第6話 力の試練

 美しい白い長髪を翻しながら、ラナスオルは軽やかに大地を蹴り、シードに向かって突進した。

 右手に宿る破壊の力「セヴァスト」が振り下ろされるたびに次々と地面に大きな穴が穿たれ、木々のひしめく公園が戦場さながらの様相を呈していく。

 

 しかし、シードはその全ての攻撃を影のようにかわしていた。一瞬で姿を消したかと思えば、違う場所に現れる。

 さらには視界の端に奇妙な影をちらつかせる幻術を使い、ラナスオルの集中を乱そうとした。


「幻術か……厄介だが、それなら」


 ラナスオルが静かに呟くと、次の瞬間、彼女の周囲を中心に爆発が巻き起こった。

 破壊の力が一気に放たれ、衝撃と風圧が辺りを包み込む。


「待って待って、これやばい! ガチなやつ!!」


 少女が叫び声を上げ、両手で枝や砂埃を防ぎつつ、何か長方形の物体を二人に向けた。彼女の表情には興奮と恐怖が入り混じっていた。

 シードは何かを向けられたことに違和感を察知し、一瞬だけ少女を警戒するが、すぐに視線をラナスオルに戻す。


 爆風が過ぎ去り、舞い上がる土ぼこりが晴れると共に、ラナスオルは一気に間合いを詰めていった。紫の瞳が鋭くシードを捉え、逃がす気配は微塵も感じられない。


 だがその時だった。


 シードの足元から無数の白い影が現れ、うごめくようにラナスオルの体にまとわりついた。

 その影は幽霊のような形を取りながらも、どこか粘性を持つような動きで彼女の右腕を重点的に絡め取った。


「くっ……!」


 ラナスオルは咄嗟に後方へ跳んで距離を取るも、右腕にまとわりついた影からは逃れられず、彼女の「破壊」を封じている。

 

 その時、ラナスオルの紫の瞳が鋭く輝いた。

 

「はぁぁっ!!」

 

 その一声が響いた瞬間、彼女の全身から閃光が炸裂し、圧倒的な破壊の波動が右手でもつれ合う亡者たちを粉砕した。


 シードはその場から即座に消え、後方へと移動する。


「……さすがですね」


「君の死霊術……何度見ても忌々しい!」


 破壊の波動の余韻が残る中、ラナスオルは土を蹴る。

 地面が砕け散り、白髪が舞う。軽やかな身が神速の軌跡を描きながらシードへと迫っていく。

 紫電を纏ったセヴァストが閃き、彼の喉元へと狙いを定めた。


 しかし――


「残念ですが……」


 シードの姿が一瞬、揺らいだ。


「……っ!?」


 ラナスオルの一撃が空を裂いた瞬間、彼の姿は霧散する。

 同時に、彼女の背後に強烈な霊圧が膨れ上がった。


「これも幻術……!」


 彼女が振り向いた時には、すでに遅かった。

 シードの指先が彼女の背中に向けられ、短い呪文が紡がれる。


 ラナスオルの影が足元から浮き出たかと思うと、それは黒い触手となって絡みつき、彼女の四肢を抑え込んだ。

 その幾つかが背を這い上がり、冷たく首筋をなぞる。

 

「ん……っ!!」

 

 声を上げるいとまもなく、蠢く影が緩やかに彼女の白い喉を締め付ける。

 背筋を駆け抜ける戦慄に、思わず身体がびくんと仰け反った。

 

「フェルジア!」

 

 臆することなく、凛とした声を響かせる。

 それに応じるように、創造の左手から眩い光が放たれた。影の拘束が徐々に光に飲み込まれていく。

 続けざまに閃光が地を走り、シードの足元を覆いつくそうとする。


「凄い、どうなってるの!? 映画の撮影!?」


 恐るべき三位一体の力を見せる女神と、それを容易くあしらう死霊術師の戦いを恐れる様子もなく、少女は興奮した様子で長方形の物体を構えながら二人に近づいてくる。


「……っ!? 近づくんじゃない!」


 その時、危険を感じたラナスオルが少女を鋭い声で制し、左手をかざした。

 輝く光が放たれ、少女の周囲を包む結界が瞬時に形成された。

 

 少女の目が驚きに大きく見開かれた。

 

「なにこれ……壁? ……バリア!?」

 

 彼女は手を伸ばして結界に触れようとするが、触れる寸前で光がわずかに震え弾かれた。まるで目に見えない力で拒絶されたかのように感じられた。

 

「え、え、何なのこれ!?」


 シードは少女が狼狽える光景を見つめ、わずかに銀色の目を細める。

 そして静かに右手を下ろした。すると、ラナスオルにまとわりついていた影が霧散していく。


「……」


 ラナスオルは視線をシードに戻す。その目には疑念と警戒が浮かんでいた。


「破壊した周囲のものを、その左手で早く修復した方がいい」


 シードは平然とした声で言った。


「戦いを放棄するつもりか?」


 ラナスオルは強い口調で問い返す。


「僕は元よりあなたと戦うつもりはありませんでした。ただ、あなたの神の力が、この場所で正常に作用するか確認したかった。それだけです」


 冷静にそう言い切ると、彼は少女の方に顔を向け、続けた。


「……それに、僕は彼女に訊きたいことがある。戦いはその後でもいいでしょう」


 ラナスオルはその言葉に眉をひそめつつも、警戒を解くことはない。

 ただ、シードの真意を測ろうと黙したまま彼を見据えていた。

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