第24話
部屋はかなり綺麗にされていた。まるで今もそこに人が住んでいるかのような綺麗さだった。木造りで統一された家具は、どれも年季は入っているが埃一つなかった。ベッドに敷かれたシーツや、掛け布団までは手を付けていないのか経年劣化で黄ばんでしまっている。しかしそれ以外は、今も人が住んでいると言ってもおかしくないものだった。
「何もないか」
美琴は右手にあるタンスの引き出しを何個か引いて、中に何かないか探す。服は大量に仕舞ってあったが、それ以外に書類の類はこの部屋になかった。この部屋に何の手掛かりもないとするともうここには用はない。ぐるっと一周見回してから外へ出ようと踵を返す。
しかし、タンスの上に置かれた白い箱が目に留まり、タンスの上へ手を伸ばした。何の変哲もない白い箱は手に取ると軽々と持ち上がり、拍子抜けする。見た目通りただの空箱だったみたいだ。
「これは」
上からそっと箱の蓋を外して見るが、そこには何もない。白い箱の中身は空っぽで、中には赤い布が張られた緩衝材だけ入っていた。
「美琴さーん」
竹内の声がリビング方から聞こえた。白い箱に蓋をして元々置いてあったタンスの上に戻した。
「すぐ行く!」
竹内に返事をして部屋を出た。美琴がリビングの扉を開けると、テレビ棚の中を漁りながら尻をこっちに向けていた竹内が目に入った。
「何か探し物か?」
竹内は、美琴が声をかけると棚に頭を突っ込んだ状態で、美琴に話しかけた。
「そうなんですよ! 思い出したことがありまして、母がよく予定とかを書いていた手帳がどこかにあるはずなんです。そういえば、鑑識の人とかにも手帳があったって話聞いてなかったので、どっかに隠してるのかもって」
「手帳?」
美琴が訝しげな表情で竹内を見ていると、竹内が芋虫みたいにテレビ棚からずるずると後退して顔を出した。
「そうなんですよ! そういえば、母がそのころ付き合っていた男がいたって話しましたよね? 何か不自然にオシャレして出かけたりとかしてる日があったって」
「手帳か。だけど、君のお母様の寝室はさっき、失礼ながら探させてもらったが何も見当たらなかった。どこかに置かれてたなら警察が先に気づいているよ。本当にそんなものあったなら犯人が持ち去った後かもしれない」
竹内は美琴の話を聞いて顎を親指と人差し指で挟むようにして思案する。美琴の言う通り犯人が持ち去った可能性は大いにあるが、犯人が手帳を持っていくメリットはどこにあるのだろうか。竹内自身は、日ごろ母親と一緒に生活していて手帳に細かく予定を書くことを知っていた。
しかし、今回の無遺体連続殺人事件は規則性なく、過去に起こっていた無差別殺人事件と同じくランダムに被害者が決められていると竹内や美琴、対策本部の人間ですらそう思っていたはずだ。そうであるならば、竹内の母親の手帳を持ち去るはずがない。
しかし問題は、今可能性があるとされている村田成人と竹内美知子の関係性だ。
「ならば、むしろそれは好都合です。手帳を持っていくような人間であるならば、自ずと犯人は絞り込めます」
竹内は淡々と犯人を追い込むための推論を美琴へ話していく。その推論は正しいとすると、村田成人と竹内美知子を繋げるものは……
美琴は頭を抱えた。その方向性で行くならば答えは一つしかない。覚悟を決めなければならない。美琴は竹内の肩に手を置いた。
「よくやった。犯人逮捕に僕も尽力するよ」
「はい!」
美琴は竹内に顔を合わせずに、リビングを出ていった。竹内は一人になったリビングで、誰かに聞かせるわけでもなく呟いた。
「やっとだよ。母さん。俺が必ず犯人を――――」
物音ひとつしない室内で、竹内のうわ言は空気に溶け込んで消えていった。
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