第28話 神崎君たちとテーマパーク①
「ごめん。ちょっと電車遅延した」
「大丈夫だよ。まだ集合時間じゃないんだから」
「菅原も来たし、そろそろ行くか」
「ごめんありがとう」
球技大会後の連休。今日は本来ならクラスでの打ち上げがあるんだけど、私達はクラスの打ち上げには参加せず四人でテーマパークへ遊びに来ている。何故クラスの打ち上げに参加しなかったのかは単純明快で神崎君が参加出来ないから。私は神崎君も一緒に楽しめないのなら参加しなくていいやの精神なんだけど、有り難いことに?深い理由は知らないけど青山さんと藤原君もクラスの打ち上げには参加しなかったらしい。曰く私と同じような理由で、暇だったら参加しなかった四人で遊ばないって感じで今に至る。
神崎君含めてクラスの人たちと遊べる。喜ばしい限りなんだけどちょっと変な感じ。クラスの人たちとってこともあるけど、青山さんとそれに神崎君の初の男子友達である藤原君と一緒に遊ぶ光景に違和感を覚えてしまって、友達と遊ぶという行為が変ではないのに変な風に感じてしまう。
「……まだ間に合うけど、本当に良かったの?」
「私はモーマンタイ」
「私も別にいいかなって」
「俺は付き添い」
神崎君の気持ちも分かるけど、私達は一応クラスより神崎君を選んだってこと。たしかに今から行っても十分に間に合うけど神崎君を置いていくつもりはない。神崎君だって参加できないことは仕方のないことだって言っているけど、内心は絶対にこういったことをやりたいと思っているはず。たとえ思ってなくても私はやりたいから、ほぼ強制参加させるけどね。
今日来たテーマパークは東京を謳っている某テーマパークではなく、普通に?電車で一時間半ぐらいのところにある大き目なテーマパーク。最初は某テーマパークに行こうって話になっていたんだけど、ビックリなことにあそこは神崎君が入れないらしい。神崎君情報だけど実刑判決を受けた人は顔認証で弾かれるのだとか。まさかまさかの事実に驚きはしたけど行けないのであれば仕方がない。あそこはここからだと少し遠出になるし、待ち時間も尋常ではないからこっちにして正解だったのかもしれない。
「神崎君は何か乗ってみたいものとかあるの?」
「うーん。こういうところは人生で初めて来たから、どれも乗ってみたいって思っちゃうね」
何気なく訊ねてしまった質問。だけどちょっと踏んではいけない地雷だったのかもしれない。神崎君の家庭事情はあまり知らないからあれだけど、捕まっていた期間を省き、小さい頃は家族でこういった場所には来てなかったのかもしれない。
「お勧めとかある?」
「オススメ⁉」
テーマパークに来たのであれば聞かなそうな単語。オススメか。私もそこまで来ているわけじゃないし、みんなの好みとかあるからな。
「神崎は何も乗ったことないのか?」
「ちょっと言い方」
「まあ、ね。捕まってたし、家族でってこともなかったから」
「なら何でもいいだろ。時間はあるんだ。方端から楽しんでいこうぜ」
藤原君らしいのかな。そうだねよ。テーマパークって楽しむことがメインなんだよね。某テーマパークと違って何時間も待たないし、初めてってことはもしかしたらジェットコースターが怖くて乗れない神崎君も見られるのかもしれない。どれからってよりも端からって方が私達に合っているのかもしれない。
ってことで入場チケットを買うのに少し並んだが、いざ入場。テーマパークってことだけあって入った瞬間から違う世界に来た感が満載。異世界感溢れる光景にケルト音楽っぽいBGM。質感の違う道路にお客さんが楽しむ奇声。目の前のアトラクションが異質だけど自然なように感じて、ちゃんと作り込まれているんだなってのを実感する。
「こんな場所なんだ」
初めての神崎君。数度だけど行ったことのある私でさえ異世界にやって来たみたいに感じているんだから、そりゃ神崎君だって驚くはず。神崎君はまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように目を輝かせて辺りを見渡していた。
「それじゃあ、いっこっか」
ゴーカートにお化け屋敷。コーヒーカップにウォーターライド。スカイフォールやミラーハウスにスペースサンダーマウンテン。入口から時計回りに順繰りとアトラクション制覇していく。
「あ、神崎君そこ危ないよ?」
「なんで、ぶは」
用途が分からない、通路にジェットコースターの水しぶきが飛んでくるやつ。
「あはは。神崎君大丈夫?」
「ふふ。神崎ドンマイ」
「……顔だけでよかったけど、早めに教えてくれない?」
神崎君には悪いけど、素で当たる人なんて珍しすぎるからちょっと面白かった。
「まあ、こういうのも思い出だろう」
「……そうだね」
その後、ひとつだけアトラクションに乗って時刻はお昼の時間となった。
「それじゃあ行ってくるね」
「うん行ってらっしゃい」
テーマパークでのお昼。某ランドやシーとは違いお店なんだけどテーマパーク特有の屋台みたいな感じがする。一つのお店?露店?の中に焼きそばだったりたこ焼きだったり、アイスやホットドッグなど色んな食べ物がある。お昼時ってこともあって二手に分かれることになった。買い出し班と席取り班。ぶっちゃけお金はちゃんと払うのでどっちでもいいってことでじゃんけんの結果、買い出し班は青山さんと神崎君が、席取り班は私と藤原君になった。
藤原大輔君。最近よく話すようにはなったけど、今まで別に話していなかった訳ではない。席も近かったし、必要であれば普通に話していた方。でも、だからと言ってメッチャ話していた訳ではない。青山さんの友達だし、神崎君のことを悪く思ってないってことは良い人であることには変わりないのだけどちょっとだけ気まずい。何を話せばいいのか、会話内容を少し考えてしまう。
「なあ、ひとつだけ訊きたかったことあるんだけどいいか?」
「あー、うんいいよ」
話題を考えている間に先に話しかけられる。私に訊きたい事ってなんだろう。
「菅原って神崎と付き合ってるの?」
「――っ⁉」
顔が赤くなったような気がする。
「つ、付き合ってないよ。仲が良いだけ」
予想外の質問過ぎて焦ってしまう。いや、ただの疑問のはずなのになんで焦る必要があるのだろうか。
「ふーん。じゃあ宮澄だっけ。その人とは?」
「付き合ってないと思う。多分普通に仲が良いだけ」
「へぇー」
なんだその目は。やましい事は何もないはずなのになんだか顔が熱くなってしまい、心臓の鼓動が少し早くなってしまっている。
「じゃあ好きなのか?」
「――っ⁉好きじゃなくはない」
「なんだそれ」
駄目だ。恥ずかしすぎる。好きじゃないかと訊かれたら好きなんだけどそれは友達として好きなだけであって、決して恋愛感情の好きではないような気がして。意識しないようにすればするほど意識してしまって身体が熱くなってくる。
「……そういう藤原君はどうなの?青山さんと仲いいよね」
一刻でも早く話題を変えたくて、雑な攻めを展開。はぐらかされるのがオチだけど、こういう状況下においてこれ以上の最適解は思い描けない。
「俺は好きだよ」
「え――――⁉」
「驚きすぎだろ」
奇想天外、摩訶不思議?想像不可の展開に人の目を憚らず、思わず大声で驚いてしまった。
「だってだってあ、……本当なの?」
声のトーンを落とし話を継続。思わぬ展開(恋)を見過ごしてしまうほど、私は愚かじゃない。
「くだらない嘘なんてつかん。それに隠すようなことでもないしな」
恋愛なんて日常にあふれているだろと言われて少し落ち着く。たしかに今も見渡せば恋をしているカップルや家族がいるし、当たり前?っちゃ当たり前なんだけど、身近な人の好きや恋はやっぱり特別なものに感じるはずでしょう。それを気にしないとか藤原君は私より大人なんだな。
「ってことは付き合ってるの?」
「いや付き合ってないよ」
何か問題でもあるのかって感じで淡々と述べる。なんでこんな平然としていられるんだ。
「告白する予定は?」
「ない」
好きとか恋を当たり前に思っている人ってこんな感じなのかな。藤原君は変に一喜一憂しないし見えないし思えない。
「あ、だから今日来てくれたんだ」
「それが一番大きいな」
元々なのかな?本当なら?今日の打ち上げは、最初は私が神崎君を誘って何かやらないって話になって、どうせならってことで宮澄さんと青山さんも誘ってみて、宮澄さんは一組のクラスの打ち上げと言うことで不参加になって、神崎君男子一人だから他の男子を誘って。青山さんは、大輔は来ないかもって言っていたけど普通に参加オッケーで驚いてたな。そう?考えるとやっぱり青山さんが好きだから来てくれたのかな。
「……疑う訳じゃないけど……騙してないよね?」
疑ってしまうことは最低だと思うけどやっぱり疑いたくもなる。だって急なカミングアウトだよ?脈絡は一応あるけど、私に言う必要なんてないし、第一特別藤原君とは仲が良いってわけじゃないし。こういうのって信頼できる友人間の秘密の共有じゃないのか。
「人に訊くんだから自分が話さないと対価にならないだろ」
「そうだけどさ……」
「本当に隠すようなことじゃないしな。いちいち人の色恋にキャッキャッする方が分らん」
藤原君は大人なんだな。私は人の色恋はメッチャ気になるけど、誰かを好きになるのは当たり前なんだし、いちいち盛り上がる方が変って視点もあるな。それに対価って。普通はそんな対価絶対に支払わないよ。修学旅行の恋バナマジックじゃないんだから。ってかなんでそんな当たり前のように差し出せるんだ。
「安心しろ。これを言ったのは菅原が初めてだ。俺もオープンにしてるからといっても所構わず誰にでも言ってるわけじゃない。普通に恥ずいしな」
「さすがにね。でもなんで私に?」
もしかして協力してくれってことなのかな。青山さんとは最近ちょくちょく話すし、変に言いふらさないと思ってくれたのかな。
「普通に対価。ただそれだけ」
「それだけって。……そんなに私が……神崎君と付き合っているのか知りたかったの?」
「普通に気になるだろ。一年の頃から仲良いって聞いてるし、誰の目から見ても付き合ってるような行動とりまくりだろ」
そう言われるとちょっと恥ずかしくなってくる。たしかに他の男子と比べると距離が近くもないような……。
「……わからない……けど他の男子よりは特別に思ってるかも……」
自分で言ってなんだがメッチャ恥ずかしい。恥ずかしすぎて最後の方はゴニョニョって言ってしまった。
「そっか」
なぜ藤原君にこんなことを言っちゃったのか。雰囲気に流されたってのが大いにあると思うけど、誠実に答えてくれた対価として私も彼の気持ちに応じたかったかもしれない。
「……藤原君はさ……青山さんと……その……付き合いたいとか思ってないの?」
「思ってるよ。でも、それは俺の幸せだろ」
「?」
「青山と付き合いたいのは俺の理想で、決して青山の幸せじゃなくて俺の幸せ。俺が一番望んでるのは青山の幸せだから。あいつが幸せになれるんだったら隣に居るのが俺じゃなくていい。俺はあいつが幸せそうに生きてるのが好きだから」
どこか遠い感じに話した藤原君。私はそれを訊いて……。
「なにカッコつけてるの?ちょっとビックリするよ」
「うっせ」
今時こんなキザなセリフ言えちゃう男の子がいるとは。考え方は素敵だけど、いざ実際に自分に向けて言われたらどんな反応すればいいのか悩んでしまう。それに、どことなく振られる前提に話をしているし、まだ勝負すらしていないだろって思ってしまう。
「あーあ。恋愛観こじれすぎたな」
「いやいや私もそうだから。それにそういうセリフは藤原君らしくないよ?球技大会みたいに敗色濃厚でも最後まで諦めないんでしょ?嫌いとか何もないって思われてない限り可能性は全然あるから。女の子はちょっとのあれでも意識しちゃうし、表には出さないだけで結構頭に残ってるものだよ」
「菅原だけじゃないのか」
「……そんなことはないはず。野球も最初からドラマのある試合じゃないでしょ。九回裏ツーアウトからが本番じゃん。最後の最後まで諦めず、自分に出来ることをする。諦めないから奇跡が掴み取れるんだよ。そしてそういう姿勢が人の心を動かすんだよ」
自分で言ってあれだけど全く説得力がないな。大した恋愛もしてないし、現在進行形で付き合っているわけでもない。なんならパートナーなんて一回も出来たことないし、考えれば考えるほどお前が何言ってるんだ状態になってくる。
「っふん」
鼻で笑われた。
「菅原っぽいな」
「この言葉に恥じないよう善処します」
神崎君はたしかに他の男の子と比べると特別な人って思える。好きっていうのかな。一緒に居て楽しいし、些細な時間を共有してる時は幸せに感じる。この気持ちは多分好きなんだろうけど、人生の最後まで一緒に居たいの好きなのか、神崎君と居る今が幸せだと思えるから好きなのか、楽しい自分が好きなのか。
「多分俺は負けてるんだけどね」
「?何か言った?」
「……いやなんでも」
ぼそっと何かを呟いた藤原君。 テーマパークの音楽に掻き消されうまく聞き取れなかった。
考えれば考えるほど好きっていう感情は不思議に思ってしまう。シンプルに好きだでいいと思うんだけど、なんで私はこんなにもこじれてしまったんだろうか。
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