【修正】多元宇宙における普遍的事項　虐めは全多元宇宙共通でーす～異世界に虐めがないなんて誰も思ってないよ、もっとひどい虐めが待っているって考えて間違いない、それでも行きたいんだよね？

虐められる者の気持ちが君たちには分かるかい？

分かるわけないか

ざまぁ　だとか　自業自得だとかほざいてる君たちには永遠に

虐められながら僕がいつも何を考えていたか　知りたいかい？

興味ないって？うんうんそうだろうとも　それだけはまったくもって同感だよ

だ・か・ら　これから君たちが辿る運命に　僕が全く興味がないってのも理解できるだろ？

人生はテンプレだってよく言ってたよね　テンプレに沿っていれば人生楽勝だぜって

そこから逸脱した人間には容赦ない侮蔑と罵声と暴力を　それが君たちのスタンス

うんうん　今なら僕もその意味が少しは分かるかも知れない

テンプレから外れてしまった哀れな君たちのことが・・・

ごめん　ウソを書いてしまった　君たちのことを一ミリだって哀れだなんて思っちゃいなかったんだ

驚愕の事実　僕も一人前に嘘を言える人間だったんだね

道化師のように滑稽で愉快で唾棄すべき存在　それが君たちだよ

僕を虐めてくれた君たちへ　・・・・　最初で最後の感謝の言葉を贈ります

　毎日のように腹に蹴りを入れてくれた鈴木くん、殴打をくれた佐藤くん

　罵声を浴びせてくれた大勢の男子たち

　見て見ぬふりをしてくれたクラスメートたち

　嫌悪感を露わにしてくれたほとんどの女子たち

　今僕がこうしてここにいられるのは全て君たちのおかげです

　君たちからはたくさんのことを学びました

　君たちのような生き方をするのを僕はやめよう

　事あるごとに人をバカにするのを僕はやめよう

　美醜で他人を選別するのを僕はやめよう

　勉強が出来るからって他人を見下すのを僕はやめよう

　背が低い人間を人外扱いするのを僕はやめよう

　暴力はやがて自分に返ってくる

　侮蔑の言葉はやがて自分に戻ってくる

　そのことを僕は心に刻もう

　君たちの生が無駄ではなかったと誇れるような生き方を僕はしよう

　どうかみんな、僕の最初で最後の感謝祭を楽しんでいって下さい

　日頃の感謝を込めた最大級のお・も・て・な・し

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松岡

　＊　＊　＊

「松岡、あなたはどうして松岡なの！」

　朝のホームルームが始まる少し前、教室では祭典が繰り広げられていた。

　鈴木は女声を作り一番ちんちくりんのクラスメートをからかった。

「黙ってねえで答えろよ、松岡！」

　鈴木は松岡の腹にドカッと腹に蹴りを入れたが、松岡は沈黙を続けた。

「気持ちわりぃ、ドン引きぃーー！　だが、止めてやんねぇーーっ！」

　佐藤が松岡の服の上から殴打を叩き込んだ。

「オラオラ！　悲鳴の一つでも上げて見せろよ！」

　ドガッ！　ドガッ！

　松岡はガクッと床に膝をついた。

　暴力と暴言がさかまく虐めという名の祭典。

　それはどこにでもある高校二年生の日常風景に他ならなかった。

　祭典を見物する女子たちのヒソヒソ声が聞こえる。

「松岡ってチビだし醜いしキモイし、ほんと目ざわりよねぇ」

「クラスの恥、いいえ人類の恥だわ」

「加えて成績も最下位、まさにゴミ以下の存在ね。存在価値ゼロ」

「汚物はゴミ箱へ。松岡は焼却炉へ。誰か松岡を強制収容所に連れてって」

「腐臭がひどくて鼻が曲がっちゃうわ。ああ、臭い」

　嫌悪感を露わにする女子たちの歪んだ口元には一様に薄ら笑いが浮かんでいた。

「そろそろ席に着いたら？　もうすぐ先生が来るわよ」

　窓際の席に座ったメガネをかけた女子生徒が鈴木と佐藤に声をかけた。

「ブサブサ、またおまえかよ。勉強しか能がないクソ眼鏡女子が。もしかして松岡に気でもあんのか？」

　鈴木は蹴る足を止めてブサブサを睨んだ。

　本名は遊佐理沙だが、クラスメートからはブサブサと呼ばれていた。

「ヒャッヒャッヒャッ！」

　佐藤は下卑た笑い声を上げた。

　ブサブサと呼ばれた女子生徒は男子たちの蔑みの言葉など全く意に介さなかった。

「１時間目の予習をしておいた方が身のためよ、授業で恥をかきたくなければね」

「ケッ！」

　祭典を切り上げて男子たちはそれぞれの席に戻っていった。

　ふらつく足取りで松岡も席に着こうとしたその時、教室の中央に魔法陣が現れて強烈な光を放った。

「なっ、なんだ？」

「魔法陣だ！」

「まさか、召喚されるのか、俺たち！」

　眩い光の奔流に飲み込まれ、生徒たちの皆目を閉じた。

　次に目を開けたとき、そこは教室ではなく、見知らぬ世界だった。

　＊　＊　＊

　西洋風の巨大な建造物の一室に学生たちは立っていた。

「ここはどこだ？」

「どうやら召喚の間のようだな」

　周囲を見渡した学生たちは、クラスメートの中に不審な男がいることに気がついた。

「誰だテメエは！？」

　身長は１９５センチ、筋肉は鍛え上げられた戦士の如く、他の追随を許さない美貌を誇るそのイケメンは学生たちを睥睨した。

「まさか……」

　ひとりの男子が、男の正体に気がついた。

「松岡……なのか？」

　長身の男はうなづいた。

「僕、松岡です！」

　低くて澄んだ、声までイケメンだった。

「もしかして、松岡。おまえチートをもらったのか？」

　佐藤の言葉に松岡は無言でうなづいた。

「なんで、松岡だけ？　俺たちゃ何ももらってねぇぞ！」

　佐藤は床を蹴って悔しがった。

「おい、松岡！　チート貰ったからっていい気になってんじゃねえぞ。もし俺たちに逆らったら、ぐふっ！」

　佐藤の腹を松岡の手が貫いていた。

「みんな！　いつもありがとう！」

　松岡は佐藤の内臓を引きずり出して床にぶちまけた。

　ベチャッ！

　佐藤は白目を剥いて息絶え、あたりには血の匂いが充満した。

「キャアアアアアアーーーーッ！」

　女子たちが悲鳴を上げた。

「松岡、てめえ気でも触れたのか！」

　鈴木が食って掛かかると、松岡は首を傾けた。

「日頃の感謝を込めて！」

　松岡は自分の手のひらをみつめた。

「僕、松岡です」

　それからクラスメートたちを見渡した。

　松岡はニヤリと笑った。彼が見せる初めての笑顔だった。

　クラスメートたちは冷や汗を流しながら後ずさってゆく。

　笑顔を浮かべたまま松岡はクラスメートたちに近づいていった。

「松岡の感謝祭、始まりまーす！」

　そう言うと、一番近くにいた男子の腹に手を差し込み、内臓を引き抜いた。

　松岡は臓物を天に掲げた。

「みんな、いつもありがとう！　僕、松岡です！　松岡の感謝祭をどうか楽しんでいって下さい！」

　臓物をクラスメートたちに投げつけた。

　かつての１４５センチだった身長は１９５センチに、戦士のような鍛え上げられた肉体と、圧倒的な美貌を誇る松岡の身体能力に、クラスメートたちは戦慄した。

「お、おい、冗談だろ……」

「やめろ！　来るな！」

「あたしたち見てただけだから、なんも関係ないから！」

「見ていただけの君たちに！　日頃の感謝の気持ちを込めて！」

　松岡の目が黄金色に輝いた。

　するとクラスメートたちの顔が悪魔のような形相に変貌していった。

「いつもありがとう！　心ばかりの御礼です！　僕、松岡！」

「な、なによこのオゾましい顔は！」

「びえええん！　元の顔にもどしてぇぇーーっ！」

「こんな顔じゃあ生きていけな＄％＆！」

「！”＃＄％＆’（）」

「＄＆＃％”（！」

「悪魔の顔には『悪魔言語』を！　僕、松岡です！」

「この殺人鬼があぁ！」

　鈴木を筆頭に男子たちが一斉に襲い掛かってきたが、攻撃が松岡に届くことは無かった。

「松岡の感謝祭、楽しんで頂けてますか？　みんな、いつもありがとう！」

「うあああぁぁーっ！」

「ぐはああっ！」

「うええぇぇーっ！」

　松岡は鈴木の足を掴んでブン回し、クラスメートたちにブチあてた。

「やめてぇえぇ！　もうやめてぇぇーーっ！」

　女子生徒の悲痛な叫び声も「ぐえっ！」という音とともに聞こえなくなった。

「日頃の感謝を込めて！　最大級のおもてなし！　僕、松岡です！」

　＊　＊　＊

「松岡くん」

　……。

「松岡翠（アキラ）くん！」

　翠はようやく自分の名が呼ばれていることに気がついた。

「松岡くん、もうそのへんにしといたら？」

「遊佐さん」

　足元を見れば、真っ赤に染まっていた。

　部屋の隅でブルブル震えているのは悪魔の顔をしたクラスメートたち。

　松岡翠と遊佐理沙は顔を見合わせた。

「人が来る前にここから出ましょう。見つかるとややこしいことになるわ」

　遊佐の提案にうなづき、二人は召喚の間を後にした。

　

　ここは逃げるが吉だと状況が告げていた。

　＊　＊　＊

　勇者降臨の知らせが届き、高位魔術師たちが召喚の間にかけつけたときには、あたり一帯は血の海と化していた。

「この惨状はなんだ！　いったい誰がこんなマネを！」

　部屋の隅を見ると、悪魔たちが寄り集まっていた。

「＃＆＄’（”！）」

「’＄＆＃”）！」

「『悪魔言語』！　そうか、貴様ら悪魔の仕業だな！」

「はらわたを抉り出されている、なんて酷いことを。まさに悪魔の所業！」

「勇者降臨をいち早く察知したお前たち悪魔が、先手を打って皆殺しにしたのだな」

　高位魔術師たちは手にしていた杖を一斉に悪魔たちに向けた。

「これより、悪魔掃討作戦を決行する！」

　高位魔術師達の攻撃を受けて、悪魔たちは一目さんに逃げ出した。

「王国全軍に通達！　悪魔が城内に侵入！　見つけ次第殲滅せよ。悪魔は一匹残らず駆逐せよ！」

　＊　＊　＊

　爆音がしたので振り返って見ると、王城から煙が上がっていた。

「あっちは騒がしくなっているみたいね」

　と遊佐が言った。

「とりあえず、冒険者ギルドに行ってみましょう」

　冒険者ギルドで情報を収集し、王国の地図をテーブルに広げて今後について話し合った。

「辺境都市……僕はそこに行って冒険者になろうと思います」

　と翠は言った。

「松岡くんがそう決めたのなら反対はしない。私は王都でしばらく暮らしてみるわ」

　と遊佐。

「じゃあここでお別れですね」

「ええ、またいつか会いましょう」

「はい、またいつか」

　差し出された遊佐の手を取り握手をして別れた。

　翠は王都を出て辺境都市に向かって歩きだした。

　途中で一度だけ振り返り王都を眺めてつぶやいた。

「遊佐さんの手、やわらかかったなあ」

【終】