第27話 旅は道連れの世界
「
焚火の向かい側で、顔をパンパンに腫らしたフランが私に向かって謝罪をしている。
「もういいわ。さっきの私に対しての失言は許してあげる。でも、まだあなたを信用したわけじゃないから」
「キュゥン」
ラビーゼルが甘え声で鳴き、また私の肩に乗ってくる。
「あなたもそう思うわよね?」
「キュウン?」
すると、腫れた顔をさすりながらフランが言う。
「そろそろ“ラヴィ”を返してもらってもいいか?」
「えっ? ラヴィ? 何のこと?」
私が首をかしげると、フランは私の肩あたりを指差して言う。
「いや、そいつだよ。ステラの肩に乗ってるラビーゼル。俺の相棒なんだよ」
「ええっ!? そ、そうなの!?」
私は驚き、肩に乗るラヴィを見た。
「キュ~ン!」
肯定するように、ラヴィが鳴くとフランが続けて言う。
「そういうことだ。さっき聞こえたと思うが、俺はステラの歌を聴いて、一度は諦めた夢をもう一度、追いかけようと思ってんだ」
「そういえば、フランの夢って何なの?」
「お前には関係ないだろ?」
「別にいいじゃない、減るもんじゃあるまいし」
「……ったく。俺の夢は騎士団に正式に入団することだ。王都に拠点を置く、聖魔導騎士団。さすがのステラもその名前くらい知ってるだろ?」
「え、ええ、実際に騎士にもあったこともあるわよ」
――偽物だったけど…………。
「それなら知ってて当然だな。俺はな、実は聖魔導騎士団の養成所で日々、訓練を受けていたんだ」
「へぇ~。養成所まであるんだ、それは知らなかった」
「ああ。俺はもともと孤児でな。俺がいた教会の神父様が聖魔騎士団と付き合いがあって、その繋がりで養成所へ入れてもらったんだ。だが……」
そこで、フランの表情に影が差す。
「養成所に入って数年後、周りの訓練生たちが次々と聖魔導騎士団の正式な騎士として認められる中、俺はいつまで経っても正式には認められなかった。なぜだかわかるか?」
急にそう問われると、私は考えて答える。
「えっ? んんー? 変態だったから、とか?」
そう答えると、フランはジト目で私を見ている。
「……まじめな話してんだけど?」
私はフランからスッと目をそらす。
「…………続けて」
「はあ……。その答えは簡単さ。俺が孤児だったからだ」
「は? 何それ? 意味わかんない」
「アハハッ! そう思うよなっ! でも、理由を聞いたら納得をせざるを得なかったんだよ……」
「理由?」
「聖魔導騎士団に正式になると、敵対する魔族との戦いに否応なく向かうことになる。そうなると、どうなると思う? 半分以上が生きて帰ってこないんだよ」
それについては話だけは聞いていたが、本当だったのか。
実際、“神槍の魔女”と呼ばれたミアのお母さんでさえ、激しい戦いの末…………。
であれば、聖魔導騎士団の騎士の行く末も同じと言われれば納得せざるを得ないが、
「それが、フランが騎士として認められない理由にはならないでしょ?」
私が思った疑問を聞くと、フランは首を横に振りながら答える。
「いや、関係があるんだよ。この世界には不思議がいっぱいあってな。父が騎士なら騎士の息子が生まれる。母が魔女なら魔女の娘が生まれる。言ってる意味が分かるか?」
――そういうことね……。
つまりフランが言いたいことは、“血筋”。
フランのようにどこで誰の子供として生まれたかわからないような人間を騎士にして、万が一、戦死したとき、後継ぎとしての子供が騎士でもなく魔女でもない、そもそも魔力を持たない子供が生まれてしまえば、この先続く魔族との戦いに向かわせる駒が足りなくなるというわけだ。
「そんなのって、あんまりだわ……」
「ああ、まったくだ。だから俺はそれを知ったとき絶望したよ……」
なんとなく、フランの気持ちがわかる。
私もこの世界に転生してきたとき、この世界には私の大好きな〈歌〉が存在しないことに絶望した。
でも、私はアドルドとオリヴィア、そしてミアのおかげで、私は前を向けた。
しかし、フランにはそういうきっかけさえなかったんだ。
「それで俺は養成所を出た。教会にも後ろめたさを感じた俺は王都を離れ、そして、俺と同じ孤児だったホブとコブに出会って今に至るってわけさ」
私は立ち上がり、フランの横に座る。
そして、肩を落としているフランを抱き寄せた。
「ちょっ!? ス、ステラ!? な、何してんのっ!?」
「別にいいでしょ」
「……………………」
フランは黙り、私も黙って、しばらく焚火の火を見ていた。
***
気が付くと朝になっていて、横にフランの寝顔があった。
ペチッ。
とりあえず、フランの頬をはたいておく。
「んん……」
「おはよう、フラン」
フランがあくびをしながら起き上がる。
「ふわあ~。もう朝か」
「キュゥ~ン」
ラヴィも伸びをして目を覚ます。
「ラヴィもおはよう」
「キュウ~ン!」
フランは片手剣を腰に下げながら言う。
「おい、ステラ。昨日も言ったが、そろそろラヴィを返してくれないか?」
「ん?」
私はフランに言われ、そう言えばと思い、当たり前のように私の肩に乗るラヴィを見た。
「キュゥン?」
「ラヴィ、わたしと一緒に南の大陸へ行く?」
「キュン! キュウ~ン!」
「よしっ! じゃあ南の大陸に向けて、レッツゴー!」
「ちょっと待て!? 俺の話聞いてたか?」
歩き出す私を制止してくるフランのほうを振り返る。
「ちょっと何? せっかくテンション上げて出発するとこだったのに。ねぇ~ラヴィ~」
「キュウ~ン」
私とラヴィが見つめ合い意気投合している間に、フランが割って入ってくる。
「言ったよな? ラヴィはもともと俺の相棒だって! なあ、そうだよな? ラヴィ?」
「……キュウ?」
「ウソだろっ!? ラヴィ! 嘘だと言ってくれッ!? 俺とお前の絆があるはずだ!」
「……………………」
「ウソだあぁぁぁぁぁぁッ!?」
フランはラヴィに裏切られ、膝から崩れ落ちた。
「そ、そんな……お、俺一人で、王都に戻るしか…………」
うなだれるフランがなんだかかわいそうに思えてきた。
「はあ……。それならフランも一緒に来る?」
「…………は?」
フランは顔を上げると、きょとんとした表情で私を見上げてくる。
続けて私はこのかわいそうなワンちゃんに言う。
「南部の港まで一緒に行こうって話。遠回りにはなるけど、南部の港からなら王都がある中央大陸までの船も出てるでしょ? だから南の港までわたしのボディーガードとしてついて来ればいいじゃない?」
「ボディーガード…………?」
フランは私を怪訝な表情で見始める。
そんなフランに対して、私はわざとらしく首を横に振り、憐れむ目でフランを見ながら言う。
「別にいいのよ? ラヴィはまだ私といたいようだし? フランは一人寂しく王都に帰れば? あーかわいそー」
「ぐぬぬっ……! ああもうっ! わかったよ! 行けばいいんだろ、行けばっ! ただし、南部の港までだからなッ!」
フランは立ち上がって、ビシッと私をことを指差し、そう宣言した。
どこか必死な表情のフランが逆に笑えてくる。
「あはははっ! ボディーガードよろしくね、フラン」
「ったく、俺も運がねぇや…………」
フランは気恥ずかしくなったのか、そっぽを向いて頭を掻いている。
すると、肩に乗ったままだったラヴィが私の頬にすり寄ってきた。
「キュゥ~ン」
「あははっ! あなたもよろしくね、ラヴィ」
「キュウ~ン!」
ラヴィがうれしそうな鳴き声が、日の光で照らされる森に響き渡った。
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