第16話 第2解放
幾度目かの攻撃を躱し、蛇神から大きく距離を開けた。そして大剣を握りしめる。
魔力を……魔剣からもっと魔力を引き出す……!
魔剣に意志を送り、その内側に眠る高純度の魔力を引き出す。それは大剣に纏われ、周囲の空気を震わす程の力を見せる。
そうだ。俺は魔力が使えなかった。だからその魔力が足りないなら、もっと引き出す……その発想が無かった。
マナ無しの俺は魔剣を手にするまで魔力を体に纏った事すら無かった。故に、魔術師や一般人にもあるその常識とも言える感覚が無く、考え付かなかった。
また尻尾が迫る。
「はあっ!」
それを俺は剣で受けた。
「ギャアッ!」
蛇神の悲鳴が上がる。その鎧と鱗を切り裂き、その肉に傷が入ったのだ。
いける!
好機と見て俺は攻める。魔力を引き出し、その身にも流す。そうする事で身体能力も上昇し、蛇神に対応出来る速度を得る。
一転攻勢。俺の怒涛の斬撃で蛇神の全身は傷ついていく。
「まだだ……もっと!もっと!力を……!」
そう願った瞬間、魔剣が輝き出した。魔力が青から黄金に染まり……光となって刃を包む。それには蛇神、操られた村人、そしてエレナの視線も釘付けになる。
「あれは、まさか……!」
エレナには心当たりがある。そして俺にもその情報が魔剣より流れてきた。
そうか、これが……。
「『
魔剣エクスカリバーの第2の力だ。
「ナンダソレハ……!眩シイ、熱イ……!」
どうやらその光が蛇神は怖いらしい。その理由は明白。アンデッドを滅する力を持っているから。
「行くぜ……エクスカリバー」
魔剣の名を呼び、駆け出す。そしてその刃を振り下ろした。蛇神は尻尾で受け止めるが、その鎧を削り肉に迫る。
「アアアアア!アツイアツイアツイ!」
傷口やその周囲に光に焼かれて悶える蛇神。そうしている内に尻尾は切り裂かれた。すると脱兎の如く、俺から距離を開ける。
「待ちやがれ!」
俺は接近し、その輝く大剣を振るう。だが蛇神は全速力で動き回り、神殿の柱に登ったり倒したりして回避や妨害に専念する。そのお陰で何とか致命傷は避けている。
それに歯噛みする。
チョロチョロ逃げやがって。けどなぁ……!
ジークは両手で大剣を握り、後ろ手に刃を構える。
魔力と同じだ。光を、剣に束ねる……!
俺の脳裏に浮かぶのは、かつて輝く剣にて竜を討ち、俺を救った魔術師の背中。
あの人のように……俺は人を救う!
俺の意志に従い、黄金の光は収束していく。やがてそれは長大な光の刃となった。
「これで終わらせる……『
振り抜かれる巨大な光の刃。それは逃げ回る蛇神の首を真っ二つに斬り裂いてしまった。そして光に焼かれた傷が伝播し、塵1つ残さず消滅したのであった。
光の刃が
「お、俺達は……何を?」
「白い蛇を見つけて……それで……?」
どうやら記憶が朧気のようだ。それを見て深く息を付き、エレナは拘束していた術や結界を解く。俺がそこに歩み寄った。
「魅了の術が解けたのか」
「ええ。操られてた時の記憶は曖昧なようね。でも……何はともあれ、お疲れ様ジーク。よくやったわ」
「ああ、エレナもお疲れ様」
こうして村を恐怖に陥れたアンデッドは倒され、村人は解放されたのであった。
一度村長の屋敷に足を運んだ俺とエレナ。そこには3人の他にダニエルも居た。
「そうですか。そんな事が……ダニエル君や村民、魔術師様達に何とお詫びしていいか……!」
「いえ、悪いのは全てアンデッドです。あなた方は被害者なのですから、あまり気を落とさないで下さい」
「そうよ。あたしら魔術師が解決したんだから、明日からは日常に戻るといいわ」
責任を感じてか、村長やダニエルは項垂れて落ち込んでいる。アンデッドを倒しても、その傷が完全に癒える訳では無い。特に心の方はそう簡単にはいかない。
「けど、折り合いつけないといけねぇよな。生き残った人は、これからの人生もあるんだから」
「そうね。思う所があるなら……後悔して、反省しなさい。それが終わったら、これからが楽しく、幸せになるように考えて行動する。それが生きてくって事よ」
俺たちの想いが伝わったのか、村長とダニエルは顔を上げていた。
「はい、そうします……!」
「魔術師様……ありがとうございました!」
そうして2人は屋敷の前まで見送られる。すると、そこには大勢の村人が居た。村長が困惑しながら彼らの前にでて話を聞く。
「お主ら一体何を……?」
「段々思い出したんだよ。あんな化け物を蛇神様なんて言ってありがたがってたのをよ」
「だけど、魔術師様が救ってくれたんだろう?ならちゃんと礼をしなきゃってな」
そういう彼らの手には様々な物品があった。野菜や金品、土地の契約書など様々。
「ええ!?こ、こんなの貰っていいのか!?」
「どんだけあるのよ……まさか村人みんなが持ってきたの?」
「もちろんです!あなた方は村の英雄ですから!」
「「是非受け取って下さい!魔術師様!」」
大勢に囲われ、そう嘆願される俺たち。これには流石に困惑してしまう。
「どうする?エレナ」
「流石に全部なんて持って帰れない。気持ちは受け取るわ」
「そうだな。そうしよう」
エレナの言う通り、気持ちだけ受け取る事にする。村人達は食い下がって来たが、村長の命に渋々従うのだった。
「じゃあ今度来た時に、宿とかご飯とかご馳走して下さい」
「ああ、それいいわね。そうしましょう」
「分かりました……その時は、シャナ村の村民一同でおもてなしさせて頂きます。改めて、我らを救って下さりありがとうございました。魔術師様」
村長が頭を下げて礼を言うと、それに続いて村人も各々礼を述べる。
「どういたしまして」
「当然の事をした迄よ。でも、受け取って置くわ」
こうして任務を終えた俺とエレナ。
村をアンデッドから救えたという、確かな充足感を胸に帰路に着くのであった。
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