俺のベクトル操作が神ってる🔄~女神から『左折』しかできないゴミスキルだとダンジョンに捨てられましたが、実はあらゆるベクトルを操るSSS級スキルでした。異世界無双始めます~

ぬがちん

第1話 大根足の女神様

 俺の名前は向井むかい 彼方かなた

 東京にある一方高校、一年A組のありきたりな男子高生である。


 知力、体力は凡人、友達は凡人以下の特技はなし……。

 趣味はネット小説を読んだり、動画視聴したり……うん。紹介するものが少ないインドア系だ。



 俺はいつものように学校で授業を受けていた。

 そしたら急に教室にバカでかい魔法陣が浮かび上がって、気づいたら真っ白い空間にいた。

 書くことがなく余白ばかり目立つ、俺のプロフィールよりも真っ新な世界だ。


 「勇者候の君ぃ! ようこそ、いらっしゃいませ~~~~~」


 突然、女の声が響く。

 この状況で恐ろしく愉快な態度に、俺はぞっとしながら声のする方を見た。

 なんと、俺の頭上で少女が空中に立っている。


 赤いメッシュが入った自慢の銀髪に、額に角が二本生えた姿は人外そのもの。 

 赤と白を基調とした巫女装束を纏い肩出し、ミニスカ風の袴、袴の中央で大きくリボン結び……神聖な装いの割には、盛大に邪道な着崩し感だった。

 ……まるで神話に出て来る――否、異世界転生のアニメに出て来る女神のようだった。


「ウイ(はい)。大正解~~~! そこの彼女いない歴16年の凡人の向井 彼方君に拍手~~~~★」


 俺の個人情報が盛大に身バレがしてる!!


「心を読まれた……」


「ウイ(そう)! なぜなら私は全知全能たる女神、スズカ・キウイ御前ごぜんなので~~す♡ 君のスマホにエロ画像を格納してる事もバレバレなのです☆ 年上好きなの?」


 やめろやめろ!

 誰にも心を開かないで生活してたってのに、こんな訳の分からない女神に心をこじ開けられる屈辱……!

 

「でもねぇ……。これはフィクションではありませんっ。君にはこれから異世界転生して頂きます!」


「は?」


 ネット小説でよく見るやつだ!

 魔王退治のために呼ばれるんだろ。つまり、この女神は異世界への案内人だな!

 

「よくわかってるじゃないの。余計な説明が省けるってものね!」


 俺の心を読み取って勝手に会話を成立させていきやがる。


「これから君をこのキウイ御前が、剣と魔法の異世界に送りますっ★ 文明水準は中世ヨーロッパ時代と同じと考えていいです。その世界は今、『魔王軍』によって侵略されてる危機的な世界! 君は勇者として成長、活躍して……魔王を滅ぼして欲しいのです♡」


 テンプレのあらすじを聞いてる気分だよ。


「えー、でも……。そんな物騒なトコに一人で行くの怖いし、それもタダで行くってのは……」


「もちろんわかってるよ! 君みたいな貧弱根暗もやし野郎を一人にはできないっ。それに今時の打算的な現代人がタダで引き受けてくれるとは思ってもいません!」


 いちいちディスるなよ。


「勇者候補の君には~、キウイ御前得点として『勇者適正』診断のもと、『スキル』を付与いたしま~~~す!」


 この展開……ネット小説と同じだ!

 不安どころか、俺はわくわくしてきた。


 頭ガチガチ優等生よりも、腕っぷしで偉ぶるイジメっ子よりも、俺を空気みたいな扱いをする女子どもより、『才覚』ってやつを手に入れられるかもしれないんだ!


 凡人がリセットしてチート神展開のお約束に――


「ん? あっれぇ~~~~? 向井 彼方君ゴミすぎでワロタ」


 ………………。

 …………は? ゴミ?


「向井君の勇者適正は『G』ランクなの」


「G……?」


「君が勇者に向いてるかどうかを可視化したものなんだけど、ステータスを見て!」


 女神が指をくるっと回すと、俺の目の前にウインドーのようなものが開かれる。



 ◆◆◆


〈名前〉向井 彼方

〈年齢〉〈性別〉16・男性

〈ランク〉G

〈体力〉50/70

〈魔力〉50/50

〈攻撃力〉20

〈防御力〉15

〈素早さ〉80

〈運〉100


〈所有スキル〉

【左折】


 ◆◆◆


 なんだ、この地味なステータスは……。

 そして確かに『ランク』がGだった。


「あのね、最高がSで最低がFなの……。Gなんて女神でも聞いたコトも見たコトもなくて草っ」


 マ? それ、マ?


「マ」


 いや、マで返すな!


「ランク外なんて戦力外でしょ? お荷物確定ボンバーになる未来しか見えないからここでポーイさせてね♡」


「いや、ま、待てって!」


「待ちませんっ。勇者の適正に見合った『スキル』も付与されるのに、向井君のは【左折】……」


「ど、どんな強いスキルなんだよっ」


 俺は強気で尋ねる。


「自分でもう一度見て見れば? 『ステータスオープン!』って元気に唱えてみて?」


「……っ、す、ステータスオープン」


 元気に言わなかったが俺の前に再びウインドーが展開された。


 ◆◆◆


『所有スキル』

【左折】

 効果:左折しかできなくなる。


 ◆◆◆


 な、な、なんだこのスキルは……!


 女神が饒舌に嘲笑う。


「カニさんでも横歩きで左右自由なのに、君ときたら『左にしか進めない』なんて人生縛りキツイわ! 空前のゴミ『スキル』だよ? 君のランクの『G』はさながら『ゴミ』の『G』ねWWWWW」


 煽り過ぎだ女神!!!!!


「だ☆か☆ら☆ 君みたいはずれガチャはポーイする決まりなの★ 異世界で勇者になれなかった廃人の墓場、こわ~~~い魔物のうごめくダンジョンにね♡」


「や、やめろぉおおおお!」


「ワンキルされてきてください☆」


 本当に処理するつもりか!? 女神が指をパチンと鳴らした時だ。


 ブゥン……!


 再び俺の足元には魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣が強く輝くと、俺の姿は次第に消えていく――


 俺は女神を睨みつけた。

 だが、女神は俺を見ていない。


 捨てるゴミに見守る価値もない。

 ゴミ箱の中のゴミを見返す意味もない。

 そんな冷徹な態度。


「ちくしょぉおおお!」


 がしっ――


「ふえ……?」


 俺は咄嗟に、頭上にいた女神の足にしがみ付いた。

 女神は虚をつかれたように間抜け面だ。


「俺一人だけ終わってたまるかぁあ!」


 転送中の魔法陣の輝きがピークに達する。


「は、離しなさいっ!! 誰の足に抱き着いてる!」


 足蹴りして俺を引き離そうとする女神。


「私のフェロモンで馬鹿になっちゃったのかなゴミ虫!」

 

 じゃあ、お前の足がフェロモンを出してるのが悪い!


「この私を誰だかわってるのっ!?」


「ゴミ虫にだってゴミ虫なりの意地があるんだ!」


 魔法陣の中で俺と女神の姿が淡く消えかかる。



「女神。地獄まで一緒に来てもらうよ……?」


「い、いやだ……。このスズカ・キウイ御前が……なんでこんな奴と――――」



 どうやら女神は見栄を切りそこねたようだ。

 魔法陣の輝きが収束する頃には、俺たちを完全に転送終えていた。



 ……。

 …………!


 強烈な光の中で気が遠くなったと思えば、気が付くと暗い洞窟の中にいた。

 ここが女神の言ってたダンジョンなのか。


「おい! はずれガチャゴミ虫!」


 なんだその得体の知れない虫は!

 

「女神! お前も一緒だったのか!?」


「君のせいで私まで『下界』に落ちてしまったのよ!!! 何百年ぶりかしら。下々の空気を吸うの……」


 いや、お前が何百歳なんだよ。


「女神さ……」


 不健全なミニスカ風の袴から伸びる健康的な女神の足。

 さっきまで抱き着いてた記憶が蘇り、俺は思い付きで口走ってしまう。


「……案外、『大根足』だよな?」


「殺す!」


 物騒な予告を去れたところで、背後から物音が響く。

 暗い洞窟の先からざわざわとうごめくたくさんの影が見えた。


 キー! キーと猿のような甲高い鳴き声。

 緑色の肌、背の低い体形に、長い鼻と額の角……。

 片手で棍棒を担いだ小鬼とくれば!


「まさかゴブリン!?」


「ウイ(そうよ)」


 =====

 ■ゴブリン

 Lv.15

 役職:フロアの兵隊

 体力:70

 攻撃力:30

 =====


 創作物では主に雑魚キャラに扱われているけど多勢に無勢。なによりも……。



「こ、こっちは無能のGランクだぞ!?」


「お前の方が雑魚だ」


 黙れぇえ女神ぃ!

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