NTR小説にかぶれて相思相愛の幼馴染みを振ったら、キャラ変してしまった

東音

第1話 俺が幼馴染みを振った理由

『亜沙美も最初は戸惑っていたのだが……、「幼馴染みの零次くんと仲を深める為には、練習が必要」という、奏の口車に乗せられ、次第に彼のテクニックに身も心もメロメロになっていったのだった……』


 そこまで読むと、俺=成瀬礼はスマホの表示されたウェブ小説サイトの画面から目を離し、やり切れない思いでひとりごちた。

 

「はぁっ……。亜沙美あんなにいい子だったのに……。やはり、幼馴染みはイケメンに寝取られる宿命なのか……」


「成瀬くん。ちょっと話いいかな?」

「え?」


 そこへ、クラスメートで神崎爽也かんざきそうやが俺の席の前に立ち、声をかけられ、俺は怪訝な顔をした。


 サッカー部エースのイケメンで、女子から人気の高い神崎が、成績は学年一位だが人を寄せ付けないオーラを醸す孤高の俺に話しかけて来るなんて珍しい事だったから。


「神崎、何か用か?」

「ああ……。あのさ。成瀬、野原さんと仲いいよな?」


「ああ。仲いいってか、幼馴染みの腐れ縁だが……。」

「そうなんだ。付き合ってるわけじゃないのか?」


「ああ。それが何か……?」

「いや、何でもない。それならいいんだ。教えてくれてありがとう。」


 神崎は、俺の答えにホッとしたような笑顔を浮かべると爽やかに去って行った。


「何だ、今の……??ハッ!!」


 俺は今の不思議なやり取りに首を傾げていたが、再び小説サイトの画面に目を落とした瞬間、気付いた。


 !? と……。


 NTRは、創作の世界だけのものではない。現実でも頻繁に起こり得る事だったのに、今まで何故気付かなかったんだ……!


 ピンコン!

「!」


 俺が衝撃を受けていると、メールの着信音が響いた。


『礼ちゃん!話しかけるな圧すごくて、学校では、同じクラスなのに遠くから見ているしか出来ないけど、今日もカッコいいね✧✧

 つむじから5センチ右ぐらいにやや寝癖あるのもチャーミング(≧∇≦)b

 放課後、礼ちゃんち寄ってもいい?

 大事なお話があるの♡♡ 

           野原あざみ❀』


「あざみ……」


 この頭に花が咲いていそうなメールの差出人は、俺の幼馴染みの野原あざみ。


 家が隣で、幼稚園の頃から家族ぐるみで仲が良く、ずっと一緒に過ごして来た。


 人を寄せ付けない俺だが、素直に好意を寄せてくるあざみは唯一心許せる存在であり、同じ高校に入り可愛くなった彼女にドキッとさせられる事も多く、いつかこいつと付き合う事になるかもしれないとまで思っていた。


 だが……。


 俺はつむじの右側の髪を撫でつけると、幼馴染みからのメールに彼女の訪問を了承する返事を送ったのだった。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「はぁはぁっ。れ、礼ちゃん!大事な話っていうのはねっ!げふげふっ!」


「おいおい。あざみ、大丈夫か?」


 放課後、学校から走って俺の家に直行したらしいあざみは、息を切らして、咳込んだ。


「随分急いで来たんだな。」

「ご、ごめん。決心の鈍らない内に急いで伝えなきゃって思って……!///」


 ストレートの長い髪を揺らし、彼女はお人形のように整った顔を紅潮させ、両手で覆った。


「まぁ、俺は逃げないからさ。

 走って暑いだろ?あざみが好きなスーパー◯ップがあるから、それ、食べてから落ち着いて話せよ。」


「え。あ、ありがとう……。あっ。私の好きなイチゴ&バニラ味!✧✧」


 冷凍庫から取り出したアイスと木のスプーンをあざみに渡してやると、彼女は目を輝かせた。


「ふふっ。小さい頃は、私がイチゴ味、反対側から礼ちゃんがバニラ味食べてたよねぇ!」


 昔の思い出話を語るあざみに俺も思わず頬を緩めた。


「ははっ。あの頃は、ちっこくて半分しか量が入らなかったからな」


「ね。久しぶりに一緒に食べる? 」

「いや、あざみが全部食べていいよ。今なら食べられないって事ないだろ?」


 子供の頃と同じように無邪気に誘ってくるあざみに俺は軽く手を振ってそう言うと、彼女は少し残念そうな顔になりつつ、アイスにぱくつき始めた。


「そう?じゃあ、頂きます。あむあむ……。うまぁ♡」

「本当に美味そうに食うなぁ……」


 美味しそうにアイスを食べるあざみを微笑ましく見守りながら、俺は今までの彼女との思い出が走馬灯のように頭に浮かんでは消えていくのにしんみりした気分になっていた。


「ふうっ。アイス、ごちそう様でした!」


 そして、あざみは、あっという間にアイスを平らげ、口の端についたアイスをペロッと可愛く舐め取ると、俺に向き合った。


「礼ちゃん!では、大事なお話を聞いて下さい」

「うん」


 俺が頷くと、あざみは、綺麗な顔を紅潮させて緊張した様子で俺に告げて来た。


「れ、礼ちゃん……。小さい時から、ずっと礼ちゃんの事だけが大好きです!私と付き合って下さい……!」


「……!」


 来たるべき時が来たか……。


 彼女の想いを反芻するように一瞬目を閉じると、俺は自分の想いを告げた。


「ありがとう。あざみの事、多分俺も好きだと思う。」


「ほ、本当?それじゃあっ……!」


 あざみがぱあぁっと明るい表情になりかかったところ……。


「でも、あざみは幼馴染みで、もうすぐNTRされる事が確定しているから、付き合えない。ごめんな?」


「へっ?!」


 幼馴染みは、俺の言葉を理解できないという表情で、大きな目をパチパチと瞬かせたのだった……。



✽あとがき✽


読んで下さりありがとうございます!

カクヨムコン短編ラブコメ部門の応募作品になりますので、よければ応援下さると嬉しいです。


よろしくお願いしますm(_ _)m

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