第6話「騎士団からの誘いと、それぞれの決断」

あの鬼豚(おにぶた)を斬り伏せた一件は、辺境の村の話とは思えないほど早く都市に広まったらしい。

「すご腕の剣士が現れて、魔物をあっさり切り捨てた」とか、「魔力を持たないのに大男を一撃で斬った」とか、尾ひれがついた形で噂が広がっていく。俺は評判など気にしちゃいなかったが、この世界じゃ“魔力”が重んじられるだけに、剣の腕で名を上げるのは相当珍しいらしい。


そんなある日、村に騎士団の制服を纏った数名がやって来た。人相の良さそうな隊長と数人の団員。それだけで村はちょっとした騒ぎになる。

隊長は俺の噂を確かめるべくやってきたらしい。ゴブリンの件も鬼豚の件も、市井の噂と村人たちの口から直接聞かされると、彼は「ぜひ騎士団に入団してほしい」と、ストレートに申し出てきた。


「たしかに、剣士がうちにいないわけではないが、大抵は魔法の補助がないと厳しい。あなたのように単独で大物を倒す剣士は聞いたことがない。是非騎士団に――」

そこまで一気に語ったところで、俺は条件を口にする。

「ここの村が今後も魔物の被害に遭うかもしれない。もし俺を欲しいなら、団員を数名、常駐させてくれないか? それが飲めねえなら入団はしねえ」

すると隊長は一瞬驚いた顔をしたが、すぐ真剣な面持ちでうなずいた。

「なるほど、村の防衛を確保したいのだな。正直、全員は無理だが……数名なら派遣の許可を得られるよう、上に掛け合ってみよう。あなたを得られるなら、それに見合う価値はあるはずだ」


こうして、一旦は仮契約めいた形で騎士団に入ることが決まる。

本来ならもっと面倒な手続きや試験があるらしいが、噂と実績を持ってきた俺には、そこをすっ飛ばしてでも“欲しい人材”というわけだ。仲介の隊長は「必ず団長にも会ってほしい。近日中に都市へ来てくれ」と告げて帰っていった。



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騎士団の一行が去ったあと、村人たちは安堵の表情を浮かべる。俺が村にいなくなればまた魔物の脅威にさらされるし、かといって俺を束縛するのも悪い――そんな複雑な心境だったらしい。

数名の騎士が配属されれば、村の防衛はかなり盤石になるはずだ。皆、残念そうな顔もしつつ、「次に来てくれるまで、どうかお達者で」と嬉しそうに声をかけてくれた。


そんな村人とのやりとりを脇で見守っていたラニアが、ぽつりと話しかけてくる。

「わたし……あなたと一緒に都市へ行くことにします」

「お前、あの魔法学院に籍があるって言ってたな。戻らなくて平気なのか?」

「だからこそ、なんです。学院は都市にあるので、すぐ戻れる。それに、せっかくあなたが騎士団に入るのなら、近くにいたほうがいいかなって……勉強もちゃんと続けたいですし」

ラニアはちょっと恥ずかしそうに俯いたまま、言葉を続ける。

「それに……あなたと一緒に生活するわけじゃないけど、でも近くで暮らせたら、もっと安心かなって。村の任務も、ある程度は終わりましたし……」


気づけば、ラニアは顔を真っ赤に染めている。俺はからかうでもなく、当たり前のように頷いた。

「そうか。じゃあ、都市で会うときにまた剣を見せてやるさ。おれにとっちゃどこでも鍛錬あるのみだ」

「……はい。楽しみにしてます」


こうして、俺が騎士団に入ること、そしてラニアが魔法学院に戻ることが決まった。

村の人々は名残惜しそうだが、「騎士団が来るなら安心だ」と、少し前向きにも見える。何より、再びゴブリンや鬼豚のような魔物が来ても、今度は専門の兵が守ってくれるという期待があるのだろう。



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夕暮れ時、荷車に手荷物をまとめながら、村長に別れの挨拶をしていると、ジョルクが「俺も騎士団に入りたいんです!」と大きな声で言い出した。

「お前、急にどうした……?」

「あんなにスゴい剣士さんとお嬢さんがいなくなったら、村のことがまた心配だ。でも騎士団が常駐するなら、俺だって戦力になりたいし……」

目を輝かせるジョルクを見て、村長は苦笑しつつも、「まずは村に来る騎士たちと話すんだね」と諭していた。残る者たちも、俺たちに背中を押されるように、少しずつ新しい道を模索し始めているようだ。


ラニアはそんな村人たちの姿を眺めながら、「この村、いいところですよね。また帰ってきたくなります……」としみじみ呟いた。

「そりゃあそうさ。ここが、おれの異世界での最初の拠点だったからな」

そう返すと、ラニアは嬉しそうに微笑んだ。


こうして、旅立ちの準備は整った。都市へ向かう道中は、騎士団に伝えられた合流場所があるらしい。そこから正式に俺の入団手続きや、ラニアの学院復帰の段取りを踏むことになる。

――果たしてどんな歓迎が待ち受けているのやら。今はただ、新天地への期待と少しばかりの不安を抱えながら、村の暮らしを後にする。


次なる舞台は賑わいのある都市、そして王国騎士団の本拠地か。

面妖な世界に転がり込んじまった身としては、まだまだ波乱が絶えそうもないが……さて、どうなることやら。

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