第19話 魔力量を増やすには

「…………というわけで、大樹海とその他の地域の決定的な違いは魔素の量だ。

 この世界の全ての生物は大なり小なり魔力を持っているが、それは当然使えばなくなる。

 で、使った分の魔力は大気中の魔素を吸収することで補充されるわけだな。

 では、ここで質問だ。

 嬢ちゃん、仮に嬢ちゃんが目一杯魔力を使い切ったとして、回復には大体どのくらいかかる?」


 思いっきりこちらを見ているガイ先生。


 はい、わたしのことですね……。


「あの、嬢ちゃんじゃなくてリコです」


「あ〜、すまん。では、リコ、どうだ?」


 また子供扱いかと少々不機嫌になってしまったが、ガイ先生は特に気にした様子もなく言い直してくれる。


 大人の対応だ。


 わたしも大人だし、いつまでも引きずったりはしないよ。


 教師の質問には真面目まじめに答えなければ……と思いつつ、この質問には答えようがない。


 そもそも、わたしは魔力というものを使ったことが一度もないのだから。


「えぇと、分かりません。わたし、魔法とか使ったことがないので」


 その答えにガイ先生や不良冒険者たちが一瞬怪訝けげんな顔をするも、その顔はすぐに納得のものに変わる。


「なるほど、いいとこの生まれだろうとは思っていたが……これは相当だな。

 なら、お前ら、仮に限界ぎりぎりまで魔力を使い切ったとして、回復にはどのくらいかかる?」


 ガイ先生が今度は不良冒険者たちの方を向いて質問する。


「う〜ん、お前、魔力使いすぎて倒れたことあったよな」


「ああ、オーガとやりあった時な」


「あれはマジにヤバかったぜ」


「あの時はお前、3日くらい宿で唸ってたもんな」


「ああ、正直死ぬかと思った……。なんとか動けるようになるのに3日。いくらか魔力を使いながらだが、完全に回復するのに10日以上かかった」


 それって、小説なんかによく出てくる魔力枯渇こかつのことかなぁ?


 この世界に魔力とか魔法とかがあるのは知ってるけど、詳しいことはよく分からないんだよね。


 これって、やっぱりこの世界の常識なのかなぁ?


 魔法を使ったことがないって、この世界的にはあり得ないとか?


 もしかして、異世界人ってバレた!?


 内心焦るわたしをよそに、ガイ先生の授業は進む。


「まぁ、他国そとではそんなところだろうな。

 だが、大樹海ここでは違う。多少の個人差はあるが、どんなに魔力の多い奴でも大体一晩寝れば全回復できる」


「マジか!?」


「それだけ大樹海の魔素が多いってことだ。

 ところで、お前ら、どうすれば自分の魔力量を増やせるか、知っているか?」


「そんな方法があるのか!?」


(ッ!?)

 

 ガイ先生の言葉に不良冒険者たちが騒然となる。


 それは、わたしもぜひ知っておきたい!


 実際、今のわたしの魔力量がどの程度かは知らないけど、決して低くはないと思いたい……一応、転生者だしね。


 それでも、使える魔力は多いに越したことはないし、運動があまり得意ではないわたしとしては、剣士よりも魔術師の方が絶対に向いていると思うんだ。


 この世界では魔法を使うのが常識だっていうなら、なおのこと魔力量は上げておきたい!


 期待に満ちた視線を一身に受けたガイ先生は、どうということもないように言った。


「魔力を使わないことだ」


 その後、ガイ先生が詳しく説明してくれたところによると、まず個々の魔力量というのは大体5歳くらいから増え始め、12歳くらいまででほぼ固定されてしまうらしい。


 生まれたての赤ん坊はゆっくりと周囲の魔素を取り込みながら成長していき、5歳くらいで自分の体内に魔力を満たし終えるんだって。


 ただ、そうして身体を魔力で満たした後も、魔素の取り込みは終わらない。


 身体は貪欲どんよくに魔素を吸収しようとし、でも魔力を蓄える器が満杯でこれ以上は取り込めない。


 そこで、身体は魔力の器を大きくしようと成長を始めるんだって。


「お前らも子供の頃は親に魔法を使うなって言われただろ?

 たとえ生活魔法でも、制御の甘い子供が暴発させれば大事故になりかねない。

 だから、子供の頃は極力魔法に頼らず、自分の力でなんとかするようにしつけるものだと思われていたんだが……。

 最近の研究だと、どうもそれだけが理由ではないってことらしいんだな。

 事実、親の手伝いをする必要がなく、生活の全てを使用人と魔道具がやってくれる上流階級の家の子供ほど、魔力量が多い傾向が見られる。

 今までは血筋の影響が大きいと思われていたがな。

 最近はそれだけではなくて、単純に魔力の成長期に魔法を使う機会がないことが大きな原因と考えられてきている」


 実は十数年前に、この研究のきっかけとなったある事件が起きたらしい。


 それは、エデンにあるとある魔術師の名家でのこと。


 その家に生まれたある男の子は非常に利発で、5歳の頃から大人でも難解な魔術書を読み漁り、将来を非常に嘱望しょくぼうされていたという。


 だけど、不幸なことに、その男の子の魔力は全くと言っていいほど成長しなかった。


 12歳を過ぎた時点で、その子の魔力量は他国人の平均並。ノーム王国基準では5才児程度しかなかったという。


 後に発覚したのが、5歳の頃から周囲の目を盗んでずっと魔法を使い続けていたという事実。


 その男の子は考えたそうだ。


『魔力は限界まで使い切ることで、不足分を補うために増え続けるはずだ』と……。


 彼はこっそり隠れて自分の魔力を増やそうと、毎日限界まで魔法を使い続けていたらしい。


 それまでにも、『子供は魔法を使うべきではない』という慣習はあった。


 でも、それは子供による魔法事故を防ぐとか、魔法以外の手段も覚えさせるとか、身分の高い者が使用人の真似事まねごとをして生活魔法など使うべきではないとか……。


 そんな理由だろうと考えられていたみたい。


 その男の子は、それを単なる迷信と切り捨て、自分の考えに基づいて行動した。


 結果、彼は自分の未来に絶望し、家を出てどこかに消えてしまったという。


 大樹海で死んだって話もあるし、ノーム王国を出て別の国に行ったって話もある。


 でも、この事件をきっかけに魔力量の成長に関する研究は飛躍的に進み、今ではとにかく子供には魔法を使わせないってことが徹底されつつあるんだって。



 結論としては、既に魔力の成長期を終えてしまっているわたしや不良冒険者たちにとっては、あまり役に立たない情報だったわけだけど……。


 わたしは違う意味で考えてしまった……。


(その男の子って、転生者だったんじゃないの!?)


 彼の唱えた説って、魔力量に関する異世界転生モノの主流の考え方だよねぇ?


 魔力チート狙いで頑張って、それが完全に裏目に出たのだとしたら……。


 怖っ!


 思い込み厳禁!


 勉強必須!


 ここは現実なんだから、異世界小説フィクションと混同しないように気をつけなくっちゃ。

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