第3話「魔法が使えない!?」

 お母様が、右腕を胸の高さくらいに上げて、標的の人形に手のひらを向けた。

すると、ふわり、とお母様のきれいな青く長い髪が巻き上がった。

そして、水色の湯気のような魔力の流れが立ち昇り始め、やがて右手に集まり様々な図形が複雑に組み合わされた“魔法陣”が展開される。


「ウォルタ・バリート」


 お母様が魔法の名前を口にすると、右手の魔法陣から野球ボールくらいの水の玉が超スピードで発射された。

人形に当たると、その胸の辺りが丸い形に貫通している。

中々の威力……私が前世で使っていた制圧射撃“マリン・ショット”くらいかな?


「わぁ……!」

「どうかしら?ラピスちゃん」

「すごいです、おかあさま!」

「流石ですね、義姉上」

「ウフフ!ラピスちゃんに褒められちゃったわぁ〜」

「さて、ラピス。見てもらった通り、義姉上が得意としているのは水属性の魔法なんだ」

「みずぞくせい」


 魔法って、属性とかあるんだ。

やっぱりこの世界の魔法は、前世の私が使っていたものとはだいぶ違いそう……。

私のやつは、強いて言うならなんだろう……光とか?


「ああ、ラピスもおそらく水属性に高い適正があると思うのだが……」

「ちょっとラキロ、まだラピスちゃんは魔力属性に詳しくないんだから」

「ん?ああ、そうですね……ラピスはまだ三歳になったばかりだったんだ。なんというか話していると……学園高等部の生徒くらいに感じてしまうんだよな……」

「そ、そうですか?」

「たしかに!ラピスちゃんはしっかりしてるからね〜」


 お母様はニコニコとしているけれど、内心私は穏やかではない。

実際私には前世で積み重ねた分の経験もあるわけだから……本当の三歳児と比べると年上に感じられるかも。

それにしても、叔父様は鋭い。

年齢で言えばそのくらいがドンピシャだ。


「ところで、どうかしらラピスちゃん。今のは体内の魔力を右手に集めて発射する魔法なのだけれど、わかったかしら?」

「はい、なんとなくは……」

「……すごいわね。普通、はたから見てたくらいだとわからないと思っていたのだけれど」

「やはりラピスは凄まじい魔力を持っているのかもしれないね」


 お母様も叔父様も驚いた顔をしている。

私としては、そんなに難しいことには思えなかったけれど……。

前世の経験が、今の私の感覚にも活かされているのかもしれない。


「おかあさま。わたし、まほうやってみます!」

「あら、ラピスちゃん?別に急ぐ必要は無いのよ?魔力を知りたいのは結局ラキロの都合なのだし」

「わたしがやってみたいんです!」

「まあ〜!ラピスちゃん、とっても意欲的なのね!わかったわ〜!……ラキロ、ラピスちゃんに守護魔法を」

「もちろん!魔法が暴発しても一切ケガをしないように、初めから超強力な守護魔法を重ねがけしていますよ」


 か、過保護……。

いやでも子供が初めて魔法を使おうとしているって時なら普通のことなのかな?

魔法が暴発するって言ってたけど、そういうことはままあることなのかもしれない。


「よーし、それじゃあしっかり教えてあげるからね!」

「はい!おかあさま!」


 さっきの人形とは別の的──今度は普通に弓道とかで使ってそうな丸い的だ──の前に移動して、お母様と叔父様に隣に立ってもらう。

いよいよ、この世界に来て初めて魔法を使うわけだ。

少し緊張する。


「ラピスちゃん、まずはこうやって手を前に出してみて?」

「うん!」


 とりあえずさっきのお母様みたいに手を肩の高さくらいでまっすぐ伸ばして……こうかな?

うん、多分いい感じ。


「うん、いい感じね。そのまま、体の中にある魔力の流れを意識してみて」


 魔力の流れ……お母様のは水色のできれいだったな〜、私の魔力はどんな色だろう?

……………………ん?

ちょっと待って、体内の魔力の流れってどうやったらわかるの?

前世ではそんなの考えたこともなかったんだけど?


「む〜〜〜!」

「うん、できてるできてる。その調子よラピスちゃん」

「ほ、ほんとうですか……?」

「ええ、ラピスちゃんの魔力の流れが見えているわ。ねえラキロ」

「ええ、義姉上よりも濃い青色の魔力ですね」

「こいあおいろ……ですか?」


 力を込めてギュッと閉じていた目を開くと、たしかに自分の体から群青色の煙が出てきている。

な〜んだ、できてるじゃん。

難しく考える必要は無かったか。


「綺麗な色ね〜。よし、次はそれを手のひらに集中させてみるのよ」

「わかりました」


 手のひらにこの煙を集約させるイメージで……。

力を手に集中……!


「ぬぅ〜〜〜!」

「おおラピス!とても魔力操作が上手だぞ!」

「どんどん手のひらに集まってるわね!」

「ほ、ほんとうだ!」


 青い魔力が手のひらの前で徐々に図形を象っていく。

イメージするのは、お母様の魔法……水の塊を的に発射するアレを!


「ウォルタ・バリートッ!!」


 プスン……。

そんな音がして、手に集まっていた魔力が霧散した。

あれ?


「うぉ、ウォルタ・バリート!ウォルタ・バリート!ウォルタ・バリートォッ!!」


 何度叫んでも、腕を振り回しても、魔法どころか水の一滴も出てこない。

あげくには、魔力の使いすぎか疲労かはわからないけど、立っていられず膝をついてしまう。


「ら、ラピスちゃん!大丈夫!?」

「お、おかあさま……わたし……わたし……!」

「大丈夫、大丈夫よ。初めてだもの、いきなり上手くいくことの方が珍しいわ」


 お母様は、倒れそうな私を抱きかかえて実験場の外へと連れ出した。

そして、王宮の私室のベッドまで運んでくれた。

……私、魔法を使えなかった?

前世の経験があるからできるはず、そう思っていたのに……。


「おかあさま……わたし、まほうをつかえなかった……」


 自然と涙が溢れてくる。

この世界に生まれ変わってから、一番のショックだ。

大魔晶玉が壊れた時よりも、ずっとずっと辛い。


「ラピス、安心して?これから練習してけばいいのよ」

「おかあさま……」


 お母様の声は、とても優しい。

でも、今はその優しさがなんだか痛い。

ああ、そうだ……私、前世を思い出してしまってる。

あんな死に方をして、お母さんやお父さんにお別れも言えないまま……必ず生きて帰るって、“オテコン”との約束も守れないまま……。

きっと、オテコンも泣いているだろうな……私が帰れなかったから……。

こんなこと思い出したくないのに、悔しさを引きがねに勝手に溢れ出してくる。


「ああラピス……そんなに悲しまないで、私のかわいいラピス……」

「おかあさま……ごめんなさい……」


 私は今、お母様には理解できない理由で泣いてしまっている。

それを説明できないもどかしさと苦しさをないまぜにした行き場のない思いを、謝罪の言葉に託して口にした。

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異世界転生魔法少女ラピス・ラズリ N極S極 @magmagnet

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