第3話

――えええっ?

そのなにかは、動物ではなかった。

かと言って人間でもない。

身体、というか胴体は熊そのものだ。

しかし手や足は、胴体に合わせるかのように実際のものよりも大きく長くなっていて、一見してバッタかカニの足のようにも見えたが、よく見るとそれはどう見ても猿の手と足だった。

そして胴体の上に人間の頭があった。

その顔は、青白い桑子の顔だったのだ。

顔は僕を見ていなかった。

――!

僕は静かに、そして素早くその場から逃げた。

少し離れたと思えるところで振り返ってみたところ、その化け物の小さくなった背中が見えた。

僕はそこから全力で走った。

山の中の道ではないところはとにかく走りづらかったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

そのままじいちゃんの家まで止まらずに走った。

後で考えたら、あの距離を全力で走り続けるなんて、そんな体力が僕のどこにあったのかと思うほど、異常なことだった。

「どうした?」

血相を変えて走ってきた僕を見て、じいちゃんが言った。

その声を聞いた瞬間、僕は気を失った。


気がつき、じいちゃんに何があったのかを聞かれた。

僕が正直に答えると、じいちゃんは嬉しそうに笑った。

「そうか。あいつやっぱり、クソさこになったんじゃな。山の神様の罰が当たったんじゃ。熊と猿を何匹も殺したからな。当然のことじゃ」

そう言うと、再び大笑いをした。

あの化け物を、クソさこと言うのか。

馬鹿笑いしているじいちゃんは、僕にはとても恐ろしく見えた。

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