第34話「また会えたら」
聞こえてきたのは、懐かしい声。
もう二度と聞けないと思っていた声……。
「……父さん?」
ああ、そうだよ。
返事と同時に姿が見えてきた。
亡くなる前のままの姿が。
「七海、隼人……」
父さん……。
「うわあああん!」
母さんが父さんに抱きついたって、あれ幽霊じゃないの?
「もう一人の七海のおかげでな、一時的に実体化できたようだ」
「そ、そうなんだ……父さん」
会えたらいいなとは思っていたけど、こうして本当に会えたら……。
「ああ、もう一回抱かせてくれ、隼人」
「うん……」
俺も父さんに抱きつ……もうダメだ。
涙が堪えきれないよ……。
「よかったべな、会えて……」
それを見たキクコ達はもらい泣きしていて、
「私が見えたのはこれだったのかも……」
卑弥呼も目を潤ませて言った。
俺達はこれまでの事を話し続けた。
そして、
「父さん、俺、母さん大事にするから」
涙を拭いながら言った。
「ああ、頼む……そろそろ時間のようだ」
父さんの姿が段々と透けていく……。
「うん、父さん。できるなら夢枕に立ってよ」
「うえええん、やだー!」
母さんは俺に抱きついて泣いていた。
「どっちが子供か分かんねえべさ」
「そう言ってやるなよ」
キクコちゃんとユウト君がそう言い、
「……もしかすると何かが起こってお父さんがとも思ったけど、違いましたね」
友里さんがそんな事を言った。
それ、俺も少し期待した。
「やろうと思えばできなくはないんですよ」
所長が……え?
「できなくはないという事は、もししたらその代わりに何か良くない事が起こるという事ですか?」
友里さんが聞くと、
「ええ。代わりに誰かが亡くなって……いや言い方は悪いですがその程度ならまだいい方で、最悪の場合は世界が消えてしまうんですよ」
「そ、そうなのですか……」
そ、そうだったんだ。
それじゃあ本末転倒だ。
「じゃあな、向こうから見守っているよ」
父さんが手を振って言った。
「うん、またいつか」
「……うん」
そして……姿が見えなくなった。
「……もう一度会えただけでもよしとしないとよね」
「そうだね……」
「さてと、儂らや大魔王殿達は戻るが、勇者達はどうする?」
アギ様が尋ねてきた。
「え? ああ、一旦そっちに戻って陛下やボルス様に報告して、皆さんにも挨拶してから帰ります」
「そうだべ。神器捜索が元々のだったし」
キクコちゃんが言うが、そういやそうだった。
「私も最後までいますよ。いいですよね?」
友里さんも自分を指して言う。
「ええ。あ、母さんは?」
「行く! だって異世界ちゃんと見てないもん!」
母さんは子供みたいに目を輝かせて言った。
……これから母さんと暮らすんだった。大丈夫かな?
「じゃあ、帰りを待ってるからね」
「こっちの事は心配しないで」
所長と伊代さんが、
「私達はまだしばらくいるから、また来てね」
「今度は僕達が東京に行くよ」
鈴さんと一祐さんがそれぞれ言い、
「では私はこれで。皆さん、本当にありがとうございました」
卑弥呼様の姿が消えていく。
「はい、こちらこそありがとうございました」
「卑弥呼様、また会えます?」
母さんが尋ねた。
「こうやって姿を見せるのはしばらく無理です。声だけなら天照様ゆかりの地に来ていただければ」
「そうなんですね。じゃあ機会があれば行きます!」
母さん、子供みたいにはしゃがないでよ……。
「ふふふ、待ってますよ」
卑弥呼様は笑みを浮かべた後、姿を消した。
その後、アギ様達の術であっという間にお城に着いた。
そして奥の間へ通され、一部始終を陛下とボルス様に報告した。
「なんと、そんな事があったのか……」
陛下は目を丸くしていた。
そりゃ大魔王は予想してただろうけど、世界滅亡の危機まではだよね。
「ぐぬぬ、若い者に任せてと思わず、儂も行けばよかった」
ボルス様は心底悔しそうにしていた。
「お師匠様、今度からは何往復も出来るみてえだべ」
キクコちゃんが言うと、
「お、そうか。では折を見て儂も異世界見物しようかな」
その時は向こうに合う服をあげようかな。
「さて、神器奪還どころか世界を救った勇者達よ、礼を言うぞ」
陛下が頭を下げて言ってくれた。
「いえ、多くの人達が助けてくれたおかげですし、大魔王さん達にも助けてもらいました」
俺が大魔王さんを指して言うと、
「大魔王殿、お会いしたかったです」
陛下が大魔王さんに近づいていった。
「こちらもだ。これからは魔族と人間の和平共存について話し合っていこうではないか」
「ええ。いずれは共に同じ町で暮らせるようにですね」
二人は握手を交わした。
「どれもこれも、勇者達のおかげだな」
ボルス様がそう言ったが、
「いえ、与吾郎おじいさんのおかげだと思いますよ。だっておじいさんがここに来なかったらキクコちゃんもユウト君もいなかったし、俺は勇者になってなかったですから」
ほんとそう思うよ。
「そうかもな……多くの者達、儂に先代勇者、上皇様すら導いてくれたあの方こそ、真の救世主だったのかもしれんな」
ボルス様は天井を見上げて言った。
「お師匠様、もすかしてあたすが聖女だって知ってたべか?」
キクコちゃんが気になっていたのだろう事を聞いた。
「そうではないかと昔から思っていた。キクコは魔法の才もだがヨゴロウ殿と同じ仁徳の気があったからな。それもあって弟子にしたのだ」
「そうだったべか。あと先代勇者マヤ様が女性だってなんで黙ってたべさ」
キクコちゃんがちょっと睨むように言うと、
「ああ、もう知っとるのか。いやあいつが人前に出たくないって言うからなあ」
「それもあったんだろけんど、好きな人以外に言い寄られたくなかったからでねえべか?」
あれ、そうなの?
「……そうかもな。あいつはたしかに多くの有力者はおろか二代前の陛下、今上陛下のおじい様にも求婚されとったが全部断っとったわ。そして儂は陛下のヤケ酒に付き合わされたわ」
ボルス様は当時を思い出したのか、苦笑いして言った。
「やっぱりそうだったべか。んでお師匠様、なんでマヤ様に求婚しなかったべ?」
「……いや、したのだがやはり親友としかみれんと断られたわ」
はい? え?
ボルス様、マヤ様の事が……だったんだ。
「え? そうなんだべか? てっきり互いに好きあってたけんど言い出せないままだったって思ったべ」
「あいつが愛していたのは手の届かない相手だった……まあ、いつかは吹っ切れると思って時折口説いてたのたが、とうとう落とせんかった」
「え? あの、マヤ様が愛していた方ってまさか?」
友里さんがハッとしたような表情をした。
「そのまさかかもな。それ以上は聞かんでくれ」
ボルス様は頭を振って言った。
「はい……私だったら耐え切れずにどうしてたかです」
「え、誰だろ?」
ユウト君が首を傾げ、
「マヤ様が手の届かない相手など……いや、相手が既婚者だった?」
ジョウさんがそう言ったが、既婚者?
……あ、まさか。
与吾郎おじいさん?
「それもあったからでしょうか、ユウトさんを後継者にと思ったのは」
「そうかもしんねえべさ、雰囲気は一番似てるって皆言ってるべ」
二人も気づいているようだった。
「……ふん、そっちでまた会えたら、今度こそ口説き落としてやるからな」
ボルスさんは天を仰いでそう言った。
「皆、そろそろ式典をするから来てくれ」
「世界を救った勇者のお披露目と、我らの和平締結を発表するそうだ」
陛下と大魔王さんが揃って言ってきた。
「あ、はい」
俺達は陛下の後に着いていった。
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