第37話 バルゼノン教国跡決戦・Ⅲ
「『
大地から出現した巨人がシャルロットに迫っていた大竜巻を受け止めた。
ゴリアテだ。意識を取り戻し、地上からずっと介入する隙を伺っていたゴリアテがここで動いた。
「ゴリアテ!」
戦闘に参加しているメンバーの中で唯一ゴリアテの魔法を知っているテミスが叫んだ。
破壊の大竜巻は巨人の土と石と草木で構成されたその巨躯を抉り続ける。しかし次第に勢いが弱まり、やがて微風となって辺りに消えていった。
「…………」
グラムは特に目立った反応を示さない。ただ無感情に巨人の姿を見つめている。その姿が余りにも無防備に見えたヨームはグラムに切りかかったが、その攻撃はヨーム自身ですら驚くほどあっさりと成功した。
縦横と十文字に両断されたグラムは四つに分断され、力なく落下していく。まるで死んだように、ぐったりとしている。
グラムが死んだと思った者は一人もいない。むしろ何をする気かと、特に空中戦に参加していた者たちは警戒を高めた。
その予感通り、落下していたグラムの左手が突然動き出した。
「"
左の掌から再び大竜巻が発生する。それはあらぬ方向に吹き、誰にも当たらずアストラ山脈の彼方へと消えていく。
「なんだありゃ……もしかして本当に死にかけなのか?」
その様子を見ていたカスパールは訝し気に呟いた。
「一体何を────」
グラムの行動に疑問を抱いたシャルロットが大竜巻が消えていった方向に目を向けたとき、ようやく気が付いた。
アストラ山脈の一部で山火事が起こっていることを。
「あれ……何かあそこ、燃えてないか?」
地上にいた誰かが火事が起こっている場所を指差した。
それはグラムが少し前に放った"
「いつの間に…………奴が我々に撃った火が流れたのか?」
山火事を見てそう言葉を漏らしたのはウェイバー。皆戦いに集中していたので発見が遅れたのである。とはいえ、バルゼノン教国跡から山火事が起こっている場所の間には相当な距離がある。今から避難すれば特に走る必要もなく安全に逃げることが出来るだろう。
(待て、本当に流れただけか? 奴が意図的にあそこを狙ったとしたら、そこには必ず目的があるはずだ!)
ウェイバーが一足先に勘づいたが、遅かった。
「まさか────!!」
次の瞬間、アストラ山脈の向こう側に消えた大竜巻が急旋回してバルゼノン教国跡に帰って来た。それは山火事と融合して灼熱の大津波となり、通り過ぎる全てを焼き尽くしながら地上の連合軍に襲い掛かる。
「止めろォォォ!!!」
迫りくる炎の大津波にカスパールは大慌てで号令を発した。射撃部隊も魔法部隊も関係なく、あらゆる手段をもってそれを止めようとした。
しかし、動くにはあまりにも遅すぎた。
「────」
炎の津波は一切の足止めを焼き尽くし、バルゼノン教国跡を南から北へ吹き抜けた。飲み込まれた者たちは一瞬で皮膚が赤化して崩れ落ち、炭化する。
世界連合軍は壊滅した。カスパールとウェーバーも炎に呑み込まれ、東と西にいた兵士以外は生きたまま焼却されて死亡した。
幸いなのはその火力が余りにも過剰だったことだろう。痛みを感じるよりも先に死がやってきたのだから。
「何という…………!」
その光景にテミスは言葉を失った。それはテミスだけではなく、空で戦っていたヨームやシャルロット、マリーもそうだ。
特にグラムと交流が多かったシャルロットとマリーが受けた衝撃は相当強かった。
"破天荒"が五百年前にこの人間界で犯した罪業を知っていても、彼女らが良く知っているのはリンゴが好きで捻くれた性格をした寂しがり屋のグラムだ。
そのグラムが、目の前で人を殺したのだ。
たった一つの受け入れ難い事実を目の当たりにした二人は心の底から戦慄した。
グラムは茫然としているシャルロット達を見上げながら炎の海の中に姿を消した。ついさっきシャルロットを守り抜いた巨人は突然事切れたように動かなくなる。足元の超高温に融かされ、巨人は炎の海の中に沈んで消滅した。
その直後、地上を焼いていた全ての炎は風に吹かれたように消滅した。
「これで邪魔者は消え去った」
焦土と化した大地に残ったのは、五体満足のグラム一人。その背中には二対の翼が飛び出していた。
「間もなく空の日は落ち始め、俺も消耗が激しい。それに勝っても負けても俺は死ぬ。だから────」
日が傾き始めた空の下で、グラムは髪をかき上げる。それを見た瞬間、湧き上がる感情に駆り立てられたシャルロット達は一斉に地上へと迫った。
「
世界連合軍・壊滅。
死傷者数延べ百五十三万人。
そして敵はグラム一人である。
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