第17話 明かされる世界
アルコールの匂いに鼻孔を刺激され、意識が覚醒する。
「んん……ここは……?」
格子状の天井。大きい窓からは朝日が差し込んでいる。
私は等間隔に並べられているベッドの一つに寝ていた。
――確か、霧の魔女に野営地まで送ってもらって…………。
そこで、一番大事なことを思い出し、
「ミアッ!?」
私はミアの名を叫びベッドの上で勢いよく状態を起こした。
「医務室は大声を出す場所じゃありませんよ、ステラ」
「か、カーリン先生……!?」
カーリン先生は、医務室の入り口付近に立っていた。
「あと、ミア・クロウリーなら、あなたの横のベッドで寝ておりますよ」
「えっ!?」
カーリン先生に言われ、横のベッドを見た。
ミアは静かな寝息を立てて寝ている。
カーリン先生がゆっくりと私のベッドのほうへ近づきながら言う。
「心配しなくても大丈夫ですよ。学校医の処置もあり、魔素中毒からは回復し、ほかには特に異常はありませんでした」
「そうですか、よかったです」
カーリン先生の話で、私は胸を撫で下ろす気持ちになった。
「どちらかと言うと、あなたのほうが重傷だったんですよ?」
「あー」
自分の体を見下ろすと、全身包帯でグルグル巻きにされていた。
――そういえば、あのニセ騎士にやられてたんだったっけ……。
「そうでしたね。でも、今はどこも痛くないんですけど?」
「それはそうですよ。野営地に突如として現れたかと思えば、あなたたち二人とも意識を失っていたので、急いであなたたち二人だけをここへ連れてきて治療したのですから」
「あ、ありがとう、ございます……」
――急いでいるカーリン先生が想像つかないのは私だけだろうか……?
「それで、ステラ。回復してすぐで申し訳ないのですが、今回の件、何があったのか、詳しく聞いてもよろしいですか?」
「は、はい…………」
一瞬、横のベッドで寝ているミアを見る。
それからカーリン先生に、ここまでの経緯を説明する。
***
私が一部始終を話し終わると、カーリン先生は険しい顔になる。
「……やはり、彼女が…………」
カーリン先生の言う“彼女”とは、今回の事件を起こした犯人のリズ先生のこと。
「えっ? か、カーリン先生は気づいていたんですか……!?」
「ええ…………」
カーリン先生が表情を曇らせる。
「…………ステラ。あなたは口が堅いと信じてお話しします」
「……は、はい?」
カーリン先生がミアをちらりと見てから、また私と目が合う。
「過去の野外学習中に行方不明になった生徒がいたという話は知っていますね?」
「は、はい……。捜索の結果、解放されていない魔素の噴出口の近くで…………」
「死亡していた」
「…………」
カーリン先生はいつものように冷たい声色で言った。
「ですが、本当は死んではいなかったんです」
「えっ?」
「当時、聖魔導騎士団の協力のもと、森全域をくまなく捜索したのですが、行方不明になった生徒は見つからなかったんです」
カーリン先生は続けて言う。
「ですが、十年後、彼女は生きたままで姿を現したのです」
「ま、まさかっ……!?」
「ええ、そのまさかです。十年前に行方不明になった生徒とは、今回の事件を起こした張本人、リズ・キャロル・ウィールズだったのです」
「――ッ!?」
私は驚愕し、すぐに言葉が出てこなかった。
「私は驚きました。正直、魔物のエサになってしまったんだとばかり思っていた、かつての生徒が我が校の教員として赴任してくるんですから。……ですが、明らかに行方不明になる前と後では、彼女の性格が違い過ぎました。なので、私は校長室へ呼び出し、そのたびに行方不明になった後どうしていたのか問いただすも、彼女にのらりくらりと躱されていました」
リズ先生が、よく校長室に呼び出されていたことは知っていた。
新人教師として、まだ未熟な部分を指導されているとばかり思っていたが、実はそうではなかったのか。
「そのときから彼女の不審な行動に気づいてはいたのですが、まさか、ミア・クロウリーに呪いをかけていたとは…………」
ミアはリズ先生の授業が好きだった。
ミアがわからないところを聞きに行くと、リズ先生は熱心に教えてくれたと、ミアは笑って話していた。それなのに……。
「……きっと、彼女が言っていたという、ヴェルドの復活が関係しているのでしょう」
「ヴェルド……」
かつて、この東の大陸を支配していた、魔人ヴェルド。
そして、人間と魔族の戦いの中で死んだと言われている。
ヴェルドについて知っていることはこれくらい。
「まずは王都の魔法学園にこのことを報告します。話してくれてありがとう、ステラ」
「い、いえ……」
カーリン先生は医務室を出て行こうと、踵を返した。
私はカーリン先生の背中に声をかける。
「か、カーリン先生……」
「はい?」
カーリン先生が振り返る。
私は、これを聞いていいのか、正直、迷った。
だけど、聞かずにはいられなかった。
「あの……わたしたちを助けてくれた、霧の魔女って…………」
「…………」
カーリン先生は考えるそぶりを見せる。
そして、私の横のベッドで眠っているミアを一瞥し、
「……ええ、あなたの思っている通り、霧の魔女と言う女性は、ミア・クロウリーの母、“ロゼリナ・エル・クロウリー”で間違いないでしょう」
――やっぱり…………。
ただ、わからないことだらけだ。
ミアに聞いたことがある容姿とは少し違う。
それに――。
「……で、でも、霧の魔女……ミアのお母さんは魔物との戦いで…………」
「ええ、たしかにロゼリナ・エル・クロウリーは戦死したことになっています。ですが、彼女には秘密があるのです」
「ひ、秘密……!?」
「ええ、それがあなたが疑問に思っているであろうことに対しても答えになるでしょう」
「か、カーリン先生……それはどんな秘密なんですか……?」
私は恐る恐る聞く。
再び、カーリン先生はミアを見た。
そして、衝撃の一言を言う。
「ロゼリナ・エル・クロウリーは、天使だったんです」
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