第14話 暴かれる世界
霧の魔女の攻撃魔法により、アイススケルトンたちは一瞬にして粉々の氷になり果てた。
「それで? 今日はどんな〈歌〉を聴かせてくれるかしら?」
霧の魔女は、どうも私の〈歌〉がお気に入りらしい。
以前、迷子になっているところを助けてもらったときも、ずっと私は歌わされていた。
――べつに歌うことは好きだからいいんだけどね。
だけど今は――
「ごめんなさい、今はそれどころじゃないの……」
「あら? そうなの? それじゃあどうして私を呼んだのかしら?」
「実は、大切な友達を探してて……。 だからお願い、霧の魔女! わたしと一緒に探してくれない?」
「んー。それが終わったら、私のために〈歌〉を聴かせてくれるのかしら?」
「もちろん! 飽きるまで歌ってあげるわよ!」
「うふふっ。いいわ、じゃあ一緒に探してあげる」
霧の魔女は霧の中でしか行動できない。
これは前に出会ったとき、本人から聞いたこと。
だが、むしろ霧が濃い今なら、霧の魔女の独壇場と言っても過言ではない。
「ところで、ステラ。その大切なお友達ってどんな子なの?」
「えっと、三つ編みをしてて、あと、お母さんからもらった白色のとんがり帽子を被って――」
私が言いきる前に、霧の魔女は何かを思い出したかのように言った。
「ああ。あの子、あなたのお友達だったのね」
「えっ!? どこ? どこで見たの!?」
私は霧の魔女へ詰め寄る。
「んー。説明するの面倒だから案内するわ。こっちよ」
そう言って霧の魔女は踵を返した。
霧の魔女は浮いているため、スゥーっと移動していく。
そして思っているより移動速度が速い。
「ちょ、ちょっと、待って!?」
***
「ここよ」
そう言って、霧の魔女は止まった。
あたりを見渡すが、霧が濃くてよく見えない。
霧の魔女は、左を指差し、そのままスライドさせ、右を差した。
「こっちからあっちへ走って行ったわ」
――随分とアバウトだな……。
「あのさ、なんで声かけなかったわけ?」
「んー? だって、魔女の帽子被っていたし、同じ魔女ならこんな森なんてことないでしょ?」
「…………たしかに」
こういうときに、ミアがいつも被っている白色のとんがり帽子があだになるなんて…………。
――あれ? 白色のとんがり帽子……。それに、白色のローブ……。
「でも、あの子が魔女でないなら、まずいわね」
点と点がつながりそうな瞬間、霧の魔女が不吉なことを言い出した。
「えっ? どういうこと?」
「この先には、
「やばいじゃん、それ!?」
私は霧の魔女が見ていた方向を目印に走り出す。
***
やみくもに走っていくと少し開けた場所に出る。
すると、
「おわっ!?」
地面がこの先から一段下になっているようで、あと少しで踏み外し、転げ落ちるところだった。
「ん? 何あれ……?」
深い霧の中、少し先のほうで不気味な光がゆらゆら揺れていた。
その光を見ていると、だんだん意識が薄れ――
「こら。あんまり見ないの」
霧の魔女の白色ローブの袖で、私の視界が覆われた。
「…………はっ!?」
「ステラ、あの光を見ちゃダメよ」
「霧の魔女……。あれは、あの光は何なの……?」
「あれは〈魅惑の水晶〉って言って、魔力を込めると水晶が光り、その光を見た相手を思いのままにしてしまうの。でも、なんであんなものがあるのかしら? いまの国王になってから真っ先に廃止された魔道具のはず――」
「ちょっと待って、あれは……っ!?」
霧の魔女が〈魅惑の水晶〉について話している最中、私は食い気味で叫んでいた。
私の視線の先にうっすらと人影を見つけていたからだ。
その人影は、ふらふらと歩いていて、歩くたびに、白いとんがり帽子の先が揺れている。
「ミアッ……!?」
私が大声でミアの名前を呼ぶが、ふらふら歩くミアは止まらなかった。
さらに最悪な状況は続き、ミアが歩く方向の先には、霧の魔女が言っていた、
「ど、どうして止まってくれないの……っ!?」
「〈魅惑の水晶〉にすっかり魅了されちゃってるようね」
「どうすればいい!?」
霧の魔女は無言で人差し指で遠くを差す。
「あの黒いローブを着た魔法使いが持っている〈魅惑の水晶〉を破壊するしかないわ」
目を凝らしてみると、霧の魔女の言う通り、〈魅惑の水晶〉は、黒いローブを着た人物が持っている。ローブに付いているフードを深く被っているせいで、顔は見えない。
――とにかくミアを助ける方法がわかればすぐ行動するべしっ!
「わかった!」
「ステラ?」
私は一段上がった地面から下へ飛び降り、走り出した。
「ミアッ! 待ってて! いま助けるからっ!」
私は腰から杖を取り出し、魔力を込め、
「ファイヤーボールッ!」
私は、〈魅惑の水晶〉が放つ不気味な光をめがけて火の玉を放った。
同時に、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「もう少しだったのに……。邪魔しないでッ!」
「えっ……!?」
突然、私の目の前の地面に魔法陣が展開し、ホブゴブリンが召喚された。
さらに、三つ四つと、魔法陣が展開されていく。
合計四体のホブゴブリンが突如、出現する。
私の放った攻撃魔法は、最初に召喚されたホブゴブリンによって弾かれてしまう。
「ど、どういうことっ!?」
「やっぱり召喚魔法の使い手がいたみたいね」
「霧の魔女……!?」
いつの間にか、霧の魔女が私の横に立っていた。
そうこうしている間にも、ミアは徐々に
「ミア! ダメだよ、行かないでッ!?」
ミアは止まらない。
そして、あと一歩。
「ミアァァァァァァァァッ!」
――行かないで、ミアッ……!
「…………行かせないわ、私の――」
「えっ…………!?」
――霧の魔女、いま……!?
霧の魔女が再び、右手を前に突き出し、
「ライトニング・ゲイル!」
霧の魔女の声に呼応するかのように、光の槍が出現。
光の槍は数を増やし、合計五本になり、そして放たれる。
その光の槍は、次々とホブゴブリンの急所に命中し、四体のホブゴブリンは倒れる。
最後の一本が
同時に、ミアは
「ぐっ……!? ど、どうして彼女がここにッ!?」
また聞き覚えのある声が聞こえた。
その声の主は、〈魅惑の水晶〉を持っていた人物。
そして、〈魅惑の水晶〉が砕かれた反動で、深く被っていたフードが吹き飛び、
――ウ、ウソ、でしょ……。
昨日から消息を絶ち、生徒たちの一部からは、もう死んでいるのではないかと言われている人物。
「ど、どうして、あなたが……!?」
黒いローブの女は、落ちていた丸眼鏡を拾い上げ、長い茶色の髪を靡かせる。
「どうして、あなたがこんなことをしているの!? リズ先生ッ!」
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