第53話 勝負の行方
「ダレク、一時休戦!オーロン潰すぞ!」
ベッドの陰からカールが叫ぶ。すかさずオーロンが叫び返す。
「それアリなのかよ!?」
俺は枕を引っ掴み、オーロンに投げつける。毛布で的がデカくなっているから当てるのは楽だった。綺麗に頭に直撃し、後ろによろめいた隙に距離を詰める。
「ダレク、毛布剥がせ!」
カールに言われた通り、オーロンが纏っている毛布を引き剥がす。オーロンを押さえつけているとカールが容赦なく脳天に一発。オーロンが膝から崩れ落ちながら呟いた。
「卑怯にもほどがあるだろ…」
そんなことは気にせず、カールがベッドの陰から出てきた。
「ダレク、風呂場から出てこない引きこもりを潰しに行こう」
「ああ、そうだな」
俺は何気ない表情で、カールに二発撃った。表情が固まるカール。
「…おい?」
俺はニヤリと笑ってやった。これであとはランディのみだ。
「マジかよ…ランディ潰して終わりだと思ったのに」
カールがオーロンに愚痴っていたが、オーロンは無視していた。俺は風呂場のドアの前まで来た。
「…ランディ?」
中からの返答はない。だからこの位置有利なんだよ。俺は嫌々ドアを開けた。案の定すぐさま撃たれた。咄嗟に身をかわしたが、右手が使えなくなった。
「あー、どうしよ。カール生かしといて盾にすればよかった…」
「聞こえてるぞ」
銃を左手に持ち替え、思案する。が、いい案は思いつかなかった。毛布…は使ったらヘイト向くしな。
「ダレク!どうした?早くこいよ」
ランディめ、煽るのだけは得意だな…。
「行ってやるよ!」
俺は廊下をスライディングし、風呂場に照準を向けた。が、それより早く、ランディから二発くらってしまった。
「よっし、俺の勝ちだ!」
両手を天高く掲げ、勝ち誇るランディ。その場にいた全員の鋭い視線は気にならなかったようだ。
「てことで、カール、ソファな!」
ニッコニコでカールを指さすランディ。悪意しかない笑みに俺とオーロンは苦笑だった。そのタイミングで玄関のベルが鳴る。一瞬で走る緊張。すかさず実弾入りの銃を取り出すカール。俺がドアスコープを覗くと、立っていたのはカスピオス司令だった。
「司令だ。銃を降ろせ」
俺がそう言うと、カールはほっと銃を下げた。が、ほっとしたのも束の間。
「早くBB弾と毛布戻せ!」
ランディが小さく叫び、床に散乱しているBB弾を急いで片付ける。俺はあらかた片付いた瞬間にドアを開けた。もちろん保護メガネは外している。
「やあ、君たち。調子はどうだい?」
「来る時は電話一本入れてください」
俺はいつも思ってしまう。戦場での判断は素晴らしいのに、なんでこういう時は抜けてるんだろうな。
「元気そうで何よりだよ、他の子達は?」
「はい、元気です」
奥からすぐ現れるカールとランディ。
「そうか、それならよかった。これ差し入れね」
そう言って見るからに高級そうな紙袋を手渡してくる。
「ありがとうございます。本当に何回も…」
ふふふ、と優しい笑顔を見せ、カスピオス司令は言った。
「私はこれで。まだ業務が残っててね」
「お体に気をつけてください」
ドアがゆっくりとしまったあと、全員が目を合わせた。カールがぼそっと言った。
「….司令甘くね?」
「だよな」
オーロンが眉をひそめて同調した。
◻︎ ◻︎ ◻︎
「あの…さ、病院内は基本的に銃火器の持ち込みはダメだって知ってっかな?」
「しょうがないだろ仕事の都合上」
俺の目の前には一人の少年がいた。手には銃。しかもサプレッサーもついてる。これ完全に殺し屋だよなぁ…。どうしよ、俺まともに戦闘出来ないよ?でもするしかないか…ないよなぁ?腹の傷塞がってないし、頭蓋骨やばいけど。
「なあ、俺のこと黙ってくれないか?」
少年が話しかけてくる。言葉選んだ方がいいな。
「…見返りは?」
少年は一瞬驚いた顔をしたが、表情を戻して言った。
「何が欲しい?言ってみな」
「チョコレート」
「即答かよ」
少年はポイっと何かを投げてきた。それは、最高級ブランドのチョコレートだった。
「安心しろ。毒なんて入れてないから」
「なんで持ってんの?」
「…俺のおやつだったものだ。食わないなら返せ」
少年はそう言うと、すぐに窓から飛び降りていった。ここ5階なんだけどな。
「…何者だ、あいつ」
見たところ軍の者じゃなさそうだ。といってもルタードのアホどもでもないな。
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