# 0 2 女子寮の遺体
『能冥学園』の男子寮にて。
亜紀は机に座って窓の外を見ていた。
闇のような真っ黒の夜空には、血のような紅で塗られた月が浮かんでいる。亜紀は紅色に染まった月を見上げた。
「そろそろ出てくる頃だよな」
亜紀は小さくそう呟きながら、窓から見える寮前の道路に目を向けた。
そこには奇妙な生き物が、いたのだ。
犬のような見た目をしているが、その姿は人間が本来知るそれではなかった。
四肢の一部が欠けていたり、生活に必要な目や耳が欠けている。
「今日は
数十年前の謎の現象が起きてから、暁月の夜に現れるようになった獣たち――――――赤獣だ。
その習性はとてつもなく凶暴で、人を認識するだけで襲いかかり、骨まで喰いちぎってしまうと言われている。実際に現れるようになった当初は、赤獣の被害はとてつもなく大きかった。そのため、暁月の夜は誰も外に出なくなったのだ。
赤獣は夜明けが来ると、赤色の塵になって消える。だからそれまでの、夜明けまでの辛抱なのだ。
「どうせ、外に出る奴はいないだろ」
亜紀はそう言いながらカーテンを閉じ、ベッドに潜り込んだ。
そのまま、眠りにつくためにゆっくりと目を閉じた――――――。
朝、亜紀が起きて最初に思ったのは「騒がしい」ということだった。いつもの朝の寮も騒がしいが、今朝をいつも以上にうるさいのだ。
亜紀は寝癖のついた灰色の髪を整えながら廊下に出て、どこか慌てているような寮生の一人に聞く。
「どうしたんだよ?なんでこんなに騒がしいんだ?」
「お前、寝てたのか。それが・・・・・・女子寮の前で死んでんだよ!人が!」
「人が?」
寮生は「ああ!」と頷いてそのまま、寮から出ていく。亜紀はその寮生の言葉に嫌な予感が背筋を走り、自分も急いで寮から飛び出た。
嫌な予感は向かっている間も全く薄れず、どんどん強くなっていく。
女子寮の前では、大勢の人が輪になってその中心にある”何か”を見ていた。亜紀は体勢を低くして人々の隙間を縫ってその中心に向かう。
それを目にした時、亜紀の体温が急激に下がっていった。
――――――そこにいたのは、体中が引き裂かれ原型すら分からなくなった”誰か”の遺体だった。
元の原型がないくらいに引き裂かれており、腕と足、頭部が少しだけ残っているくらいだ。そして、亜紀は少しだけ残った腕を見て言葉を失う。その腕には、以前亜紀が誕生日プレゼントで遺体の人物にあげたブレスレットがあった。
「あ、え・・・・・・」
その遺体の頭部と思われる部分には、微かにだが朱色の髪の毛がある。遺体の近くには生前、遺体の人物が髪を結ぶために使っていた青色の髪留めが落ちていた。
――――――それは、穂華のものだった。
「なんで・・・穂華の・・・」
亜紀の、翡翠色の瞳が大きく見開かれた。その瞳が、徐々に絶望で染まっていく。真っ青な顔で俯いた亜紀を、周りの人々は心配したように見つめた。
「皆さん!集まらないでください!軍警のものです!」
そう言って現れたのは、紺色の軍服に身を包んだ集団だ。
その集団の指示に従う人々は、困惑しながらもその場から離れていく。ただ、亜紀だけが膝をついて動かなかった。
「君!この場から離れて!」
「・・・・・・・・・みです」
「ん?なんて言ったんだい?」
「この、死んでる人は・・・俺の、幼馴染です」
「・・・・・・被害者の関係者か。分かった、君には少しあとで話を伺いたい。今は、離れておいてくれ。辛いだろう、幼馴染の最期を見届けるには急すぎただろうからね」
その軍警の言葉に、亜紀は感情が抜けた顔で「・・・・・・はい」と頷いたのだった。
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