」
「ま、泣き寝入りよりはマシですわね。芽衣、頼みましたわよ?」
「はーい」
「後は身近な所で言うと学校だな。そこの誤解も早く解かないと。……私も私で無断欠席だから面倒だけど」
「それに関しては玲於奈に上手く伝えるように言っておいたから」
「あぁ、悪いな涼音。……土屋、かぁ」
「レオがどうかした?」
「土屋って下級生からも上級生からも可愛がられてるよな?」
「可愛いからねー」
「土屋に、五行輪舞に疾しい事は無いってのを学校中に広めて貰えないか? 土屋の交友関係の範囲で良いから」
「そう伝えてみたら? 頼み事をされたら喜んで引き受けるんじゃない」
「だな。よし……」
もうすぐ昼休み。
土屋にメッセージを送ると、威勢の良い返事が返ってきた。
今の所、これ以上に出来る事は無い、と思う。
後は流れに身を任せるしかないな……
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