第17話「何か懐かしい気が……」

 どのくらい経ったか。

 おそるおそる目を開けると……。

「あ、あれ? ここって?」


「ここ、あの公園だべ」

 そう。そこは俺の世界の上野公園だったが。


「え、え? ワープしたんですか?」

「へえ、ここがひいじいちゃんの世界?」

 友里さんとユウト君が辺りを見ながら言うが、


「いや、人っ子一人いないっておかしいよ。だから」


 そうじゃ。そこは精神世界じゃ。

 おそらく勇者の思いが一番強かったんでそうなったんじゃろうな。


 アギさん、いやアギ様の声が聞こえてきた。


「精神世界か。あ、そういやキクコが持って帰ってきてくれた漫画にあったな、似たようなのが」

 ユウト君が言うがもしかしてそれ、あの龍球か?

 

 さて、まずは思い思いに力をイメージしてみるがいい。

 後はそれを使いこなせるようになれば、現実でもそうなるぞ。


「は、はい。えっと……そうだ、あれやってみよ」

 俺は剣を構え、念じてみた。

 あの後、所長から正しい発音を聞いたあれを思い浮かべ。


「……聖光招来・金剛破邪!」

 

 剣が勢い良く輝き出した。


「や、やった!」

 あっちじゃあれ以来できなかったのに。



「うひゃあ、マヤ様が見せてくれた退魔の剣と同じだ!」

 ユウト君が声を上げた。

「え、ユウト兄、そこまで見せてもらってたべか?」

 キクコちゃんが聞いたら、

「うん、いつか役に立つかもだから覚えててくれってね」


「あの、勇者マヤ様はもしかすると、ユウトさんを後継者にと思っていたんじゃないですか?」

 友里さんがそんな事を言った。

「え、そんなの言われてないけど……でも、考えてみたらボルス様も結構おれに目をかけてくれてるよな。てっきりひいじいちゃんから受けた恩をおれにもかなって思ってたけど」


「ねえ、ユウト君もやってみてよ」

「え? うん」

 ユウト君も同じように剣を構えたが、ほんの少し光っただけだった。

 

「うー、ダメかあ」

 ユウト君がちょっと悔しそうに言う。

「いや、光るって事はいずれできるんじゃない?」

 そして、やっぱ勇者かも。


「うーん。あ、こっちはできるかな?」

「え?」


 構えこそ同じだが、なんとなく雰囲気が……って。


「うおっ!?」


 ユウト君の周りに……風が集まってる?


「……聖風招来・降魔殲滅!」

 ユウト君が叫びながら剣を横なぎに振るうと、凄まじいまでの突風が起こった。


「や、やった、できた!」

 ユウト君がガッツポーズをとって喜んでいた。


「あの、今のって何?」

 いやもしかするとだけど、

「これもマヤ様が見せてくれた技だよ。普通の魔物はこっちの方で倒したって」

 やっぱりそうか。


 ユウトは風の力の方が相性がいいようだな。

 しかしそれだけ風を操った者はワシの知る限り、お主以外にもう一人だけじゃったな。


「ちぇ、おれが最初じゃないんだ。あ、それって誰?」

 

 こことは異なる遠い世界の遠い昔にいた侍じゃよ。


「へえ。あ、もしかしてひいじいちゃんの、おれ達のご先祖様だったりして」

 残念ながら違うな。

 だが隼人はその子孫と縁があるぞ。


「え? ……まさか?」


 そのまさかかもな。

 さ、もう少し力の練習をしてみるがいい。


「は、はい」




 その後、それぞれ練習を続け、

「あ、こんな事もできた」

 友里さんは身体能力アップ、防御、物を浮かせる魔法、錬金魔法や水の魔法も使えるようになった。


「すっげえべ。そんじゃあたすは」

 キクコちゃんは両手を合わせ、何かの呪文を唱え始めた。

 そして、


「やあっ!」


 両手を広げたと同時にそこから白い光線のようなものが音を立てて放たれた。


「今の、何?」

「極大五芒星魔法だよ! あれ、ボルス様しかできねえんだぜ!」

 ユウト君が興奮しながら教えてくれた。


「やったべ、こんでお師匠様に追いつけただ!」

 すげえ、世界一に近づいたなんて。


 ふむ、皆予想以上にレベルアップしたな。

 さて、一休みした後で最後の修行をしてもらうか。


「あ、はい。それってどんなのですか?」


 今までは個々にだったが、集団戦の練習と思ってくれればいい。


「なるほど。じゃあ敵が出てくるんですか?」


 そうじゃ。まあお主らなら勝てるから心配せんでいいぞ。


 

 しばらく休んだ後、目の前に光の矢印が出てきた。

 この方向へ行けって事だな。


 それを辿っていくと所々でまた光の矢印が出てきて。

 公園から出て、町の方へと向かった。 


――――――


「……おかしいのう?」

 水晶玉を見ていたアギが首を傾げる。


” ん、どうした? ”

 剣が尋ねると、


「いや、途中で皆の姿が見えなくなったのじゃが」


” ……は? おい、それまずいだろが! ”


「そうなのじゃが、こんな事初めてじゃしのう」


” ああもう! おい勾玉、いや兄貴なら見えるだろ! ”

 剣が水晶玉の横に置かれていた勾玉を兄と呼んで尋ねた。


” ……うーん、え? ちょ、これヤバいってば! ”

 勾玉も驚きの声をあげる。


” だから何が見えたんだよ! ”

” えっとね…… ”

 勾玉は自分が見えたことを話した。


「なんと! 二人共、こっちから連絡はつかんのか!?」

 アギが声を荒げて言うが、


” 既にやってるけどさ、届かないみたいだよ…… ”

” ああ、もう天に祈るしかねえなあ、俺達がってのもあれだけど…… ”

 二人(?)は申し訳なさそうに言った。


――――――


 しばらく歩き、着いた場所は……。

「あんら、ここ隼人さんの家そっくりだべ?」

 キクコちゃんがそこを見て言う。


 たしかにそっくりというか、そのまんまなんだが。

 やっぱ精神世界だからかな?


「中に誰かいるような気もするけど、精神世界だからかなんかぼんやりって感じなんだよなあ?」

 ユウト君が首を傾げる。


「あの、入ってみますか?」

 友里さんが俺の方を向いて言ったので、そうする事にした。


 鍵は開いていて、中は……なんというか今じゃなくて昔っぽい?


「あれ、誰かの声が聞こえるべ?」

「居間の方からですね」


「この声、聞いた事がある気がする。何か懐かしい気も……?」

 居間をそうっと覗いて見るとそこにいたのは、短い髪で白いワンピースを着ている三十代くらいの女性。

 

 ってか……。


「ふんふんふーん、あー、何しよっかなー?」


 か、母さん?

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