第8話 取り残された世界
翌朝。事件は突如として起きた。
私たちは起きてすぐ、野営地にあるステージの前に集められていた。
「……なあ、ホントなのかよ?」
「ああ、ホントらしい……」
「あのウワサってホントだったんじゃね?」
「ちょっと、やめてよっ!」
ほかの生徒たちが、あちらこちらで話している。
ざわつく場を鎮めるかのように、ステージ上に緑の炎が上がった。
緑の炎は一瞬にして消え、新緑のローブの女性が現れる。
「みなさん、お静かに」
ロワンレーヴ魔法学校校長、カーリン先生だ。
カーリン先生の登場に静まり返る野営地。
ステージ上から一度、私たちのほうを見渡した後、カーリン先生が口を開く。
「すでに知っている生徒もいるようですが、改めて皆さんにお伝えしたいと思います」
私だけではなく、ここにいる生徒全員が固唾を呑んだ。
「昨夜から、リズ・キャロル・ウィールズ先生が行方不明になっています」
カーリン先生のその一言で、また場がざわつき始める。
「やっぱり……っ!」
「おいマジかよ……っ!?」
「ウ、ウソ、だろっ…………」
周りの生徒のほとんどが、目を見開き、顔が真っ青になっていく。
すると、ミアが私のほうへ寄りかかってきた。
「そ、そんな……リ、リズ先生が…………っ!」
「ミア…………」
ミアは涙を流し、体は震えている。
カーリン先生は、私たち生徒の気持ちを無視するかように、さらに続けて言う。
「過去に起きた事件とも関連する可能性もありますので、今回の野外学習は緊急事態により、中止とします」
生徒の安全を守る学校側としては正しい判断を下す。
このまま野外学習を進行させてしまうと、森での訓練中に、万が一のことが起きてもおかしくない状況だ。なぜなら、生徒の安全を守る側の人間が消えたのだから。
ステージ上のカーリン先生が指示を出す。
「では、いますぐ荷物をまとめ、速やかに帰宅する準備を始めてください」
その直後、生徒の一人が空を指差し大声を上げた。
「お、おい、あれっ……!?」
この全員がその生徒が指差すほうへ視線を向ける。
視線の先には、私たちがいる野営地に向かって飛竜が飛んできていた。
まだ少し距離はあるが、飛竜に乗っている人物が持つ旗に、聖魔導騎士団のエンブレムが描かれているのが、はっきりと見て取れた。
「なぜ、ここに……?」
カーリン先生は怪訝な表情で、飛竜が飛んできている空を見上げていた。
***
カーリン先生と聖魔導騎士団のエンブレムが描かれた旗を持つ騎士が、野営地のステージ上に立っているという異様な光景。
飛竜に乗ってきた騎士は、被っている兜のフェイスガードを上げる。
その中から、ひげ面で浅黒い男の顔が出てきた。
「私は聖魔導騎士団、第三調査部隊所属、ゴルドだ」
ゴルドと名乗る騎士は、右手を差し出し、カーリン先生へ握手を求める。
しかし、カーリン先生はゴルドの握手には応じず、怪訝な表情のまま言った。
「……聖魔導騎士団の方が、なぜここへ?」
ゴルドは握手を求めた右手を引っ込め、答える。
「ここは我々、聖魔導騎士団の管理する森です。そこに騎士の私が来たとしても、何らおかしくはないでしょう?」
「答えになっていませんが?」
高圧的な態度のカーリン先生へ、ゴルドは冷たい視線を送る。
「……ふん。では、ここへ来た真意をお伝えしましょう。野外学習での訓練を実行してください」
「…………ッ!?」
ゴルドの言葉に、驚愕の表情を見せるカーリン先生。
それと同時に、また生徒たちがざわめき始める。
「ウソだろっ……!」
「む、無理でしょ、だって、リズ先生が……っ!」
「……帰りたい…………っ」
ざわつく場を鎮めるのは今度はゴルドだった。
私たちのほうへ体を向け、ゴルドが叫ぶ。
「静まれっ! 私は聖魔導騎士団の騎士だぞっ!」
ゴルドの叫びに、パニック状態の生徒たちは静まり返った。
そして、ゴルドは再びカーリン先生のほうへ向き直る。
「もう一度、言おう。訓練を直ちに開始せよ。でなければ、今後、貴殿の学校にはこの地の使用を永久に禁じる」
「……あなたに、そんな権限はないのではないですか? それに、行方不明者が出ているのです。これ以上続けてしまえば、生徒たちにも危険が――」
カーリン先生の言葉を遮るように、ゴルドが叫ぶ。
「いいですかっ? 我々魔法使いは魔力に目覚めし選ばれた人間です。ならばその力を存分に発揮するべきなのですっ! そして、その身を国へ捧げ、魔物と戦うのですっ! そのためには今回の訓練で己の力量を図る必要がある。この生徒たちの中には将来、聖魔導騎士団へ入団する者もいるかもしれない。たかが行方不明者が出たくらいで中止するなどありえないっ!」
そう言ってゴルドは、肩から下げたカバンから巻物を一つ取り出し、カーリン先生に手渡した。
巻物を受け取ったカーリン先生は、恐る恐る巻物を開ける。
そして、書かれている内容を読むように視線を動かし、
「こ、これは……っ!?」
カーリン先生は再び、驚愕の表情になった。
それを見て、ゴルドが得意げな顔で言う。
「文面の末尾に、我らが騎士団長の印がされているだろう? それが私に権限がある証拠だ」
巻物の内容はわからないが、ゴルドの口ぶり的に、野外学習の訓練を強行することはゴルドの言う通り拒否できないようなことが書いてあるのだろう。
ゴルドは、カーリン先生に一歩近づき、さらに言う。
「いいですか? これは、お願いではない。命令だっ!」
「…………わ、わかり、ました……っ」
カーリン先生は肩を落とし、うなだれてしまった。
その様子を見て、ご満悦の笑みを浮かべるゴルド。
「ガハハハッ! 理解が早くて助かりますなっ!」
こうして、私たちロワンレーヴ魔法学校中等部二年生の野外学習は、行方不明者を出すも、予定通り行われることになった。
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