青春!異世界でのデート?

 ここはアイテラガ国リーエレ町の宿屋前、制服姿で辺りをうろうろしている総助の姿があった。


 「ごめんなさい、ちょっと遅れてしまいました。」

 そう言って宿屋から出てきサリは、白い大きなスカートをたなびかせて、相変わらず大きな帽子を深くかぶっていた。


 「全然待ってないよ。それにきれいなスカートだ、それならいろいろ隠せそうだ」

 そういうとサリはふふ、と笑ってこう答えた。


 「ケイヤさんの奥さんが見繕ってくれたんです、私こんな服初めて着ました」

 そう言った彼女の顔は太陽のようにまぶしくて、それでいて綺麗だった。

 

 「じゃあまず見に行きたいところとかある?」

 そう総助が聞くと、

 

 「私、最初は市場を見に行ってみたいんです!」

 そう言って二人は市場へと出かけて行った。


 市場に着くと、市場はいつもながら活気があった。

 待ちゆく人の顔は穏やかで、総助はこの光景がたまらなく好きだった。


 「みんな楽しそうですね。みんな今日を楽しんで、きっと彼等は明日もあんな顔で過ごすのでしょう」

 そう言ったサリの顔は少し、物憂げな表情にも見えた。


 「おやまあ、ソウスケじゃないかい。きれいな彼女さんねぇ」

 話しかけてきたのは、八百屋のララおばさんだった。


 「そういうわけじゃ...」

 総助は困った顔をした。


 「おや珍しい、ソウスケがかわいらしい子を連れてるじゃないか」

 道で歩いていた、シャヲウルさんが急に立ち止まってそう言った。


 「ちょっとここはは目立つな、もう少し向こうに行ってみないか?」

 総助は、サリの手を引いて歩いて行った。


 「若いっていいねぇ、シャヲウル。私たちも昔は、こんな風に見られていたのかねぇ」


 「やめてくれよララ、過去にこだわるのはよくないよ」

 そうねと言って二人は少し笑いながら、どこか悲しい顔をして総助たちのほうを見た。しかし、彼らの姿はすでに見えなかった。

 秋の風が二人の間を通る、二人を再び分けるように。


 

 「ここは綺麗ですね、これは噴水ですか?」

 そうサリが聞くと、総助はそうだと答えた。


 「噴水は絵本でしか読んだことしかなくて、こんなに綺麗だったなんて」


 「谷から出たことは、なかったのか?」


 「それが父からの教えだったので...私も弟探すという目的がなければ、人の町に行くなんて叶わなかったでしょうし、考えなかったとも思います」

 

 俺たちは噴水の前でお互いのことを話した、不思議と言いたいことが言えて少し気持ちが軽くなった。


 「じゃあ、ソウスケさんは気づいたらこの町にいて。以前自分が、何をやっていたかも思い出せなくなったと?」


 まあ別の世界から来た。っていうのは伏せといたほうがいいかと思い、話さなかった。  

 

 「まあ大体そんな感じなんだ、だからこの町に来てまだ1週間くらいしかたってないんだ。だから君の弟のカイショニェのことは何も知らないんだ。」


 「そうですか...でもすごいですね、そんな状態だったのに今普通に働いてるなんて」


 「まあ働いてないと、生きててけないしね」


 それからサリと総助は花屋を見たり、町の中心にある塔から街を一望したり、そんな楽しい時間が続いた。

 二人の時間は、あっという間には過ぎていった。


 「そろそろご飯でも食べに行きません?昨日の食堂ですけど、お金は心配ないです俺が出すんで」


 「悪いですよ、ただでさえ今日はこっちが案内されてる側ですから。お金が全くないわけじゃありません、半分は払います」

 サリがそう言うと、総助は嬉しそうに、


 「じゃあ割り勘ってことで行こう!」


 「ワリカン?ってなんです」

 そうサリが総助に聞くと、


 「お互いに半分ずつお金を出し合うことだよ、割合勘定略して割り勘」


 「そんな言葉があるんですね、驚きです」

 サリは興味深そうにし、二人は食堂に向かって歩いた。


 その途中でサリは路地裏にあるものを見つける。


 「あれは」

 暗い顔でサリは立ち止まった。


 「どうしたんだ?サリ」

 サリは路地裏を指さした、そこには獣人のホームレスのような子供と老人がいた。


 「これは一体?」


 「エルマベ族、つまり獣人は過去の大戦で人族にとっても嫌われてしまいました。昨日の私のようにつかまり、売られ、奴隷として生きるものを少なくありません。」

 サリは続けてこう言った。

 「私たちエルマベでも、売れない者たちもいます。売られた者の子供、特に男の子や、老人は買い手すらいないんですよ」

 そう怖い顔でサリが言うと、総助何とも言えない顔でサリに聞いた。


 「なんで、そんなひどいことがあるんだよ。奴隷なんて...そんなのってないだろ」


 「これが此処の真実、人の子が笑顔で明日へ明日へと生きようとも、彼等のような獣人には明日への期待などない。ただ、ただただゆっくりと迫ってくる終わりを求めるだけなんです。」


 すると総助は何かを決めたように、老人と子供に近づき話そうとした。子供は総助を警戒していたが、老人が子供を下がらせ総助の話に応じた。


 「何の用だ人の子よ、わしらからこれ以上何を奪おうというのだ。」

 そう老人が言うと、総助はしゃがんで老人の顔を見て悲しそうな顔をした。


 「あんた等がどれだけ苦しかったか俺にはわからない、でもこんなことってあっていいはずがないと思う。少ないけどこれ受け取ってくれ」

 そう言って1000ラトを渡し、その場を去った。


 「きっとこんなのじゃ何も変わらない、そうなんだろサリ」


 「そうですね、実際王都などでは獣人に対する差別を訴える人もいるそうですが、それでも変わらないと思います」

 

 世界は、人は、我々を見放した。ならば人も同じようになれば...

 サリはそう考えたが、総助の顔が浮かび上がり考えるのをやめた。


 「行こう、デメテール食堂に」

 総助は、作り笑いでそういいながらサリの手を引きデメテールへ向かった。


 「よう角居、相も変わらず馬鹿顔だな」

 須流真がそう言うと、総助は少し顔が朗らかになり、こう言った。


 「お前も相変わらずで、俺嬉しいよ」

 須流真が驚いた顔で固まっていると、総助とサリは席に着き注文した。


 俺はまだ、この世界のことをまるで知らない。誰が傷ついて、だれが助けを求めてるのかさえも。

 だから俺は知らなくちゃいけない、きっとそれが俺がこの世界でやるべきことだと思う。


 

 「ごちそうさま、サリ行けるか?一緒に帰ろう」

 そう言った総助の顔は少し柔らかだった。そんな時、


 「皆さん大変です。この町の正面門の方に、魔物の軍勢が押し寄せてきています」

 そう言ってラクが急いで食堂に入ってきた。

 

 「魔物の総数は約2000は居るとのことです。臨時クエストとして協力してください」


 その言葉を聞くと冒険者は顔をこわばらせ、支度の準備をした。

 総助は急いで門に向かおうとしたその時、


 「角居、貴様も行くんだろう。俺も共に行こう」


 「須流真、ああ何としても止めないと」

 そして二人を追うように、サリも向かった。

 

 「なんだよあれ、あんな数の魔物どっから」

 門の奥の森から、ぞろぞろと出てくる魔物の見て総助はそう言った。


 「角居総助、これは俺のおごりだ」

 須流真は総助に、新品の剣を渡した。


 「須流真?これは...」

 総助は驚いてそういった。


 「準備はいいか、全て葬ってやる」

 「おう」

 須流真の掛け声とともに、総助たち三人は飛び出した。


 「あれはなんだ?」

 そこには小さく肌が緑色の人のような魔物〈ゴブリン〉や、オオカミ型の魔物〈ヴォルフ〉、一つ目の魔物〈サイクロ〉などがいた。


 「夜に襲撃とは、相手も考えたものだな」

 そう須流真が魔物達を自分の剣で倒しながら言うと、後ろからほかの冒険者がぞろぞろと出てきた。


 「畜生、夜じゃ神からの加護の力が勝手に使えない、モロクショ使いは下がって〈申請詠唱〉をしろ!」


 魔物と人が入り乱れる乱戦、その最前線で戦っている総助達は...


 「結構やったか?」


 「いやまだだ角居、あの一つ目の巨人が向かってくるぞ」

 須流真がそう言うと〈サイクロ〉が三人が、地面を揺らしながら須流真たちの方へと向かって歩いてゆく。


 「二人ともここはいったん少し下がりましょう、モロクショが間もなく飛んでくると思います」

 そうサリが言うと、須流真は総助を引っ張って門の前へと向かう


 『ムルォシンベアルメユエン

  シンウャグンショグピィゴンナチャツツアルメユエン   

  オルユエンルォスタノリヲコベシンアルチャグアルツンビモラ

  セトザヨイルベディュルンショ』

 と複数人の冒険者が〈モロクショ〉を放った。

 たちまち岩が現れ、まるで銃のように魔物達に攻撃をしていく。しかし魔物達の勢いを落ちること知らないがごとく次々と現れた。


 「これじゃあキリがないぞ」

 冒険者たちは〈モロクショ〉を放っても勢いの止めない魔物達に対して、すでに弱腰になっていた。

 だがそこに、敵陣に突っ込む三人の影があった。


 「モロクショを打つまでまだ時間がかかるでしょうから、ここは私たちが止めましょう」

 

 そう言って戦うサリの姿は、どこか美しかった、彼女は格闘術でも会得しているのか、足技や腕での返しがとても綺麗だった。

 

 「角居!ぼうっとしている暇があったら戦いに集中しろっ、死にたいのか」

 

 須流真に助けられると、見とれてたら死にかけるってダサいな俺と自分に思うのだった。


 総助は〈ヴォルフ〉を中心に狩った。剣で首の急所を突きさし血が出るたびに顔色を悪くした、その戦い方はどこかぎこちなかった。

 そんな時、総助のもとに須流真が吹き飛ばされてきた。須流真は苦しそうにしている。


 「大丈夫か須流真!あいつは!?」


 一瞬で理解した、須流真が誰にやられたのかを。


 総助の目線の先には戦車一台分の大きさの〈ヴォルフ〉がいた。

 その〈ヴォルフ〉は、絹のように白い毛と、血のように赤黒い目を持っていた。そしてその〈ヴォルフ〉からは、黄色いオーラのようなものがふわふわと周りに出ていた。


 須流真は、苦しそうにうなだれている。須流真の体をよく見ると大きな爪痕が体をザクリと切り裂いていた。

 あの狼を見て、俺は悟った。あいつに勝つことも、逃げることもできない。気づくと俺の足は動かなくなっていた。


 魔物が総助と須流真にたくさんの魔物が向かってきても、総助は動けずにいた。

 魔物の〈ヴォルフ〉の一匹が総助にかぶりつこうとした、その総助の前にサリが飛び出した。


 「危ないですよ...」

 サリは帽子もかなぐり捨て、総助の盾となった。噛みつかれた腕から鮮血がこぼれ落ちた。


 このままじゃ、サリも俺も。俺は一人で勝手にあきらめていた、その時だった。


 「キルサンダー」

 強烈な攻撃が魔物を襲う、それと同時に


 「一ッ閃」

 そう声が聞こえたときには、既に魔物は両断されていた。

 

 「やあ!角居総助君、それにやられてしまった源須流真君。如何だい私なりの魔法、キルサンダーの威力は」

 「ソウスケ。死ぬには少し早いと思うよ」

 現れたのは、スウリクルメとラスレであった。


 「冗談は...よせ、俺はまだやられてなどいない!行くぞ角居総助、奴らを今度こそ蹴散らすぞ」

 須流真は足元がおぼつかない中、立ち上がった。


 俺は、自分がどれだけ情けないことを考えたのかと思った。ここで俺が死ねば、ほかの誰かも死ぬ。


 「だったら戦う、それだけのことだッ」

 総助もそう覚悟し立ち上がった。


 「全員準備と覚悟はいいかな、これから仮称〈タンクヴォルフ〉討伐を目指す」

 スウリクルメはそう言うと全員合図をした。

 「散会!」


 総助達は〈タンクヴォルフ〉を囲むように散らばる。

 総助は最短距離で〈タンクヴォルフ〉に向かい剣を突く構えをして、森に鎮座する〈タンクヴォルフ〉首をめがけて、剣で突いた。しかし剣は折れ、総助は須流真と同じように爪で体を抉られ吹き飛ばされた。

 その光景に一番に気づいたのは、スウリクルメだった。


 「そこの獣人。必ず受け止めろ、彼をここで失うわけにはいかない」

 彼の目はものすごく真剣だった。


 サリが総助を受け止めたが、既に意識はなかった。


 「意識はないですけど、息はあります」


 「でかした、君は優秀だね」

 そう、スウリクルメ笑顔で言うと、次は大声で


 「全員一旦戻れ〈タンクヴォルフ〉の毛は、剣では貫けない。それより今は角居総助を守ることに注力しろ」

 

 総助は痛く、そして苦しい夢を見る。そして...

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